第百十三話 港町ライネルのギルド
西と東の大陸を繋ぐ海の玄関口であるライネルの港町は、船から降りた途端、とにかく賑やかである。色々な髪の色をした人々が歩いているのは、タナストラスでは共通のことだが、それぞれの人々が着ている服は全く一様ではない。ザイールのように商人風の格好をした者もいれば、剣を腰に下げた冒険者もいる。皆、ここに来た目的が様々で、それが往来の活気を上げているのだろう。
「おっと、見えるものが珍しいから何をするか忘れるところだった。この町のギルドへ行かないとね」
「そうですね。ザイールさんから貰った紹介状をギルドの責任者へ渡しに行きましょう」
出港前にいたトラネスの港でも、船着き場への道に並ぶ出店の種類と数が大したものであったが、ライネルは完全に港と町が一体化しており、並ぶ出店もトラネスの港の比ではない。俊也の射幸心はそれらに惹かれて仕方がないが、「今はギルドに行くんですよ」と、セイラとサキが目移りする子供をあやすように引っ張って行った。
俊也を引っ張りながら、一行はどうにかこうにかギルドにたどり着けた。ギルドの造りはタナストラスで万国共通なのか、カラムで見たその建物とほぼ同じ石造りで、頑丈でしっかりしている。
「うん。なんか懐かしい気がするな。テッサイさん元気にやってるかな」
「元気にカラムを守ってくれてるでしょうね。とにかく入りましょ」
どうも東の大陸に来てからのんびり気味の俊也である。ぼんやりギルドを見ていたが、サキに手を引かれてようやく中に入って行った。
荒っぽい仕事を請け負う者も多いギルドである。カラムでもそうであったが、ライネルではそれを一回り広げたような荒くれ者たちが中に陣取っている。しかも、ここでは悪いことと言うべきか、セイラもサキも非常な美少女である。俊也たちは彼らに好奇の目で見られざるを得なかった。
「ガキがそんなベッピンを二人も連れて入っていいところじゃねえぞ。帰んな」
そんな中で幸運と言っていいだろう、ギルドの受付奥で座っていた、責任者と思しき男がこちらへ来て話しかけてくれた。壮年近いがそこまでの齢ではなさそうだ。だが、明らかに周りの荒くれ者たちから一目置かれ、統制することができるカリスマ性を、彼からは感じ取ることができる。
「すみません。ですが、用があって来たんです。交易商ザイールさんからの紹介状を持ってきました。見てもらえますか?」
「何? ザイールからだと?」
ザイールの名が利くのが本当であるようだ。思いがけない名が出て驚いた表情を見せた責任者の男は、紹介状を受け取ると中身をじっくり読み始めた。