二学期の始まり1
お陰様で第二章を掲載させていただきます。海斗の二学期を一緒になってお楽しみ下さい。
史上最高気温を記録した暑い夏休みが終わり始業式を迎えた。海斗の仲間は元気に次々と登校した。八月下旬に体調を崩した海斗に気遣う仲間達はとても優しかった。
担任の長谷川先生が教室に入って来ると生徒の顔を見回した。
「皆、おはよう! 全員揃っているね! この夏休みに色々な思い出を作った生徒もいた事でしょう。また何事も無く過ごした生徒もいたかな……」
長谷川先生は突然、海斗と松本蓮に一人ずつ声を掛けた。
「伏見と松本は、どんな夏休みだった?」
二人の表情はきょとんとしてから笑顔になった。顔を見合わせて答えた。
「はい、楽しかったです!」
「うんうん、充実した夏休みみたいだね。先生はこうして元気な皆と会える事が嬉しいです。一学期は友達作りの時間でした。二学期は是非、その友達と友情と深めて下さい。それでは全校朝礼に向かいます。体育館に順番に入場するから廊下に並んで下さい」
生徒達は廊下に並ぶと、小野梨紗は首を傾げた。
「ねえ海斗、何でさっき二人だけが聞かれたんだろう?」
「そんなの知らないよ。何でかな? 蓮わかる?」
「いや、俺も分からないよ」
林莉子は答えた。
「どうせ、二人ともボケッとしていたんでしょ!」
鎌倉美月、小野梨紗、中山美咲は笑った。
(始業式にて)
生徒達が揃うと、生徒会が仕切り朝礼が始まった。吹奏楽部が伴奏し生徒達は校歌を斉唱した。次に偉い方々の挨拶が続きムンムンと熱い中、退屈な朝礼が進行した。
いよいよ黒岩校長先生の挨拶となった。
「皆、元気そうだね。また来賓の方々、本日はお暑い中、ご来校頂き誠に有り難う御座います。色々と挨拶が続き生徒諸君も飽きてきた頃だろうから、早速、本題に入ります。今日は君達の中から誇らし行いをして表彰される者がいます。心辺りのある生徒は居るかな?」
生徒達からどよめきが起こり、顔を見合わせた。黒岩校長先生は微笑み話を進めた。
「このどよめきは何かな? 皆、良い行いをしているから、自分の事かなって思って顔を見合わせているのかな?」
生徒の中から笑いが起こった。
「普通課二年B組の伏見海斗君、松本蓮君、上がって来なさい」
生徒の視線が二人に向かった。海斗も松本蓮も驚いた。そして海斗の仲間も驚いた。
動揺している二人に長谷川先生が催促をした。
「ほら、そこの二人! ボーとしないで早く行来なさい!」
二人は首を傾げ舞台に上がった。黒岩校長先生は微笑みかけた。
「伏見君、松本君、上がって来てくれて有り難う。君たちに山手警察署から二件のクレーム犯罪を防いだとして、感謝状が用意されているんだよ。驚いたかい? それでは山手警察署の横川栄治署長様より表彰して頂くから、そこに並ぶように」
海斗達は驚いた。二件目の話も伝わっているとは思ってもいなかった。二人を知る斉藤教頭先生も嬉しそうな顔をしいた。海斗達を誘導し小声で話しかけた。
「伏見君、松本君、私は誇らしいよ。ほらっ、胸を張って」
二人の背中をポンと叩くと、海斗達は姿勢を正した。
横川署長は感謝状を読み上げ、海斗と松本蓮に表彰すると、黒岩校長先生は誇らしげに拍手をした。生徒達からも大きな拍手が起こり、海斗達は深々とお辞儀をした。
斉藤教頭先生は横川署長にお辞儀をして、マイクを持った。
「それでは、代表して伏見君に挨拶をして貰います。さあ、こちらに」
海斗の頭は真っ白になった。タダでさえ緊張しているのに、全校生徒の前で喋る事になりパニックになった。全校生徒も先生も海斗に注目をした。
すると港湾課の三年生の列から声が上げた。森幸乃だった。
「伏見くーん、頑張って!」
続いて海斗達のクラスから声が上がった。
遠藤駿は応援をした。
「海斗、頑張れよ!」
続けて仲間達が応援を送った。
「がんばれー!」
海斗は演台に立ち、少し考えてから話し始めた。
「皆さん、お早う御座います。まさかこんな事に成るとは……大変緊張をしています。たまたま、喫茶店でクレーマー犯罪に遭遇し、私たちが協力して犯人は逮捕されました。しかし、その単純な行動はリスクの大きいやり方でした。その後、校長先生と話す機会が有り、犯人の拳がナイフだったら、どうなりましたかと言われハッとしましました。トラブルに対処する事も大切ですが、トラブルに会わないように対処する事を教えられ、私達は反省して学びました。
二回目にクレーマー犯罪に遭遇した時は、経営者のオヤジさんには判断が促せるようにメモを渡し、犯人に動画で撮影している旨を伝えました。結果、暴力も無く犯人は逃げ出しました。皆さんも、もしもの事が有った時に参考にして下さい。今日は有難う御座いました」
海斗は頭を下げると、生徒も先生も大きな拍手が起きた。そして全校朝礼が終わり、海斗達はクラスに戻った。
(二年B組の教室にて)
海斗の席には仲間が集まった。小野梨紗は海斗を見つめた。
「海斗、凄いね! 見せて、見せて!」
海斗は感謝状を広げて見せた。
「凄ーい! これが感謝状なのね」
松本蓮は赤い顔をしていた。
「いやー、ビックリしたよ~、まさか呼ばれるとはねー。なあ海斗」
「俺もビックリした! 何でこんなに大げさな事になったのかな~」
林莉子は手を叩き思い出した。
「あ~、だから朝一で長谷川先生が二人に声をかけたのよ。伏見君、スピーチ上手だったよ」
中山美咲は誇らしく思った。
「私ね、自分の事のように嬉しかったのよ、伏見君」
小野梨紗は鎌倉美月を気にした。
「でもさあ、一回目は鎌倉さんが居たんでしょ。それじゃあ、鎌倉さんも欲しいよね」
鎌倉美月はスッキリとした表情で答えた。
「まあ、私はいいわ。二回も怖い思いはしたく無いよ! 蓮が褒められている所を見て、自分の事のように嬉しかったから、それで十分だよ」
「そっかー、言われて見ればそうだよね。二回も怖い思いしているんだもんね」
褒められる事に慣れてない海斗も松本蓮も、おだてられてフワフワしていた。
すると教室のドアが開いた。長谷川先生は大きな箱を持って入って来たのだ。
「おい、伏見、松本、よく頑張ったな! 皆から、もう一度拍手をしてやってくれ」
クラスメイトは大きな拍手を送った。二件目の現場となった遠藤駿も自分の事に用に喜んで拍手を送った。