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39 秋の〆月 17 大夜会から????


***




 ムジークはその時、体中の血液が沸騰するような興奮を覚えた。

 白い炎が溢れ出し賊を捕らえ包み、そして放つその様子。


 息を呑むほどの美しさ。

 己の鱗が逆立つほどの威。


 驚きに見開かれた彼女の焦点の合わぬ眼差しは、魔力を帯びて金に輝いているが――おそらくもう意識はなかろう。

 己の口元に笑みが浮かぶのを、ムジークは止められない。

 やがて崩れ落ちた彼女と、置き去りにされた下手人。


 精霊の居なくなった世界で、彼女の持つ魔力の光とその意味を。界を超え得る魔力の量を。


 ムジークだけが知る、百年目の意味を。


 彼女は――プリム・ラ・ジンカイイはムジークにとって唯一の番だ。嘘偽りではない。何の打算もなく、ただ魂がそうだと求めた。胸は高鳴った。来世を欲した。独占したいと、何より願った。


 そして今は。

 竜の亜人の本能が、彼女に(ひざまず)けと訴える。彼女を(いただ)けと締め付ける。


 あの白い、炎は。

 それだけの威力を持っていた。





***





 問 王の剣はどこにありますか

 答 隣国王城の地下神殿にあります


 これを、どうにかして()()()()()()お伝えしなければなりません。ムジーク様にチェスカ様に同道いただくならば、彼が発見するのが一番情報としてスムーズです。

 百年目の竜の亜人の立場を利用してもらう、というのは好意を利用しているようで気が引けますが、一番自然なのも確かなのです。


 そもそも、なぜ城の地下などという分かり易い場所でありながら失われた事になっているのか。

 それは隣国のお家騒動に端を発します。たしか攻略本の年表では戦後25年頃――今から75年以上前――に記載されていたように思うのですが、その頃に、隣国で王位継承にかかるお家騒動が勃発します。

 隣国が興り、築城された折、王の剣は隣国側についた神官たちが、神から授けられたものとして管理するべきだと訴えました。神官たちは神官たちで、権力を隣国王家に全て預けたくはなかったのです。そこで、王城築城と同時に、城の地下に大地の女神の神殿を築き、いわゆる御神体の一つとして、王の剣を収める座を作ったのです。

 王の剣に支えられた王の城。何よりも尊い城、という権威付けもあったと思われます。神官と王家、隣国が興った当初は良かったのでしょう。

 ただ。

 結局の所、権力闘争が、国の歴史としてはあっという間の短い期間で起こりました。

 神殿が担いだ王子と、王家貴族が担いだ王子。

 泥沼の後継者争いの結果、地下神殿の剣の座を正しく知る者は一人も残らず。

 それ以来、王の剣は隣国から『失われ』たのでした。


 そして、それが発見される『輝きのソナタ』のお兄様ルートでは、チェスカ様と思われる隣国の姫君がイングラム様の許へ嫁ぎます。それに伴って、内々に、武官ではなく、その上、隣国で顔の知られていないお兄様に、王の剣の調査命令がくだされます。

 そうしてお兄様とヒロイン=メアリー様の活躍の末、王の剣は発見され、秘密裏に、イングラム様の許へ運ばれます。

 三つの宝物がイングラム様の許へ集まったこと、チェスカ様と思われる姫君がそれを支持したこと、隣国での冒険の際にヒロイン=メアリー様が隣国の要人たちの心をつかんでいたこと(ここは乙女ゲームポイントですわね)などから、二国は再び一つの国として歩みだし、長い平和を得るのでした。


 現実としては、お兄様とメアリー様にそのような命が現段階で下るとは到底思えませんし、事態はゲーム時点より悪化していると思ったほうが良いのでしょう。

 ゲーム時間で隣国の冒険は学園卒業後のおよそ半年でした。おそらく、そんな悠長な時間はありません。


 ですから、わたくしはなんとかして、ムジーク様に剣を見つけてもらわなければならないのです。

 ただ、それをお兄様やイングラム様に知られるわけには参りません。

 かといって、ムジーク様と二人きりになることなど、できるわけもないのです。


 取れる手段は――やはり告白(カミングアウト)一択でしょうか。知られるわけには行きませんが背に腹は代えられないのです。

 ことここに至って、効率最優先で参りましょう。


 ええ。そう。

 先程誓ったではありませんか。

 わたくしの秘密も心臓も、イングラム様に捧げる、と。


 ですから。

 イングラム様になら知られても構いません。むしろ、明かさねばならないことに違いありません。


 わたくしが、前世の記憶を持つことを。

 あるいは、この世界の()()を知り得ていることを。


 それを伝えなければ、そもそも、王の剣を安全に発見することなど現状ほぼ不可能なはず。


 信じられない、頭がおかしい――とか、そういうふうに思われるのは、間違いなく傷つきますが、きっと、信じてくださる方々だと思います。

 信じられず放逐されるならば、そのときはその時です。


 わたくしは、寝台の上で、深く深く息を吐きました。

 ベッドサイドの明かりは消されて久しく、早く眠るべきなのに、こんなに考え込んでしまって。


 瞼が重くなります。今日は、たくさんのことが、ありすぎました。


 明日は、イングラム様に、剣の話を、しなくては。

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