第十話 しとやかで清楚で妖艶
教会の内部はステンドグラスの装飾が美しく天井まで吹き抜けになっている。何か観光に来たような気分になり、俊也が荘厳な造りに見とれていると、サキは教会内で何人かの子どもたちに本を読み聞かせている、黒髪の女性の方へ駆け寄るように歩いていった。
「ただいま姉さん。なんとか無事に帰れたわ。救世主様も探し出せたわよ」
サキは俊也にこちらへ来るように手で促したので、彼は台座に大きな十字架が載せてある側にいる彼女たちの方へ、ゆっくりと歩いて近づいた。
「あなたが救世主様なのですね……私はサキの姉でセイラといいます。タナストラスにお越しいただき本当にありがとうございます」
セイラは快活なサキと比べ、ややおっとりとしていて清楚な印象を受ける。姉であるのでサキと容姿は似ているが、セイラにはしとやかな美しさを感じる。いずれにしろ美人姉妹だ。
「ふふっ。それにしても、優しい目をしたかわいい救世主様ですね」
セイラはサキとはそんなに齢が離れていず、1、2歳上なだけだろうと見えるが、彼女には高校1年生で少年の幼さが残る俊也が可愛らしく映ったのかもしれない。
「はじめましてセイラさん。俺は矢崎俊也といいます。何ができるかはまだ分からないけど、この世界で頑張ってみます」
挨拶をしてセイラの目を俊也は見てみたが、
(あ……この人はひょっとすると……)
彼女の清楚でしとやかな目の奥底に秘められた妖艶さを彼は見逃さなかった。どうもその妖しい眼差しは初対面の俊也に向けられているもののようだ。朴念仁で堅い彼だが男女関係なく、人の感情や性質を見抜く機微を俊也は身につけている。
「……ダメよ、姉さん……」
俊也の勘はやはり当たっているらしく、姉の様子を悟ったサキは、彼らの間に割って入るようにして姉を咎めた。
「あらあら、いけないわ。俊也さん。この教会は私達の住居と一緒になっているんです。奥の扉から入ると、そこに行けるんですよ。今は母がお昼ごはんをキッチンで作っています」
セイラは妹の咎めをサラッと流すように話を変えて、俊也に住居部分の案内をしようとしている。何とも言えない表情で、彼は美人姉妹のやり取りを見ていた。
「俊也さん……姉には気をつけて下さい。かなり男の人が好きなんです」
その場からセイラが扉の方へ離れたのを見計らって、ぼそっとサキが俊也に耳打ちで忠告している。
(サキも結構積極的だけど、姉のセイラさんはその上を行くのか……)
どうも異世界の女性の感覚がまだつかめていない俊也だが、セイラの案内に従い住居の方へ行ってみることにした。