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美しい思い出の話

本日二話更新のその2です!

ミノルカオル様の想い人、アンダルシャンくんの独白。

 我が家は公爵家にお仕えする子爵家で、僕はその次男だから、この先やがて家を離れて平民として生きていくことになる。

 元貴族の勤め先なら、騎士団か役所だろうけれど、どちらも、僕は向いていないと思う。

 僕は土仕事が好きだ。畜産も。養鶏も。

 いずれは、父が公爵からお預かりしているこの領地で、養鶏でもして暮らしていきたいと思っている。

 だから、今のうちに勉強と資産の準備をしていかないといけない。

 父には方針を話していて、好きにすると良いと言ってもらえている。ただ、苦笑していたのが気になるけれど。

 我が家の頂いている土地のいくらかを、僕の養鶏場と家として、既に準備を始めている。

 まだ、学ぶことばかりだけれど、いずれは立派な鳥飼になりたいものだ。

 頑張ろうと心を新たにするたびに浮かぶのは、主家のお嬢様の姿だ。

 初めてお会いしたのが何歳の時だったかは覚えていない。

 春の始め、種まきの頃に、公爵家は領地を訪れる。

 春は彼女の季節だった。

 僕が初めて、お嬢様を、彼女を意識したのは七つの時。お嬢様が十の時だ。

 その日のお嬢様は、お誕生日で、夜にはお母様から大人になるお仕事を教わるのだととても張り切っていた。

 僕はいつもお嬢様の後ろをついて回っていて、お嬢様は「アンダルシャンはわたくしが好きなのね」と微笑んでくれる。たしかに僕はその時まで、お嬢様のことを、構ってくれるお姉さんとして好きだった。

 お誕生日と聞いて、素敵な花を贈ろうと思うくらいに。

 そうして二人で庭に出て、歩きながらお嬢様に似合うと思う花を摘んで、最後に花束にして渡したのは。

 今思えば幼さゆえだと恥ずかしくなるけれど、その時、お嬢様が──ミノルカオル様が、とても嬉しそうに微笑んでくれたから、僕はこの人のために生きるんだと、その時、実感した。

 その時から、お嬢様は僕の唯一になった。

 翌朝のお嬢様は、確かに何か変わられていて、僕は子供ながらにお支えしなければと思ったものだ。

 春はお嬢様の季節だ。

 公爵家が屋敷に戻られる間、快適にお過ごしいただけるように。

 お嬢様の部屋には花を絶やさぬようにした。庭を花で整えるようにした。

 何時でも新鮮な卵と鶏肉をお渡しできるように、僕は自分の養鶏場により力を入れるようになった。とはいえ、まだまだ子どもだから、そうしたいと、両親に訴えるしか無かったけれど。

 両親はお嬢様のためだから直ぐに力を貸してくれた。

 お嬢様の部屋の花は僕が選ぶ。

 お嬢様が心地よく過ごせるように僕が整える。

 僕がお嬢様を支えて生きたい。

 お嬢様に、笑っていて欲しい。

 だから。

 お嬢様が、婚約されたと聞いたときは。

 僕はどうしていいか分からなかった。

 付いていけるわけがない。

 婚姻したら、お嬢様は、僕のお嬢様でなくなってしまう。

 僕はお嬢様に幸せになって欲しいけれど、僕の手で、幸せになって欲しかった。

 僕はお嬢様が、はにかんで笑うところが好きだ。黒鶏に、わたくしと同じ色ねと微笑む所が好きだ。

 僕はお嬢様が好きだ。

 けれど、それは僕には過ぎた恋だ。

 気付いた時には終わらせる恋だ。

 どうかお嬢様が幸せでありますように。

 そう願うことしか許されない。

 美しくて幸せな、思い出にするしかない。


 お嬢様が、僕を迎えに来るなんて、そのとき僕は思いもしなかった。


ミノルカオル様、突撃。

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