第72話 クリスマスパーティー準備
五時を回った頃に喫茶店のドアが開いた。海斗と仲間達が入って来た。
「マスター、今日は宜しくお願いします」
「おっ、えー?! 伏見君、未だ一時間も早いよ。時間、間違えちゃったかな?」
「いや、壁に飾り付けをしようと思って、早く来ました」
「ああ、そう言う事ね。どうぞ入って、幸乃は着替えをしているからね」
すると海斗グループはぞくぞくと入店した。皆はマスターと挨拶を交わした。一階の騒がしい音を聞いて、森幸乃も慌てて降りてきた。
「皆、いらっしゃい! 早いのね」
海斗は森幸乃に答えた。
「ハロウィンのように、壁を飾ろうと思って早く来たんだ。幸乃さん、素敵な服だね」
森幸乃は赤くなった。
「有り難う、海斗君も格好良いよ」
松本蓮は壁を指した。
「ねえ、幸乃さん。ここにペーパーチェーンを架けても良いかな?」
「うん、好きに貼っていいよ」
たんたんと壁は装飾された。森幸乃は海斗に話し掛けた。
「ねえ海斗君、このペーパーチェーンはどうしたの?」
「実は俺も知らなかったんだ。例の問題で時間を取られていた時に、梨紗と美咲と莉子が作っていてくれたの」
「華やかに見えて良いわねー。海斗君の仲間は凄いね、みんあ役割が出来ているのね」
森幸乃は感心をした。
葵が森幸乃の前に現れた。
「幸乃さん、ご無沙汰しています。いつも兄がお世話になっています」
「あら葵さん、夏に有った時よりも綺麗になったわね」
「有り難う御座います。それとですね、もう一人。おーい陽菜!」
中山陽菜が歩み寄った。
「中山さんの妹、陽菜さんです」
中山陽菜は緊張をしていた。
「あ、あの、初めまして。中山陽菜です。今日は宜しくお願いします」
「ああ、中山さんの妹さんね。海斗君から聞いているわ。来年受験をするんでしょ。私とは入れ違いねー。私は森幸乃です。宜しくね」
挨拶を終えると二人は飾り付けに戻っていった。
海斗は小野梨紗、中山美咲、林莉子にねぎらった。
「ペーパーチェーンのお陰で、とっても華やかになったよ。作ってくれて有り難う」
林莉子は誇らしげな顔をした。
「そうでしょ! 海斗達が忙しくしていた時に、やれる事を考えたのよ!」
小野梨紗も自慢げに答えた。
「お花の紙飾りは私が作ったのよ。凄いでしょー!」
「うん、凄いね。とっても華やかだよ」中山美咲も続いた。
「ホントはね、作り始める前に相談をしようと思ったの。でも驚かそうと思って、内緒にしていたのよ!」
「うん、とっても驚いた。サプライズ成功だね!」
彼女達は満足げに微笑んだ。
すると海斗は背中を引っ張られた。
「おい伏見! 目を離すと、すぐこうだから油断も隙もないのよね!」
「あれ? 陽菜ちゃん、普通のしゃべり方になっているよ」
「うるさい伏見、暗黒からレッドアイブラックドラゴンを召喚してやろうか!」
中山美咲は陽菜の頭にゲンコツをした。
「伏見さんでしょ! もー、何度も言わせないの」
海斗は笑い、陽菜はホッペを膨らませた。
喫茶店のドアが開いた。
「皆さん、ご機嫌様」
フェリサの二人がやってきた。皆は一斉に返した。
「ご機嫌様!」
葵と陽菜はあっけに取られた。すると桜井メイは海斗を見付け正面にたった。
「伏見君! 今日も格好良いね。どお? 私の服、似合っている?」
海斗を慕う女の子は手を止め、桜井メイを見た。
「桜井さん、可愛い服だね。良く似合っているよ」
葵は歩み寄り海斗の腕を引っ張った。
「お兄ちゃん、この人、誰ですかー? ちょっと慣れ慣れしいですよ!」
皆は小さく笑った。葵のブラコン愛が始動したのだ。
桜井メイは思いついた。
「あ~、あなたね。伏見君の妹さんは、噂通りなのね」
稲垣京香は挨拶をした。
「葵さんね、ご機嫌様」
「……」
稲垣京香は繰り返した。
「葵さん、ご機嫌様」
