序章 もしもあのとき
「もしも」を考えたことはたくさんある。
もしもテストで悪い点数を取ったらどうしよう、とか。
もしも好きな人が出来たらどういう気持ちになるんだろう、とか。
もしもそんな人とずっと一緒にいられたら幸せなのかな、とか。
もしもいきなりあの人に話しかけたら変に思われないかな、とか。
もしもあの人に贈り物をしたら喜んでくれるのかな、とか。
もしも私の秘密を知られてしまったら拒絶されてしまうかも、とか。
未来への希望や過去への後悔など、いろんな「もしも」を考えたことは誰しもあると思う。
あのときこうすれば良かった。どうしてあんなことしちゃんだろう。
そんなことを考えることも結構あるけど、どうせなら明るい未来を夢想したい。
だってその方が楽しい。なんとなく嬉しくなる。
たとえ叶わずとも、そう思えている間はとっても幸せ。
もちろん、できれば現実になってほしい。
だからそう心がけて生きてきた、と思っている。
少しでも現実が理想に近づくように自分なりに頑張ってみた。
だけどどうしても届かないことだってある。
本当に願っていることほど、本当に欲しいものほど、理想と現実の差は激しい。
手を伸ばしたら伸ばした分だけ距離が開いていく気がする。追いかけても追いかけても理想は遠くに走り去っていく気がする。
だけどどうしても諦めきれないから、離れていく背中を必死になって追い続ける。
とてもしんどい。とてもつらい。
もしもあのとき「行かないで」と言えば失わなかったかもしれない。
もしもあのとき「好き」と言えていれば傍に居られたかもしれない。
夢に見るほどにあの時間が忘れられない。
どうしても取り戻したい。取り戻してこれから一緒に新しい時間を共有したい。
それが私の願いだから。それが私が欲しいものだから。
距離が開くならもっと縮める。逃げていくならもっと追いかける。
いつか手が届くと信じて。
――これは神楽夕姫の想い出話。