第53話 感 謝
海斗は葵が写ることで安心すると思ったが逆効果だった。
「もー! 何で解ってくれないかな! 葵とクッキー作りを教わった日に、エレンおばさんが喜んで泊まって行くように言ったの。しかも明子さんに電話まで入れて許可を取ったんだよ。俺の着てる寝巻きはおじさんのモノで、写真を撮っている所は、さっき勉強会をしたリビングだよ。風呂上がりに三人で座って写真を撮ったら倒れたんだ。その時にシャッターが切れたの。ほら、このラグを見てご覧よ、さっき座っていたラグと同じでしょ。それに俺はゲストルームで寝たし、葵は梨紗の部屋で寝たんだよ。どう? 理解出来た?!」
海斗は説明をすると、二人はようやく納得した。鎌倉美月は胸を撫で下ろした。
「は~あ、ホットしたわー!」
「海斗、俺は信じていたよ。美月さあ、京野の写真の時もそだけど、余計な心配をしたじゃん! 事情も聞かないで判断するのは、気を付けないとね」
「海斗が、あんな紛らわしい写真を撮るから悪いんでしょ!」
「俺が撮った訳じゃないし、表に出るなんて思ってもいないよ。だいち梨紗も思わないで飾っていたのだろうね。しかし梨紗も困ったもんだな。美咲に見付かったら大変だったよ」
「そうよ、感謝しなさい!」
すると海斗の肩に手がのった。
「何を感謝するの?」
海斗達は驚いて後ろを見た。
「えっ! 幸乃さん、いつから居たの?」
「今よ!」
海斗達はホットした。森幸乃は言った。
「それで、何に感謝するの?」
海斗はとぼけて言った。
「この間、美月が蓮にお弁当を作ったんだ。それで感謝しなさいって言っていたんだ」
「へー! 美月さん、頑張ったのねー、蓮君は美味しかった?」
「うん、美味しかったよ」
上手く話題が逸れた。四人は集まると喫茶純に向かった。
(喫茶純にて)
海斗はドアを開けた。
「こんにちは、マスター!」
「やあ、いらっしゃい伏見君、松本君、鎌倉さん、お帰り幸乃。幸乃にお客さんが来ているよ」
カウンターに京野颯太が居た。海斗は歩み寄った。
「も、もしかして、リクルートの話か?!」
「そうだよ! 幸乃さんに直接発表しようと思ってね」
森幸乃は祈るように両手を合わせた。
「幸乃さん、……内定合格です!」
皆は声を出して喜んだ
「キャー! 、わー!」
京野颯太は内定合格通知書を手渡した。森幸乃は喜び感謝した。
「有り難う、京野君! ようやく安心出来るわー」
「済みません、会社の都合が有って待たせしました。これからについては、他の内定者と同じ様に書類が届きます。書面に従って下さい」
海斗も頭を下げた。
「京野、有り難う。助かるよ」
「ああ、友達の頼みだからね」
海斗達も微笑むと、京野颯太は続けた。
「クリスマスの相談が未だのようだったから、マスターにお願いしておいたよ」
松本蓮も続いた。
「京野、有り難う」
「いや、そんな事ないよ」
京野颯太は用件を済ませると、早々と席を立った。
「じゃあ、僕は失礼するよ。ちょっと予定があってね」
皆は京野颯太を見送ると、彼は背中越しに手を振った。正面を向くのは照れくさかったのだった。
ドアが閉まると森幸乃はマスターの手を取り喜んだ。
「お父さん、ヤッター! 内定だって!」
マスターも喜んだ。
「良かったねー、幸乃。それと有り難う、伏見君、松本君、鎌倉さん」
海斗も嬉しくなった。
「おめでとう、幸乃さん。俺もうれしいよ」
「ホント、皆のお陰ね-、鎌倉さんも有り難う」
「上手く行って良かったわ。出会いは災悪だったけどね」
皆は顔を見合わせて笑った。
海斗はマスターに話し掛けた。
「京野に先を越されけど、クリスマスパーティーの話なんだけどね」
「ああ、さっき京野君から聞いたよ。OKだよ!」
森幸乃は楽しい事が二つになった。
「今日は良い日ねー。あー、楽しみだな-!」
「幸乃、十二月はクリスマスパーティーがあるから、年を開けたら、皆で内定祝いのパーティーをしようね。皆、今度はご馳走するからね」
海斗達はマスターにお礼を言った。
海斗はマスターに話しかけた。
「そう言えば、この間クラスの友達と酉の市に言ったんだ。そうしたらね、羽衣商事の名前の付いた熊手が有ったんだ。嫌みなぐらい大きいの! 幾らするんだろうね」
海斗は両手を広げて大きさを例えた。するとマスターは片手を広げた。
松本蓮は首を傾げた。
「ん、五万円?」
「そんな訳ないだろ、松本君。一桁上だよ。しかし値段は有って無いようなモノだけどね。本当の所は解らないな」
皆は驚き、海斗も続いた。
「それじゃあ、毎年、あの熊手に五十万かけているの?! すごい会社だね」
森幸乃は微笑んだ。
「へー、凄いわね」鎌倉美月も感心した。
「幸乃さん、良かったわね。横浜を代表する凄い会社だね」
「うん、有り難う。でも未だ内定だからね。就職するまでは気を緩めない様にするわ」
この後も楽しい会話が続いた。この日は早めにお店を閉め、森幸乃は家族でお祝いをした。森幸乃もマスターも肩の荷が下りて安心をした。