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19 秋の実り月 4

 夏休みの終わりに、スノエル様のお兄様は無事にシーサヤ公爵家に婿入りなさりました。

 お披露目の夜会は社交シーズンに入ってからということで、今夜はその、シーサヤ公爵家とスノーヴィ侯爵家の合同主催の夜会に招かれております。

 わたくしは休んでも良いとお兄様やお父様が仰ったのですが、その。

 殿下からエスコートさせて欲しいとお便りをいただいてしまうと、父も兄も勢いを失いました。

 そうでしょうね。

 それに、被害者とは言え丸二日行方不明、その上犯人は男性、な未婚の侯爵令嬢をぽいと夜会に出したら好機の目に晒されることは間違いなく、そこに対して殿下がエスコートしてくださることで、悪い噂をそもそも立てさせない算段となれば、むしろ出ない方が悪手と言えましょう。

 そして何故か、我がジンカイイ侯爵家の町屋敷には、殿下からドレス一式が届いていたのでございます。


「お兄様」

「リバート?」


 届いた荷物を見て、わたくしとお母様は揃ってお兄様が関わっていると判断致しました。

 お兄様はため息を吐いてから、


「俺は殿下に、お前がドレスを頼む、マダム・ゲイザーを紹介しただけだ」


 確かにドレスや靴などの布ものが収まっていた箱は、マダム・ゲイザーの店のものでしたけれど、マダムが顧客を売るようなことはなさるでしょうか。


「殿下は、ジンカイイ侯爵令嬢をエスコートするので、と、自分の礼装とお前のドレスを一括で頼まれただけだ。殿下自身は、お前のサイズなど知らないはずだ。殿下は、間違いなく、お前のドレスと対になる礼装をお召しになるぞ」


 そつがない!

 流石は殿下ですがそつが無さすぎてつけこめないというか突っ込めないというか!

 これ、着ないで行ったら顰蹙ものではないですか!

 お母様を見ると、仕方ないわね、という様子で微笑まれました。


「……かしこまりましたわ」


 そうすると多分、噂はわたくしの誘拐よりも、殿下の婚約者候補のことになるでしょう。それも含めての今回のエスコートのお誘いならば、もう、わたくし、目も当てられません。

 逃げ場などとっくに無く、わたくしの心も決まりかけていて。

 だのになんでか、わたくしはまだ右往左往というか、慌てふためくというか。


「手のひらで転がされているようですわ」


 届いたドレスと共に部屋に戻り、思わず呟いてしまいます。エステル、ポリィ、オルトの三人が付いてきてくれたので、安心してしまったのでしょう。エステルが穏やかに微笑みました。


「おそらく、踊らされている心地なのは、不敬かもしれませんが、殿下の方かと存じます」

「そうかしら? 不馴れなわたくしを面白がっておられるのではなくて?」

「お嬢様は元々、婚約に積極的というわけではございませんでしたから、何とか気を引きたくて、意識されたくて、仕方がないのだと思います」


 エステルがそう言ってくれるなら、きっと、そうなのかも?


「なら、そこまで惚れ込まれてしまうなんて、自分のことでは無いみたいだわ」

「お嬢様は自己評価をもう少し上げていただいて、自信をお持ちいただければと、わたくしは思います。お嬢様は、わたくしの自慢のお嬢様なのですから」


 エステルがそう言って、ドレスを広げてくれました。身支度の続きです。お風呂とエステのような身繕いは終わっておりましたので、ドレスに着替えて、髪を結ってお化粧をするだけ。

 殿下が下さったドレスは、マダムが仰っていたトレンドのタイトなラインながら、腰の片側に襞が寄せてあり、ボリュームもあわせ持っています。ボディラインを強調しながら腰回りを襞とリボンで膨らませることで、グラマラスに見せているようです。

