41 秋の〆月 19 大夜会のから6日
イングラム様が手配くださって、わたくしはいま、王城の応接間の一室に居ります。
席についているのは、わたくしとイングラム様、向かい側にお兄様とムジーク様です。ドアの横に、エステル、ポリィ、オルト、ラーシュ様、セマニ様が佇んでおられ、お茶を給仕する侍従や侍女は控えておりません。代わりに、エステル達が私達にお茶を入れてくれました。
直接の関係者になるムジーク様以外は、イングラム様とわたくしで、聞かれても良いと判断した方々です。知っていていただいたほうがスムーズに事が進む、ということでもありますわね。
本当は、両親や陛下方にもお伝えするべきなのだとも思います。ですが――まだ、なんというか感情が追いつかないと申しましょうか。騙していたわけではないのですが、黙っていたことが後ろめたい、と申しましょうか。
わたくしが何も言えずにいることの理由を、イングラム様は察せられたのでしょう。この場で一番地位ある方でもあられますから、最初に口を開かれました。
「急な参集に応じたことに感謝を。此度のセインゴナコマチェスカ嬢に関する対応で内密に進めたいことがあり集まってもらった。この部屋で聞いたことは、他言無用で願いたい。後ろの者たちもだ」
イングラム様のお言葉に、壁際の5人が黙礼します。対面のムジーク様とお兄様も、神妙な面持ちで頷かれました。
「王の剣の所在について有力な情報が入った」
そして切り出した言葉に、お兄様が目を見開かれました。ムジーク様はその金色の目でわたくしをご覧になります。何かを、見透かそうとするように。
「そこで、ムジーク殿に確認を頼みたい」
「俺に?」
「75年前の隣国政変の頃の情報だ。隣国王城の地下には神殿があり、おそらくそこに安置されていたはずだと。本来は神殿側が把握してあるべき情報だが――」
「あの馬鹿騒ぎならば聞いている。百年前の戦争の詳細さえ失っているだろうというのがここ数日を見た俺の見解だ。
ならば、なるほどな」
ムジーク様が頷かれ、話しておられるイングラム様でなく、わたくしをじっと見据えられます。
「プリム嬢、確認だけでいいのか」
不意に尋ねられ、わたくしは隣のイングラム様を振り仰ぎました。ここでわたくしが答えることが、立場的な意味で許されるのか、判断できなかったのです。
イングラム様が一つうなずいてくださいましたので、わたくしは改めてムジーク様に向き直りました。
「可能であれば、確保を。ただ、比較的確かな情報であるというだけで、実在までは確認できておりません。無理はどうかなさらないでください」
ムジーク様は、その爬虫類の目を細められ、口元を緩められました。
「良い。お前が望むならその通りにしよう――安心しろ。俺がお前の望みを叶える」
しばらくお会いしない間にムジーク様に心境の変化でもお有りになったのでしょうか。不敵に微笑むのは今まで通りのようですが、なんというか、落ち着かれた? とでもいいましょうか。
怪訝に見えたのでしょう。ムジーク様はゆったりと微笑まれながらこうおっしゃいました。
「お前の魔力もあの炎も、俺が番に選んだのも、太陽神の加護を持つのなら、全て納得できる。お前は、精霊のないこの世界で、おそらく唯一明確に、神の加護を持つ娘だ。
胸を張って命じろ。俺が――我が竜の亜人一族がお前の願いを叶えよう」
……ぱーどぅん?
待ってください待ってくださいそんな設定存じ上げません。
設定上、創世神話的なものはございますし、前世知識の設定資料集でも生まれ変わってからの書籍でもそれは存じております。存じておりますが、その、加護を持つ、とかそういうの初耳なんですが。
明らかに動揺して見えたのでしょう。イングラム様が言葉をつないでくださいました。
「太陽神の加護を、プリムが持っているということか?」
「そうだ。あのときの白い炎、あれは、『そういう』ものだ。おそらくプリム嬢は生まれながらにその加護があったのだろう。それが長じて現在、魔力の量として可視化されている」
「……知っていたかい?」
イングラム様がわたくしに問われるのへ急いで首を振りました。
「全く存じませんでした」
「不敬ながら発言をさせてもらいますが、わたしも存じ上げません。両親も知らないはずです。神殿に何度か家族で詣でておりますし、定期の寄付も行っていますが、そのようなことは一度として言われたことがありません」
お兄様が助け舟を出してくださり、わたくしは何度も頷きます。
「すまない、疑うわけではない。ならば、そうか――魔力と精霊についてはムジーク殿のほうが知見がある。この件――この隣国にかかる諸々が落ち着いた後に、改めて話を伺いたい。
ムジーク殿もそれでよろしいか」
「俺はプリム嬢が良ければそれで良い」
デレた、といえばいいのでしょうか。ムジーク様がデレておられます。デレというより激あまというやつでしょうか。
「剣の件は任せるがいい。そこに無かったとしても、手がかりくらいは持って帰れるだろうよ」
ムジーク様が話の筋を戻してそうおっしゃいます。自信に満ちた、爬虫類の目がぎょろりと輝いてわたくしたちを見渡されました。
「お願いいたします」
「頼む」
わたくしとイングラム様がそれぞれで口にして、ムジーク様が声を上げてお笑いになりました。
それからは他愛のないお話。壁際におられたラーシュ様、セマニ様も改めて卓について頂いて。エステルたちにお茶を入れ直してもらって。
本当にとりとめのない話を、いたしました。




