第百七話 強力なつて
「なるほど、レオン法王から直々の依頼か。それは大役だなあ」
「ええ、俺も法王の所まで自分の噂が届いているとは思っていませんでした」
「いや、君は凄い剣士だよ。マズロカのハイオークまで倒すとはな。村の人たちも大喜びだったろう?」
「はい。よくわからないんですが、英雄のように祭り上げられてしまいました」
「そりゃそうさ」
相性が良いからか、俊也とザイールはもうすっかり昔馴染みのように会話が弾んでいる。お互いに、これは信頼ができる良い人に出会えた、と思いながら、四方山話から重要な事柄まで大方の事を話していた。
「それに、イットウサイ先生の師匠だっけ。また凄い人を紹介してもらったもんだな。トラネスで一番の剣術家の先生に、御師さんがいるとは驚いたよ。どれだけ強い人なんだろうね」
「はい。俺もノブツナ先生にお会いできるのを楽しみにしています。ですが、ノブツナ先生はセイクリッドランドのどこに居るのか全くわからないそうです。それがやや不安で困っています」
俊也の師の師をノブツナと呼んでいるのは、イットウサイがくれた紹介状に名前が書いてあったからである。ザイールに心許した俊也は、既にこの好青年の交易商にその書を見せていた。
「なるほど、よし分かった。私はセイクリッドランドではいくらか顔が広く利く。ノブツナ先生がどこに居るかの手がかりを探しておいてあげるよ。君が気に入ったから礼はいらないよ」
「本当ですか! ありがとうございます! どうしようかと考えていたので千人力です!」
「はははっ! 君にはどんどん強くなっていって欲しいしね。時間はかかると思うが、何とか探せると思うよ。手がかりが見つかれば、セイクリッドランド城下町のギルドへ便りで知らせよう。時々、確認しに行ってくれ」
「はい! 本当に心強いです」
思わぬ強力なつてを得た俊也である。ザイールは彼を大いに気に入ったのだが、そこは目ざとい商人なので、きっちりと俊也に手を貸す利益も考えている。俊也とつながりを持つことと、元々優秀な剣士である彼がさらに強くなっていく将来性に先行投資するようなつもりなのだろう。
その後もう少し談笑を続けた後、二人はまた話す約束をして別れ、俊也はセイラとサキが休んでいる客室に戻っていった。航海の一日目は穏やかな波を順調に横切っていく形で終わり、晴れた夜の月明かりが大海原を行く蒸気船を照らし、道を示していた。ゆりかごのように船室で揺られて眠る俊也たちの顔も、窓から見える月が優しく見守っている。