第百九話 白鷹団
船首へ狙いをつけたシーグリフォンがスピードを上げて近づく。異形の大翼がそれにのしかかるのは、もう間もなくである。その間、船長や船員達も手をこまねいているわけではない。
「今だ! 撃て!」
船長の号令と共に、数人の船員が弓と小銃でシーグリフォンを迎え撃つ。しかし、戦闘に慣れているわけではない彼らの射撃は、怪物にかすり傷を与えただけだ。だが、威嚇にはなり、シーグリフォンは少しひるんだ。
「やはり緊急の武器じゃあ付け焼き刃か……」
「俺が行きます!」
ひるんだ怪物の隙を見逃さず、俊也はシーグリフォンとの距離を一気に詰めると、ファイアの魔法を胴体目掛けて撃ち込んだ!
「ピィーッ!!!」
大獅子の胴体に高熱の火球が命中した。猛禽特有の声を発し、シーグリフォンは一時苦しんだが、まだまだ致命傷ではない。そして体勢を立て直すと、俊也の頭に目掛け、強靭な鉤爪をのし掛けてきた!
(くっ……!!)
寸前でかわせたが、かぐってくる爪の速さは尋常なものではなく、甲板の一部が紙を破ったようにえぐれている。俊也は冷や汗をかいているが、即座に体勢を取り、すぐ横手にまだいるシーグリフォンを素早く斬りつけた!
「ピィーッ!!」
小回りを利かせて斬った分、負わせたのは浅手である。鷲頭の怪物は死の危険を感じ始めたのか、空中へ戻り距離を十分取り直した。まだしつこくこの船を狙っているようで、空で俯瞰しながらこちらを窺っている。
歴戦になってきた俊也だが、空の敵は初めてで分が悪い。戦況は膠着すると思われたが、
「おい! そこの船! 助けてやってもいいぜ!?」
戦闘の最中で気づいていた者は少ない。白鷹の旗を掲げた、一隻の大きくいかつい蒸気船が、船腹から程ない海へ近づいていた。ひと目でならず者の船とも分かる。その中で、壮年の目をギラギラさせた首領と思しき男が、余裕の笑みを浮かべながら助け舟を貸す取引を持ちかけてきた。
「白鷹団の輩か……背に腹は代えられんな」
ならず者達は白鷹団というらしい。船長は一瞬だけ迷ったが、すぐに決め、
「助けてくれ! 報酬は望むものを出す!」
壮年の首領に大声でそう返答した。爛々とした目の首領はこの非常時に哄笑しながら、ならず者達にシーグリフォンへもっと船を近づけるよう指示を出した。
「報酬を楽しみにしとくぜ! なーに、一発で仕留めてやる!」
十分にシーグリフォンへ近づくと、傍にある見事な青色の大弓に矢をつがえ、首領は魔力を込めた集中をそれに込め、稲妻の速度で矢を放った!