 色は殿下の眼差しのブルーに、金糸で裾から細やかな刺繍が施されており、金髪碧眼の殿下の色をばっちり纏う形。

 合わせて、靴も金糸の刺繍がされております。


「飾りはサファイアに致しますね」


 ポリィがそう言うので髪飾り、耳飾り、ネックレスまで完全に殿下カラーです。


「ちょっと、あからさまに過ぎないかしら」


 わたくしが尋ねても、三人は微笑むばかり。

 ドレスに合わせて、お化粧も大人びております。

 出来上がりを姿見で確認したら、部屋を出て玄関ホールへ向かいましょう。

 両親とお兄様がお待ちです。


「またこれは」

「良く似合っているわよ」

「賛辞は殿下にお任せします」


 と父、母、兄。父が明らかに色合いに引いております。そうでしょうとも。完全に殿下カラーで、むしろわたくしの髪と目の色が負けております。さすがにマナーの褒め言葉も出ないでしょう。いえ、贈られたドレスならまず贈り主が見るまでは、異性は何も言えないのでしたっけ。

 わたくしはお兄様と、両親はお二人でそれぞれ馬車に乗り込んで、二台でシーサヤ公爵家に向かいます。

 本日の夜会は、シーサヤ公爵令嬢ジェニファー様と、スノーヴィ侯爵家次男グランディニーリ様の婚姻のお披露目が目的のものです。

 グランディニーリ様はスノエル様の二番目のお兄様で、イングラム殿下の弟であられるアストラナガン王子殿下の側近を勤めておいでです。

 ジェニファー様よりも一つ年上ですが、婚約期間も長くとても仲睦まじいとのことです。

 スノエル様のお兄様ならそれはお美しいでしょうから美男美女、しかも、次期女公爵とその夫、属性盛り過ぎです。

 とはいえ、いずれ王弟の側近になるグランディニーリ様と、公爵を継がれるジェニファー様は、お立場的にもお似合いで、そのために用意されたかのようです。

 シーサヤ公爵家は都が本邸ですから、別邸である都の我が家とは訳が違います。

 正に、都会の大邸宅。両親に続いてわたくしたちも馬車を降ります。開かれたエントランスホールを抜けて、パーティー会場であるホールへ向かうところで、わたくしとお兄様はシーサヤ公爵家の使用人に声を掛けられました。


「ジンカイイ侯爵家のご子息とご令嬢であらせられますか」

「いかにも」


 と、お兄様がわたくしを少し庇うように立ちながら答えられます。少し離れた場所から、両親がこちらを見ております。


「我が主、シーサヤ公爵がお二方にお会いしたいと仰せです」

「すまないが、わたしはまだ爵位を持たない身だ。父の間違いでは?」

「いいえ、ご子息とご令嬢をご指名されております」


 使用人の言葉に、わたくしとお兄様は顔を見合わせます。


「娘、ということならば、昨年までは姉がおりましたが、姉ではなく、わたくしですか?」


 重ねて問いかけても頷かれるばかり。

 流石にこれ以上は失礼に当たりましょうから、わたくしとお兄様は両親に目配せしてから、使用人の後に続きました。



 連れていかれたのは奥まったお部屋でした。

 大きな木の扉を使用人がノックしますと、入れ、と中からの応え。

 招かれるまま中へ入ると、使用人はそのまま外にとどまってドアを閉めました。これ一歩間違えば監禁されるやつですわよ。

 視線を中へ向けますと。

 ああー、やっぱり。

 公爵閣下と王太子殿下、そしてアストラナガン王子殿下が居られました。

 公爵閣下はおそらくお二人の接待役。王太子殿下は、まあ、自意識過剰に申せばわたくし目的、アストラナガン王子殿下は、己の側近の婿入りですから、上司として、ということなのでしょう。

