第百八話 シーグリフォン
白海は変わらず凪いでいて晴天の朝である。穏やかに感じられる二日目の航海だが、船長を始め、船員達の様子がどことなく落ち着かない。何かを恐れ警戒しているように見える。
「どの船員さんも海のあちこちを見てますね。昨日はそんなことなかったのに」
「今日は気をつけなければいけないことがあるのかしらね」
サキとセイラは甲板に出て、せわしなく海の様子を窺っている彼らを見ているが、差し当たって辺りの海域の変化は加羅藤姉妹に感じられない。
「俺たちには分かりそうにないな。船長に話を聞きに行くよ」
俊也は小首をひねって考えるのをやめ、船長室まで理由を探りにいった。
甲板上の船長室では、難しい顔をしている船長が海図を見ていた。緊張とも警戒とも取れる、自分を引き締めた表情だ。
「船長、今日はまずいことが何かあるんですか? 船員さんたちもみんなそういう顔をしています」
「おおっ?! ああ、君だったか……急に入って来たんでびっくりしたよ」
緊張で余程、集中していたのだろう。ドアが開いていたからノックせず俊也は入ったのだが、隣に立ち声をかけるまで、船長は彼に全く気づかなかったようだ。
「君は優秀な剣士だ。可能性としてないと言えないし、話しておこう。今、航行している海域に、小さな島や岩礁がポツリポツリとあるのに気づいたかい?」
「小島ですか? ああ、そういえば……あまり気にしていませんでしたが」
「うん。それらを住処にしている厄介なモンスターがいてな。大鷲の翼と頭を持ち、下半身は大獅子のシーグリフォンという魔物だ」
「シーグリフォン……空を飛びますね」
「そうだ。もっとも、船が白海を渡っていても興味を示すことは少ないのだが、やってくる場合もある。それでこんな顔をしているんだよ」
船長は緊張顔を続けていたが、俊也と話せて気が少しほぐれたのか、少しだけニッと笑ってみせた。俊也も笑顔を返しながら、
(なるほどな。これは俺も戦う用意は作っておいた方が良さそうだ)
戦闘の心づもりを既に整えている。
船の各員が落ち着かない理由がはっきり分かったので、俊也はセイラとサキが居る甲板へ戻り、事情を話していた。すると不意に、
「まずい! シーグリフォンだ!! こっちに来るぞ!!」
と、船員が船先の水平線までの途中にある、小島を指して叫んだ。遠くからでも大きさが分かる異形の大翼が、少しずつ影を広げつつある。
俊也は船室に戻り、急いで戦闘装備を整え、再び甲板に出てシーグリフォンを迎え撃とうとしていた。