第百十五話 抜き身の魔性
刀の抜き身をよく観察した後、十分コルナードは納得すると、
「どこで手に入れたか知らねえが、すげえのを使ってるな。荒くれ者の相手をしてきた俺でも、そんな吸い込まれそうな刃はそうそう見たことがないぞ」
「吸い込まれる……ですか」
今まで考えないようにしていたが、俊也も自分の刀にその感覚を持っている。ともすれば取り込まれそうなほど、刀身が美しいのだ。しかし、自身の心が刀に支配されたらそれまでと、彼は分かっている。
(うまくこいつと付き合わないといけない)
我が身を助け、守る刀だが、魔性の面を抑える。俊也は今まで誰にも言っていないが、それに腐心していた。
「ともかくだ。その得物ならランドタートルにも十分歯が立つ。それに加え、お前さんの腕は折り紙付きだ。依頼を受けてくれれば報酬として、タダで馬車と馬を貸し出すし、セイクリッドランドまで早馬を使って、法王がいる大聖堂と城下町のギルドへ先に連絡を取ってもやれるぞ」
「分かりました、ありがとうございます。依頼を受けます」
「お前はさっと決められる奴なんだな。大したもんだ。じゃあ頼む」
俊也はその性質故か、人に認められる魅力を持っている。コルナードは彼の態度と返答にすっかり満足し気に入ったようだ。
「おっと、忘れるところだった。ライネルに着いたばかりでくたびれてるよな。海辺に宿屋があるんだが、そこを取っておいてやろう。金はもちろんギルド持ちだ。そのべっぴんさんたちとゆっくり休みな」
「宿まで……本当にありがとうございます。ただ、セイラさんとサキは……」
「なんです? 私は俊也さんの女ですよ」
「わ、私も俊也さんの女よ!」
海賊のバルトとの邂逅や、ギルドのやさぐれた雰囲気にあてられたからか、セイラは気分が乗ってしまい、少し悪い奴の女をここで公言してしまった。落ち着いた姉がそんなことを言うとは思ってもいなかったサキだが、負けじと彼女も悪い俊也の女を宣言する。
(……またややこしいことになった)
女性が積極的すぎるタナストラスで女難が尽きない俊也は、ここでも頭を抱えている。
言われたとおり海辺の宿でさざなみの音を枕によく休んだ俊也たち一行は、翌朝、早速ランドタートル討伐に向かっていた。セイラとサキは宿に残しておくつもりだったのだが、
「私たちは悪い男の女ですからついて行きますよ」
と、昨日のギルドを引きずっており、まだ二人共悪乗りしている。俊也は「もうそれなら任せます」と、美しいじゃじゃ馬たちを諦め気味に連れて行く以外なかった。