 陛下がお出でではないとはいえ、この顔ぶれは、つまりこの夜会が重要なものであるという証です。

 そんな重役の前に高々侯爵家の子供が二人。恐ろしいことですわ。

 わたくしは慌てて深くカーテシーを致しました。お兄様も臣下の礼を致します。

 この場合、下位からお声掛けするのは不遜にあたりますから、お声が掛かるまでこの姿勢です。

 室内の序列としては、ホストである公爵閣下がトップ、ゲストであるイングラム王太子殿下とアストラナガン王子殿下がそれに次ぐ形。


「突然呼び立ててすまない。楽にしてくれたまえ」


 閣下が仰り、わたくしたちは背筋を伸ばしました。

 少しふっくらとした公爵閣下と、若く精悍な王子お二人というのは絵になりますわね。公爵閣下のお母君が先王の妹君であらせられますから、面差しも似ているように思えます。

 三大公爵家は、タイミングが合えば順番に王族を婚約者として迎えます。それが、王家の予備としての公爵家の役割であり、逆に、王家の予備であるために、婚姻は結ばれ続けます。

 イングラム王太子殿下はやがて王位を継がれますから、アストラナガン王子殿下が三大公爵家の何れかに、というのが今までの流れですが、ジェニファー様は血がまだ近く、ミノルカオル様はイルワ侯爵家の件の後、昔から思いあっていた方と結ばれたと伺っております。

 今代と次代では、王家から公爵家に臣籍降下される方は居られないようです。アストラナガン王子殿下の今後については、まだ何も発表されておりません。


「今日は良く来てくれた。娘のジェーンも喜ぶことだろう」


 閣下が口を開かれ、わたくしは思考の海から現実に引き戻されます。


「我々のほうこそ、ご招待いただき誠にありがとうございます。この度は、ジェニファー嬢のご結婚、おめでとうございます」


 お兄様が謝辞を伝えつつ、祝意を示しましたので、わたくしもお言葉に合わせて、今一度礼を致します。

 閣下が、うん、と頷かれたので、わたくしは姿勢を戻します。


「時に、ジンカイイの息子」

「は。閣下。リバートと申します」

「うむ。リバートくん、普段ならばお前さんが妹の──」

「プリムと申します、閣下」

「プリム嬢をエスコートするのだろうが、わたしから頼みがあってな」


 あ。

 これ、茶番の気配ですわ。


「なんでしょうか」

「プリム嬢を、イングラム王太子殿下に貸しては貰えまいか」


 つまり。

 人の結婚式により高位で独身のいい男が、連れもなく一人で現れると色々と面倒だから、わたくしを連れに貸してくれ、ということが表向き。

 核心は、殿下がわたくしをエスコートする『言い訳』です。

 殿下がわたくしをお誘いになったことは事実ですが、婚約もしていないのにそんな誘いにほいほいと乗ることも──事実上婚約っぽくなっているとはいえ──はしたないと見る向きもございます。ですから、結婚のお披露目で主役の新郎新婦より目立たないために主催である新婚夫婦の親が頼んだ、という体をとるわけです。

 なんかもう、外堀が完全に埋っております。というか、イングラム王太子殿下は、シーサヤ公爵閣下に何を仰ったのでしょう?

 わたくしの心中を察してか、閣下は悪戯っぽく笑います。


「わたしも恋愛結婚なもので」


 イルフカンナ高位貴族がおよそ全員恋愛脳という可能性が出て参りましたわ。というのは、さておき。


「承知しました。良いな、プリム」


 茶番にお兄様が頷きますので、わたくしもまた承諾を示すように軽く膝を折りました。


「承知致しました」


 かた、と僅かに音を立ててイングラム王太子殿下が立ち上がられます。


「プリム嬢、今宵はよろしく頼む」


『あくまでも』頼まれてエスコートする体、でありながら、殿下の礼装は、穏やかな黄土色と申しましょうか。色の名前が思い付かないのですが、複雑な淡褐色に、ブルーのタイを付けておられます。わたくしの青のドレスと並ぶと、海と陸とか、アースカラーと呼ばれそうです。

 これかぁ、と思わず思ってしまいましたわ。おそらく、わたくしの目の色とも合わせておいでですし。


「わたくしも、殿下にエスコートいただけるなど、光栄でございます。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 ドレスの裾を持ち上げて、また一度礼。上位の方ばかりで頷かないので、とにかく礼をしておりまして、流石に粘り腰と膝が疲れます。今日は靴のヒールも高めですし。

