空想解析と現実問題
君は最近のファンタジーを見たことはあるか?
僕はよく見るし、よく読む。
ああ、別に見ていなくても責めるつもりなんて毛頭ない。
別に君がサスペンスを読もうが、ホラーを読もうが、恋愛を読もうが、僕はそれに口出しする意味も権利もない。
流石にそれが犯罪を教唆するようなものなら別だけどね。
ともかく、これからの話には「ファンタジー」を最低限知っていれば大丈夫だ。
気を取り直して、君は「獣人」や「エルフ」という種族を知っているか?
獣人は獣の特徴を持った人型で、エルフは耳が尖ってて魔法や弓が上手い、というのが一般的なイメージだと思う。
個人的に、僕は「獣人」なら、人肌もほとんどないくらいが良いと思うけど…まあ、この話は戦争になるからよそう。
話が逸れてしまったけど、まあ待ってくれ。そんな「無駄話するなら帰るぞ」みたいな目でこちらを見ないでくれ。
僕は常々考えているんだ。
そんな圧倒的に人間より強い種族がいるのに、なぜ人間は生き残れるのか、と。
ファンタジー世界では、人間は「百害あって一利なし」の権化のような生物として描かれることがままある。
こちらの世界で例えるなら、ゴキブリのようなものか、と思えるような描写がされることすらある。
なんなら、ゴキブリよりも脆弱で、的が大きい相手を、なぜ彼らは駆逐しないのかと。
実際、その手のお話の中では、多くの人型の種族から、人間は恨みを買っている場合が多い。稀に、一部で交流があるだけだったりする。
もちろん友好的な関係の場合もあるが、一部の人間は、彼らを攫って奴隷としているものもある。
もしも、人間同士でそんなことがあっても、個人や国、団体を恨むことはあっても、種族として恨むことはまずない。
なぜなら、自分たちも「同じ人間」だからだ。
しかし、ファンタジー世界なら、違う種族で、滅してもなんの問題もない。
さらに、同じように人間を恨む種族も見つけることはできるはずだ。
そんな世界で、人間の生きる場所はあるのか?
それに対しての答えは単純にして明解。
「小説だから」だ。
魔法の言葉であり、全てを解決する「ご都合主義」。
それ自体はなんの問題もない。
だが、いや、だからこそ。
そんな「ご都合主義」は「御伽噺の世界」でしか成り立たないし、実際問題として、今、僕は大変な目に合っているのだ。
炎と氷と風が舞い踊り、かつて人々が栄えた摩天楼は崩れ、廃墟の山と成った東京は、彼らに滅ぼされる。
自らの種族の邪魔となる人間は、彼らには駆除対象でしかないのだ。
二人の人影と、掲げられた二流の旗。
12の獣が集まる模様の旗と、大樹と寄り添う人型の模様の旗。
獣人連合軍と、エルフの軍は、不可視で不可知の能力で、最後の一人と確定された僕に問いかける。
「言い残す言葉はあるか?バケモノの子よ」
鉄よりも硬いという、剛毛が覆う太い腕は、僕に槍を向ける。
「現実は小説よりも、ずっと奇で、残酷だったよ」
逃げて隠れて疲れ切った僕は、緋くて折れ曲がった脚を見ながら、目を閉じて言葉を紡ぐ。
「恨むなら、世界を支える樹を燃やした馬鹿を恨みなさい」
陶器のように真っ白で細身の腕は、杖を僕に向ける。
これが現実、ご都合主義は現実を捨て、どこまでも冷酷に灰色のリアリティを降らせる。
僕はファンタジーを嫌いに成ったみたいだった。