第百十八話 無理な笑顔と季節は進み
ランドタートル討伐後の帰路、サキがこんなことを言っていた。
「怪我しませんでしたね。俊也さんは危ないところばかりに行くから私も慣れてきちゃいました」
セイラも同様なことを思っているようで、素直にそのまま言葉に表した妹を見て微笑んでいる。俊也はそう言われた時、明るく振る舞う彼女たちを立ち止まって見ていたが、その笑顔に少しばかりの無理を見出した。それはそうだ。好きな男が次々危険に飛び込んで行くのを見て、不安に感じない女はまずいないだろう。旅について行く以上、それを悟られまいと彼女たちは努めているのだ。
(俺も死ぬつもりはないが、サキとセイラさんのためにもそうならないようにしないと)
彼の若さにおいて非常な決意を帯びた考えだが、美人姉妹の微笑みに対して笑顔で返しながら重い責任を俊也は感じていた。
首尾上々でギルドの依頼を成し遂げた一行は、コルナードから奮発した歓待を受けている。俊也は完全にコルナードの信用を得たようで、ランドタートルを討伐したという報告を周囲で聞いたギルドの荒くれ者たちも、年若い紅顔の彼に、一目も二目も置くようになった。
「これ以上ないな! よくやってくれた! 早速、セイクリッドランドへ早馬を出す。それが帰ってくるまでライネルでゆっくりしておいてくれ」
上機嫌でコルナードは手配を行い、俊也たちの宿もまた、ギルドの支払いで2日程取ってくれている。その間に早馬の使いが帰ってくるということだろう。
2日間全く自由な時間ができた俊也とサキ、セイラは、まだゆっくり散策と見物ができていなかった港町ライネルを歩くことにした。美人姉妹はとっておきである浅黄色のワンピースに着替え、俊也の隣を歩いている。東の大陸の玄関口であり、往来の街路はとても賑やかだが、ここでも素晴らしい服を着た彼女たちの美しさは皆の目を引いている。
カラムの町を旅立って、日付が進んだ。東の大陸でも季節は秋になっており、空は高く暑さは和らぎ過ごしやすい。日本でサキが話した時、天候不順もタナストラスでは起こっていると言っていたが、それはまだ目立ったほどではないように思える。
「セイクリッドランドに大聖堂があるのは知っていましたけど、ライネルにもこんな大きな教会があるのですね」
セイラが見上げているのは、カラムの教会の3、4倍はあろうかと思われる大教会だ。コルナードや町の人から話を聞き、それなら一度礼拝をしておこうと、三人で来てみたのである。