 近寄られた殿下が手を差し出されますから、そっと重ねます。

 そのままソファまで誘われ、腰を下ろす羽目に。そして、お隣に殿下。


「アストラ」

「はいはい、兄上」


 アストラナガン王子殿下が立ち上がり、


「では、公爵、わたしは入場させて貰うよ。リバートも来い」


 と、公爵閣下とお兄様に仰います。

 お兄様はイングラム王太子殿下の側近ですから、アストラナガン王子殿下の命に従うには、イングラム王太子殿下の許可が必要になるのですが、わたくしの隣に腰掛けるイングラム王太子殿下は一つ頷いてお兄様を見つめました。

 イングラム王太子殿下の許可、と言えるその動作に、お兄様は一度目礼して


「承知しました。アストラナガン王子殿下」


 と答えました。

 アストラナガン王子殿下とお兄様が退室されると、残るのは公爵とイングラム王太子殿下、そしてわたくし。

 ザ、場違い。あるいは身分違い。

 血筋でいえば、ジェニファー様とイングラム王太子殿下ははとこ。つまり王族と親族の中にわたくし一人。

 わたくしは少なくとも祖父母の代までの中に王家の直系は居られませんから、縮み上がって大人しくするしかございません。

 イングラム王太子殿下は招待客の中では最上位ですから、他の招待客全員がほぼ揃ってからのご入場ですし、閣下は新郎新婦の父ですから更にその後。まだ暫く、ここで待つことになりそうです。

 居たたまれません!!!

 穏やかな沈黙と思えれば良いのでしょうが、わたくしは虎の前に置かれた兎ちゃんでございます。

 そんなわたくしを察したのか、殿下がそっと握りしめたわたくしの手を撫でました。

 見上げますと、穏やかに微笑んで見下ろされております。

 顔が!! 良い!! わたくしここまで自分が面食いとは思いませんでした!!

 いえ、思い返せばイングラム王太子殿下は『輝きのソナタ』のある意味正ヒーロー。ゲームパッケージのセンターに描かれる本命ヒーローですから、嫌いになれるわけが元々なかったんですけれども。

 自覚以降ずぶずぶ落ちてる気がしてなりません。

 わたくしのモブの矜持よカムバックハリー。正ヒーローは眺めるもので、マジ恋なんてそんなばかな。

 そう思っていた頃もありました。多分。一瞬でしたでしょうが。

 とはいえ、こんな風に愛しげに見下ろされるのは恥ずかしくて仕方がございませんので、そっと視線を反らそうとして。


「プリム嬢」


 気付かれて名前を呼ばれます。

 お止めください! 閣下がご覧ですよ!!

 殿下に呼ばれれば返事をしないわけには参りません。


「はい、イングラム王太子殿下」


 ご令嬢スイッチ的なものを強めに入れましょう。わたくしは臣下! 王家の臣下の侯爵令嬢です!

 穏やかに微笑めば完璧に令嬢です! ドヤァ!

 ところが、殿下はなぜかスン、とした雰囲気です。出鼻を挫かれたというところでしょうか。とはいえ、恋する乙女をしていては、お話が進みませんもの。


「プリム嬢の今日の装いはまた、普段と異なって美しいな。蒼い薔薇は作れぬと聞くが、確かにこのように美しい薔薇が世に出ては、争いの元となるだろうね。女神がそれを生み出さなかった理由もわかると言うものだ」


 着飾った女性を誉めるのがマナーとは言え盛り過ぎと存じます殿下。とはいえ、これを否定しても謙遜よりは不遜ですから、あくまで穏やかに納めねば。


「光栄ですわ、王太子殿下。殿下の前では如何様な薔薇も全て頬染めて赤薔薇になってしまいますでしょうに」


 殿下のイケメンは誰にも負けませんよ、と褒めておくと、殿下は目をぱちくりさせてから、


「なるほど、君もその蒼い花弁の下に、緋色の花弁を隠していてくれるのだね、わたしの蒼薔薇」


 惚気返された!!!

