第 5話 名前で呼ぼうよ
海斗は友情を深める二学期だからこそ、良いアイデアがあった。席替えにより仲間の席が近くなった事も有るので、新しいスタイルを考えていた。昼休みを告げるチャイムが鳴ると、海斗は仲間に話しかけた。
「ねえ皆、相談があるんだ。折角、席替えで近くに集まったから、お昼は机を並べて食べてみないか?!」
突然の提案に仲間は顔を見合わせて、照れくさい顔をした。
小野梨紗は一番最初に答えた。
「いいねー海斗! 私、皆と顔を合わせて食べたかったんだ!」
松本蓮も続いた。
「良いこと言うじゃん! 俺も皆と顔を合わせて食べてみたい!」
鎌倉美月は松本蓮と一緒に食べられることが嬉しくて賛成をした。
林莉子は幼馴染の反応とは違い照れた。
「やだー、小学生みたいよ。今更恥ずかしいわ! ねえ美咲はどう思うの?」
「そーねー、私も皆と話をして食事をしたいわ。だって、その方が楽しいでしょ」
海斗は話をまとめた。
「それじゃあ、決まりだね。明日からね」
小野梨紗は口を尖らせた。
「そんなのダメだよ。楽しい事はすぐ行動に移さないとね。だから今からよ!」
皆は驚いた「えー! 今からー!」
皆は照れくさい顔をして机を並べた。まるで小学校の給食の風景様になったのだ。最初はこんな感じで始まった昼食の時間だったが、数日経つと恥ずかしさが消え、むしろ皆で取る食事が楽しイベントとなった。
海斗は更なる提案を考えた。海斗は常々、名前の呼び方に疑問を持っていた。松本連と鎌倉観月はファーストネームで呼び、小野梨沙、中山美咲、林莉子には名字で呼んだ。更に小野梨沙と二人だけの時にはファーストネームで呼ぶのだ。
昼食が食べ終わる頃に、海斗は提案をした。
「ねえ、皆、相談が有るんだけど、聞いてくれるかな」
小野梨紗は次に何を言うのか興味が湧いた。松本蓮と鎌倉美月もワクワクしていたが、中山美咲と林莉子はドキドキしていた。
「幼馴染みだけがファーストネームを呼ぶのは、差が付いているみたいでさ……。折角、仲良くなれたから、呼び名をファーストネームで統一するのはどうかな?!」
海斗は皆の顔を見回すと、皆はきょとんとしていた。
鎌倉美月は微笑んだ。
「良いよ、海斗! 私はそれ程、変わらないしね。それに林さんと小野さんの間はファーストネームで呼び合う仲だしね」
小野梨紗は嬉しかった。
「私も良いよ! だって私、梨紗って呼んで欲しかったんだもん」
松本蓮も前から不自然だと感じをしていたのだ。
「俺も、前から思っていたんだ。さん付けの名字とファーストネームが、混在するのは仲間同士で可笑しいよね。だから賛成だよ」
海斗は二人を心配した。
「一番、抵抗が有るのは、中山さんと林さんだね、俺達をファーストネームで呼んで貰えるかな?」
林莉子は両手を胸の前で組み空を仰いだ。
「なんか、男の子の名前を呼び捨てにするなんて! 青春しているみたいで良いわ! ……でも、私、言えるかしら」
中山美咲は否定的だった。
「私は抵抗があるかな。名字の呼び捨てすら出来なのに、下の名前を呼び捨てにするなんて」
小野梨紗は中山美咲に顔を向けた。
「そう考えるからダメなんだよ。中山さんが莉子って呼ぶ時は呼び捨てのつもりは無いでしょ。むしろ親しいから出来る呼び方なんだよ。試しに梨紗って言ってみてよ」
中山美咲は小さい声で呼んだ。
「梨紗」
小野梨紗は大きな声で返した。
「うん、いいよ! アメリカに居た時の頃を思い出すよ」
海斗は中山美咲を気遣った。
「中山さんは、無理しなくてもいいよ。強引にはしたくないんだ」
小野梨紗は前々から思っていたので、具体化させたかった。
「じゃあ、中山さんだけ、名字だね。ね、海斗」
「うん、仕方ないね梨紗」
林莉子は思った。
「えー、伏見君しぜーん! なんで? あっそうか、幼馴染だもんね」
「海斗、私、皆の前で梨紗って言ってくれて、嬉しいよ!」
小野梨紗はハグをする仕草をみせた。
中山美咲は思った。ここで私だけが名字だと壁を作っているように思われるし、伏見君を海斗って呼べるチャンスでもあるし変えてみようかな。
中山美咲は決断した。
「私も変えるわ! 皆、美咲って呼んでね」
小野梨紗は笑った。
「じゃあ、莉子も美咲も決定だね! 楽しい事だから今からだよ」
中山美咲と林莉子も赤い顔をした。
海斗の提案は皆に受け入れられた。松本蓮は焦って両手を挙げた。
「あっ、ヤベー! 次の英語の宿題をやっていなかった! お、り……梨・紗! お願い、ノート見せて」
小野梨紗は微笑んだ。
「蓮! いいよ! なんか私も幼稚園の幼馴染みみたい!」
松本蓮は嬉しかった。すると鎌倉美月は頬杖を付いた。
「……微妙! 蓮さあ、名前を呼ぶだけじゃ無くて、感情が入っていなかった?」
「やだな~美月、そんな事はないよ」
海斗は時計を見た。
「じゃあ、そろそろ机を戻そうか、これから宜しくね、莉子、美咲」
林莉子は答えた。
「わかったよ、海・斗、……キャー、恥ずかしい!」
林莉子は両手で顔を覆った。中山美咲も答えた。
「わかったわ、か、か、海・斗 ……君」
中山美咲も赤くなった。そして言い出した海斗も赤くなって机を戻した。やはりファーストネームの方が心の距離が近くなった事を実感させるのだ。