第百十九話 聖女と見紛う
外観が大きければ内部も荘厳である。色々な祈りがあるのだろう、町人や旅人、様々な礼拝者が数多くおり、神竜ネフィラスの像にそれぞれの思いを捧げていた。ステンドグラス、像の台座など、サキとセイラの教会のものとは、立派さが全く違っている。公と住居も兼ねた個人の教会との差だろう。
「ライネル教会へようこそ。ご礼拝をなさいますか?」
「はい。三人で礼拝します。あそこで並べばいいのでしょうか?」
「はい、そのようになります。その前に、礼拝のご記帳をお願いできますか?」
公の教会であるため、受付をしている修道女がいるようだ。若く清楚な女性で、サキとセイラが着ている浅黄色の修道服を見て何か感じ取ったのか、「とても素晴らしいお召し物ですね。神聖なものを感じます」と、記帳中に微笑みながら俊也たちに伝えている。大教会で働いている彼女は、相応の聖なる力を持っているのだろう。
記帳を済まし、礼拝待ちの列に並んでいると、しばらくして俊也たちの順番になった。サキとセイラは跪き、俊也の身と俊也との旅の無事をネフィラスへ敬虔に祈る。不乱に祈る二人の美しさは、俊也のみならず周りの誰もが息を呑んでおり、聖女が降臨したかと見紛うほどである。危うく俊也は自分が祈ることも忘れかけており、慌てて像へ祈りを捧げた。
ライネルの大教会は彼女たちの礼拝が終わった後もまだざわついている。目立ってしまい、居づらくなった俊也たちは、なるべく早くこの場を立ち去ることにした。
「サキ、セイラさん……」
「なんです? 俊也さん?」
「どうなさいました?」
これ意外で適当な言葉が見つからず、言おうかどうか俊也は迷っているが、
「美しすぎました」
素直にこう伝える以外、他になかった。俊也に直接「美しい」と容姿を言葉に出して褒められたことは今までなかったので、サキもセイラも顔を赤らめ、彼女たち自身もよくわからなくなっているくらい上機嫌である。
その後、なぜか三人とも口数が少なくなり、町の見物は程々にして、早目に宿へ戻っている。話は少ないながら、宿へ戻る間、サキもセイラも俊也の手を離さなかったようだ。
翌日も町の散策を続け、一行は十二分に観光気分を楽しめた。昼下がりに宿へ戻ると、ギルドからの使いが来ており、セイクリッドランドへのつながりがうまくできたことを聞けた。上々である。
ここから本格的な俊也の旅が始まる。タナストラスを救える存在に自分はなるのか、今はまだ自問している最中だが、彼ならきっと、その何者かになることができるであろう。