海斗は葵に耳打ちをした。
「ご機嫌様と言われたら、ご機嫌様で返すのがお嬢様のたしなみなんだよ」
葵は知らなかった。慌てて言ってみた。
「ご、きげ、ん、よう」
やはり、第一声はぎこちないのだ。稲垣京香は続けた。
「葵さん、彼女は桜井メイ、私は稲垣京香ともうします。宜しくね」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします」
稲垣京香は飾り付けを見て話し掛けた。
「伏見君、素敵な飾り付けですね。私達も手伝わせて下さい」
「有り難う、それじゃあ、そこの壁をお願いします」
喫茶「純」はすっかり、パーティー会場に改装されていった。
開始時間の十分前に京野グループが入店してきた。京野颯太は早々に紙袋から花束を出して森幸乃に渡そうとした。
「幸乃さん、メリークリスマス!」
皆は森幸乃に注目をした。森幸乃は受け取らずに言った。
「もー、何でこのタイミングかしら! 渡すにしてもシチュエーションを考えてよ。後でやり直しね!」
森幸乃は笑った。京野颯太も苦笑をすると皆は笑い出した。
松本蓮も注意した。
「そうだよ、準備中だぜ。しかも皆が見ている所でさ。きっと買った時から渡す事ばっかり、考えていたんだろ!」
海斗も続いた。
「俺の知り合いでタイミングもシチュエーションも考えずに、露天風呂で壁越しにプロポーズした奴みたいだよ!」
仲間はゲラゲラ笑い、京野颯太と中山美咲は赤くなった。
海斗は皆を見回した。
「じゃあ、みんな揃ったから、始めようか!」
すると空気に緊張が走った。海斗はハロウィンパーティーの時と同じ席に座わると、すかさず海斗を慕う女の子は周囲に座った。そして森幸乃の隣には京野颯太が着いた。今回も遠藤駿は稲垣京香の隣に座り、それぞれの思惑が反映された。松本蓮と鎌倉美月は海斗のそばには座れず離れた席にとなった。
松本蓮は遠藤駿に小声で話しかけた。
「なあ、今回も京野から離れたんだな。おい、橋本さんの隣、空いているぞ」
「ああ、たまには良いんだよ。だって、ここには稲垣さんが居るからねー」
「なあ、田中もコッチに座って珍しいな」
田中拓海は陽菜の横に座っていた。
「僕は陽菜ちゃんと話をしてみたくて、それでね」
皆は積極的な田中拓海に驚いた。田中拓海は陽菜に話しかけた。
「ねえ陽菜ちゃん。僕の事、覚えている?」
陽菜は田中拓海の顔をじーと見て、そっぽを向いた。
「知らない!」
皆は笑った。田中は必死でヒントを出した。
「えー! ほら、うなぎの出前で会っているし、夏祭りでも会っているよね?」
「知らない!」
松本蓮は応援をした。
「田中、印象が薄いみたいだな。今日、覚えて貰えれば良いんじゃないか!」
中山美咲は心配をした。
「田中君、陽菜は個性が強いから、友達になるには根気が必要よ。ねー、陽菜!」
「もー、うるさいな! それじゃ田中、我がしもべにしてあげるわ!」
田中拓海はきょとんとした顔になった。
「しもべかー?! まあ、いいか。宜しくね、陽菜ちゃん」
皆は笑うと、中山美咲は黙って居られなかった。
「陽菜! もー、お姉ちゃんに恥をかかせないで。しもべもダメだし、田中じゃ無くて田中さんでしょ。お姉ちゃんに恥の上塗りをさせないでよ!」
海斗は二人に気遣った。
「美咲の心配は分かるけど、さっきは普通に話せていたし徐々に良くなるよ。ねえ、春菜ちゃん」
陽菜はホッペを膨らまし、そっぽをむいた。海斗はその顔を見て笑った。
「ハ、ハ、ハ、陽菜ちゃんがホッペを膨らました顔はお姉ちゃんにそっくりだね」
中山美咲は感情が顔に出てホッペが膨らんだ。海斗は再び笑った。
「ねえ、お互いを見てごらん」
二人は同じ表情をしていた事に気が付いた。中山美咲と陽菜はお互いの顔を見て笑った。
「はい、仲直り!」
海斗の仲介で腹の虫が治まった。