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贖罪のブラックゴッド外伝 〜神楽夕姫の学園生活〜  作者: 柊 春華
第二章 隣の芝生は青く見える
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第二章 隣の芝生は青く見える②



 放課後になりました。


 入学当初の弾むような感覚はすっかりなくなり、学園生活はもう日常として馴染みきっている。


 リサちゃんはバイトで早足に帰っていった。ユーキも今日は用事があるらしくて、ついさっき教室を出ていった。


 いつも遊んでいる二人が今日はいない。じゃあ一人で遊んでこようかな、とセンター街に繰り出してしまうところだけど、それはまた今度。今日は別にやりたいことがある。


 クロガミくん。


 いままで、いいなぁと思った男の子に接近するために使っていた手が通じなかった。そればかりかユーキたちの前で返り討ちにされてしまう始末。


 私が男の子に翻弄されるなんて、プライドが許さない。


 リベンジしてやるぅ。



「クロガミくぅん……あれ?」



 意気込んで声をかけたところ、すでに彼の姿は教室内にはなかった。


 近くにいた男子に聞いてみる。



「ねぇ、クロガミくんってどこいっちゃった?」


「クロガミ? あいつならホームルームが終わって速攻で帰ったぞ」



 いつの間に……。全然気づけなかった。


 でもホームルームが終わってからまだ数分しか経っていない。走れば追いつけるかも。明日仕切り直すという選択肢はないのです。



「あ、ところでソフィアちゃん、もし暇だったらこれからみんなで……」


「教えてくれてありがとぉ。じゃあまたねぇ」



 なんか誘ってきたので有無を言わさずバイバイした。というかほとんど喋ったこともないのに、いきなりファーストネームで呼ぶなんて馴れ馴れしいなぁ。


 靴を履き替えていると校門を折れていく白髪の後ろ姿が見えた。追いつけそうだ。


 小走り。足取りに合わせて上下する胸に男子の視線が注がれているのがわかる。


 うん、やっぱり男の子には有効な武器だよね。


 これが効かない男子なんているはずがない。お昼休みのクロガミくんはうまく取り繕っていた違いない。絶対にそうだ。



「すみません、少しだけお時間よろしいですか?」



 校門を飛び出したところで、二人組の男女に声をかけられた。それぞれマイクとカメラを持っている。腕にはテレビ局の腕章がつけられている。



「すみません、急いでいるのでぇ」



 愛想笑いしながらやんわりと断った。


 事件が公表されてから道端でこうしたインタビューを持ちかけられるケースが出てきている。


 中には悪質で執拗な記者もいたようで学校では注意喚起がなされている。先日の記者会見で、学校周囲で張り込むような真似は控えてもらうよう伝えているが、応じない会社もあった。


 得てしてそういうところに所属する記者は、無遠慮でこちらの心情を慮ることもない。



「ほんの少しですので。今回の件について、この学校に通う生徒としてどう思いますか?」



 こちらの拒否を無視して、女性記者がマイクを向けて質問してきた。



「ほんとに急いでいるのでぇ」


「他の生徒も同様の反応をしますが、今回の件以外にも表に出ていないようなことがあるのでしょうか。それを外部に漏らさないよう学校の指示を受けているのでしょうか」



 一体何を言っているのだろう。邪推もいいところ。単に関わりたくないと思っているからだということがわからないのだろうか。



「事件発覚前に前兆のようなものはなかったのでしょうか。被害にあった生徒は日常的に暴行を受けていたにも関わらず、教員や生徒も黙認していたという噂もありますが、それは本当でしょうか」



 五月雨式の質問。こちらの都合や気持ちなどお構いなし。世間にとって刺激的な物を書くために、都合の良い言葉を得られるよう、悪意的な問いで誘導してくる。



「被害に遭った生徒にも話を伺いたいのですが、お名前を教えて頂けないでしょうか」



 なんて無神経。


 女性記者がカメラマンに撮影を止めるよう合図を送った。



「あのね、こっちも遊びでやってるわけじゃないの。時間がもったいないから早く答えてくれないかしら」



 語調には隠しきれない苛立ちがにじみ出ていた。人の時間を奪っているのはこの二人で、自分たちの都合だけを押しつけてくる傲慢さ。


 こんな人たちの相手なんてしてられない。



「ソフィア、なにやってる。帰るぞ」


「え?」



 腕を引かれたので振り返ってみるとクロガミくんが立っていた。もしかしなくても絡まれている私を見て、わざわざ戻ってきてくれた?


 クロガミくんはそのまま私の手を引いてこの場を去ろうとした。



「ちょっ、ちょっと! いまインタビュー中なんだけどっ」


「だから?」



 クロガミくんは聞く耳を持たず立ち去ろうとする。


 呆気にとられる女性記者だったけど、彼の腰にかけられた術式兵装を見てニヤリと笑った。



「それは術式兵装ですか? 学生の方がなぜこのようなものを持ち歩いているのでしょうか。術式兵装の携行は狩人以外は禁じられているのはご存知ですよね? 不正に持ち歩いているのだとしたら問題ですが、そのようなことがこの学校では日常的に行われているのでしょうか。そうした場合、そういった行為が今回の事件に繋がる可能性があるというご意見が出てくると思いますが、それについてはどのようにお考えでしょうか?」



 カメラを回したことで女性記者の口調が丁寧なものに変わった。丁寧でも言葉の端々にある悪意は隠しきれていない。



「あんたたちがカメラとマイクを持ってるのと同じ理由だ」


「それはどういう意味でしょうか? その術式兵装は凶器ですよね? 人を傷つけるための武器だと思いますが――」


「三度は言わないぞ。俺がこれを持っているのは、あんたたちがカメラとマイクを持ってるのと同じ理由だ」



 その皮肉に私は思わず吹き出してしまった。堪えようにも皮肉がツボにはまって堪えきれない。


 学生風情に馬鹿にされたとでも思ったのか、女性記者の顔が忿怒によってみるみる赤くなっていった。



「ちょっと! 失礼じゃない!? 礼儀っていうものを知らないの!?」



 立ち去ろうと背を向けたクロガミくんの肩に摑みかかる。


 どの口が言うのか。礼儀知らずはどっちだ。



「知ってるが、あんたたちにそれを払う必要はない」


「なっ!?」



 女性記者がますます紅潮した。私は笑いを堪えるので必死だ。


 私も実際、同じことを思っていた。


 たぶん言葉通りで他意はないんだろう。だけどわざわざ口にしてしまうあたり、やっぱり彼は言葉選びが下手だ。


 でも放っておいたら、さらに面倒なことになるという確信があった。っていうかこんなことに時間を無駄にしている場合じゃないのだ。


 クロガミくんは話が下手だし、記者たちは話を聞かない。


 じゃあこうするしかない。



「きゃああああああっ! 誰か助けてええええええぇ――――っ!」



 私が大声で叫ぶと記者たちはギョッとした。何事かと振り返った下校途中の生徒たちがこちらに注目する。



「助けてぇ! 誰かああぁっ!」



 続けて叫べば、先生を呼びに行く生徒、動画を撮る生徒、どこかに電話をかけ始める生徒、遠巻きに傍観する生徒。各々の反応を示した。



「ち、違います! 私たちはテレビ局の者で……」



 記者とカメラマンは不審者扱いされてあたふたとしている。実際、私からしたら同じだ。



「いこぉ、クロガミくん」



 私の腕を引く彼の腕に絡みついて、今度は私が彼を引っ張った。


 騒ぎを聞いてやってきた先生と記者たちが何か言い合っている。


 ざまあみろぉ。


 なんだか楽しくなった。



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