第百十二話 東の大陸への到着
俊也と加羅藤美人姉妹が乗る蒸気船は、白鷹団の海賊船から護衛を受け、残りの航海日数を無事にこなすことができた。
「おーい! 陸が見えてきたぞー!」
視認台から望遠鏡を使って、船が行く前方の遠くを確認していた船員が、よく通る少し高い大声でみんなに知らせる。俊也は本当か見てみようと甲板に出てきたが、しばらくは陸地が現れなかった。だが時間がいくらか経つと、果たして、水平線ではない陸の線が徐々に前方へ現れてくる。目的地セイクリッドランドが存在する東の大陸である。
「やっと見えてきましたね~。長かった~」
「ふふっ、そうね。船着き場の港町はどんな所なんでしょうね。楽しみだわ」
サキとセイラの肝が座っているのは、先刻承知どころではない俊也である。彼女たちには、長旅の不安より好奇心が先に来るだろうとハナから知っていたが、予想通りで俊也はホッとしていた。優しい彼の心には、サキとセイラを連れてきた一抹の不安と後悔があったのだが、それも杞憂として飛び去ってくれたようだ。
「楽しみだし、これからが本番さ。よし! 行くぞー!」
珍しく小さい子どものように、はしゃぎを含んだ声を俊也は上げた。美人姉妹はちょっと驚き顔を見合わせたが、すぐに笑って「「はい!」」と、これもまた元気な声で二人とも返している。
陸が肉眼で見えるようになってから、またしばらく蒸気船は航行し、東の大陸の玄関口、ライネルの港町に到着した。白鷹団のバルトが率いる海賊船も、港町にあるアジトに接舷したようで、今は客を乗せてきた蒸気船の船長から報酬を受け取るために、船を保有する商会の支店へ話をつけに行っているらしい。
「よし! ここでちょっとお別れだな。また近い内に会うだろう。それで、餞別と友好の印として、こういう物を作っておいたよ」
俊也と話しているのは交易商人ザイールである。彼は俊也と友好的な関係を深めていきたいと考えており、ライネルとセイクリッドランドのギルドで利く、特別な紹介状をしたためてくれていた。
「これは……本当にありがとうございます。ですが、いいんですか? 僕たちは今、何もお返しできませんよ?」
「いいんだいいんだ。君たちが返せないと思っていても、そのうち何倍にもなって、私は御礼をもらうようになるよ。君たちが気づかないうちにね」
「???」
「はっはっはっ! とにかくいいんだ。私は本当にこの辺りで顔が利く。まず、この港町のギルドへ行き、それを見せなさい。先がはっきりと開けてくるよ」
伝えたいことは言ったのか、「じゃあまた会おう」と、言い残し、ザイールは賑やかな往来がある、街の雑踏へ消えていった。