第百十話 雷弓のバルト
まさに電光石火の矢は、一直線にシーグリフォンの胴体に突き刺さった! 断末魔の鳴き声を上げることもなく、大鷲の頭は意識を失い絶命する。空中にある怪物の巨躯が、海に向かって加速度的に落ちていき、そして大きな水柱と共に着水した。一撃である。
「すごい……」
一撃必殺の射撃に、俊也はただ呆然としていた。樫木坂高校で弓道部の練習を見たこともあるが、そのような比ではない。弓による一撃というより、とてつもない兵器による射撃を目の当たりにしたというのが適当だろう。
「よっしゃあ! 見ろ! 一撃だぜ!」
「さすがバルトの頭! すげえや!」
「はっはっはっ! 当たり前だ! おう、あの鷲頭を回収するぞ! いい金になる!」
どの声も大声なので、俊也にも、白鷹団の頭目がバルトという名前であるのが聞き取れた。バルトに興味を持ち、会ってみたいと思ったが、どのみち報酬の話をつけるため、こちらの蒸気船に乗り込んで来るはずである。俊也は刀などの装備をしまい、近くにいる船長と話をつけた後、一旦、客室に戻ることにした。
シーグリフォンの頭部の回収も終わり、バルトとその部下数名は、俊也たちが乗っている蒸気船に来ている。
「おう! お前さんはあの怪物相手に頑張ってたよな。見てたぜ。なかなかのもんだ」
「時間稼ぎにしかなりませんでしたよ。バルトさんと言われましたか、あなたの大弓は凄い! 一撃だった」
「はっはっ! ありがとうよ! 褒められるのは悪い気がしねえが、あれも外したらヤバかったんだぜ?」
「えっ、どういうことなんですか?」
「まあ、後で話してやる。今は船長と報酬の話が先だ」
バルトたち白鷹団一味は、船長室にいる。報酬の交渉のためだが、そこに俊也は立ち会わせてもらっていた。剣士として、凄まじい雷弓の使い手と会ってみたかったからだ。バルトも俊也の活躍を見て、一目置いていたらしく、初対面ながら見知った者同士のように、お互い印象が良い。
「20000ソル出して貰おう。東の大陸までの警護料込だ」
「む……。かなりだな。15000で何とかならんか?」
「おいおい。船と客が助かったんだろ? 20000なら安いもんじゃねえか? それとも何か?」
言葉を切り、穏やかだった顔をバルトは一瞬で鬼面のように変え、
「客ごと引っさらってやろうか?」
凄んで船長を睨めつけた。この辺りの駆け引きも手練である。船長は慌てて青ざめ、首を縦に振る以外の選択肢がなくなった。
傍らで見ていた俊也は、ますますこの壮年の頭目に興味を覚えている。