 勝てません。かーてーまーせーんーー。そんな良い顔でそんな甘い台詞言われたら、前世で見た芸人のハンバーグおじさんがあまーいと叫んでしまいますわ。庶民の前世感覚が震え上がってしまいます。


「いやぁ、お似合いのお二人ですな。ジェーンもお二方のように仲睦まじく暮らしてくれれば良いのだが」


 公爵閣下がにこにこと仰るのへわたくしは首を傾げます。


「ご不安でもおありですの?」

「いえいえ。今の二人はお二人に顔負けに新婚を楽しんでおりますけれどね、親と言うのはずっと心配なものなのですよ」


 花嫁の父として、いろいろ複雑なのでしょう。

 わたくしはこっくりと頷いて


「そうなのですね」


 と答えるに留めました。

 あと自然と殿下とカップル扱いされましたわね、今。


「お二方が仲睦まじく我が夜会をお楽しみいただけば、今宵お披露目させていただく二人は、終生、王家に祝福頂いた夫妻として誇りと忠誠を抱きましょう。本当に、ご出席に感謝致します、殿下」


 確かに、グランディニーリ様がアストラナガン様の側近ですから、アストラナガン王子殿下の臨席は望めたでしょうが、王太子殿下の臨席は、望んで叶うとは限りません。そもそもアストラナガン王子殿下が臨席されている時点で、王家としての義務は果たしておられる形になります。そこへ、王位継承者が加えて出席したとなれば、王の臨席に等しい格を得ます。これは、ジェニファー様と、グランディニーリ様の婚姻を王家が特に祝福しておいでだという証左です。貴族としては、勲章ものの誉れと言えましょう。

 一方で。そこに、相手役として、並んでしまう、わたくし。よくよく考えれば事実上婚約御披露目と同義では?

 今漸く思い至るとか、わたくしほんと、わたくしとしたことが!

 今からでもお兄様の所へ戻りたいと思いつつお兄様も承知でお受けしたわけですからもう、だめ。

 顔に出そうになるほど狼狽しておりますが、殿下は穏やかに微笑んでおられます。知ってたな。これは。

 ぐぬぬ、と思う間もなく、ドアがノックされました。


「ご入場の頃合いでございます」


 おそらくシーサヤ公爵家の家令でしょう。

 その声に公爵が


「あいわかった」


 と返されます。

 ドアが開かれ、公爵が殿下へお声がけをなさいます。


「では、殿下」

「ああ。会場で待つ」


 殿下が立ち上がり、わたくしに手を差し出されます。わたくしはその手を借りてゆったりと立ち上がりました。

 そのまま殿下の肘に手を掛けて、開かれた扉から大広間へ向かいます。

 廊下を歩くと、すれ違う使用人たちが左右にわかれ頭を垂れます。モーセの海割りもびっくりな勢いで、わたくしたちは広間の扉の前にたどり着きました。


「イングラム・ド・イルフカンナ王太子殿下、プリム・ラ・ジンカイイ侯爵令嬢、ご入場!」


 高らかな呼び声と共にわたくしと殿下は広間の扉を潜りました。会場の視線が一点に集まります。

 煌びやかなシャンデリア。着飾った男女。飾り立てられたホールの奥には、いくつかのテーブルにたくさんの料理が並べられております。

 ドリンクカウンターでは忙しく飲み物を用意する使用人と運んでいく給仕たち。

 全員が飲み物を持たなければ始まらないお祭り騒ぎ。

 その渦中に、わたくしと殿下が飛び込めば、これが最後の客だと知れます。


「大丈夫だ、落ち着いて」


 知らず、手に力が籠ったのでしょう。殿下が小さく囁くように耳元で仰います。おやめになって! お耳が溶けます!

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