第百十七話 大亀の甲羅
大型ランドタートルのこちらに来る動きは緩慢とは言えなかった。亀ながら走っている。そのスピードは俊也にとって意外だったが、さらに悪いことに、主の亀の周りにいたランドタートルの内、二匹がこちらに向かってきている。
俊也は三匹を相手にしなければならなくなった。ランドタートルたちの動きを感覚で予測しつつ、一匹一匹を斬れるように距離を測りながら移動し、刀を構える。
「おおおぉぉお!!」
主は後に回し、二匹のランドタートルの首に気合声と共に斬撃を与える! 俊也の攻撃は正確であり、一匹目、二匹目共に仕留めることができたが、それでも甲羅の一部分へ刃が食い込み、次へ次へと行動を移すのが普段の戦闘より難しく、俊也は一瞬の焦りを覚えた。
(やりにくい……だが、後は主の亀だけだ)
刃こぼれがない刀身を素早く確認し、構えを整えつつ大型ランドタートルも斬ろうとしていたが、仲間が仕留められたことに危険を察した主の亀は、こちらに近づくのをやめて、甲羅の中に体をすっぽり隠してしまった。手も足も首も出していないため、こちらも手も足も出ない。この大きな甲羅ごと主の体を斬るのは流石に不可能だろう。
「まずいな。こいつの仲間が集まってくるとどうにもならなくなる」
ランドタートルは周囲にまだ相当数いて、今の異変に気づき始めている。一斉にこちらへ集まって来たら太刀打ちは無理であろう。
俊也は少しだけ考えたが何かをすぐに思いつき、魔力の集中を始め、
「ファイア!!」
大型ランドタートル目掛けて高熱の炎を放った! 炎の塊は直撃し、あまりの熱さに主の亀は引っ込めていた手足も首も出して、もがきまわっている。
(いましかない!)
好機を逃さず大型ランドタートルとの距離を一気に詰めると、正確に狙いをつけた斬撃を大亀の頭目掛けて打ち下ろした! ずっしりと命中し、致命傷に近いダメージを主は受けたが、最期の力を振り絞り、右手の鉤爪で俊也の脇腹を引き裂いてきた!
「はっ!!!」
吹く風も切れるかというほどの攻撃だったが、俊也は寸前で身を引いてかわし、渾身の一撃が空回りで体勢を崩した主に対してとどめを刺す!
戦いは終わり、動かなくなった大きな甲羅と共に、主の亀の遺骸が残っている。周りのランドタートルは群れの主が絶命したことに気づき、川から皆去っていった。これでしばらくランドタートルによる被害はなくなるが、俊也は主の遺骸を見ながら釈然としない心情が少し浮かんでいる。
(やはり瘴気によるものだろうか)
わずかながらに周囲に感じられるそれが、俊也には気になっていた。