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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第90話

 俺達は殿下の親衛隊を伴って、一騎討ちが見える所まで移動した。

 双剣を扱うアンセルム卿に対して、戦棍(メイス)を構えるイアサント。どちらもそれなりに傷を負っているが、かすり傷だ。いや、少しアンセルム卿の顔色が悪い。


「アンセルム、降伏せよ。でなければ死ぬ」


「ヴォクラー神のもとへ行けるのだ。貴様も連れて行ってやろう」


 二人は距離を取り、話し合っている。だが、アンセルム卿が明らかに弱っている。戦棍メイスに毒でも塗ってあるのか?

 しばらく睨み合った後、二人は同時に動いた。アンセルム卿は馬を煽って前進し、イアサントは首飾りを手に取った。いや、吹き矢か。吹き矢に毒が塗ってあったのか。


「ぬぁぁぁ!」


 アンセルム卿は吹き矢を躱さず、イアサントまで一直線だ。死を覚悟しているのだろう。それを感じとったのか、イアサントも戦棍メイスを構えた。


 二人が交差する瞬間、互いを攻撃していた。アンセルム卿の双剣がイアサントの首と右腕を斬り飛ばした。だが、アンセルム卿の胸にイアサントの戦棍メイスが直撃していた。


「がはっ…」


「「アンセルム卿!」」


 俺はヌーヴェルから飛び降り、アンセルム卿に駆け寄った。ジュスト殿も来ている。ジュスト殿が脈を確認したが、首を振った。


「殿下、相討ちでございます」


 ジュスト殿はアンセルム卿の死を殿下に報告した。


「そう…か」


「殿下、アンセルム卿の死を無駄にしてはなりませんぞ」


 ジュスト殿は殿下にそう言った。俺は何を言って良いか分からぬ。


「退却だ!」


「退け!退けぇ!」


 歩兵隊が退却して行った。


「殿下、追撃しますか?」


「…気づかれないよう跡をつける。攻撃はするな」


 俺達は殿下の指揮の元、歩兵隊の跡を付け始めた。もちろんある程度、離れてからなので気づかれてはおらぬだろう。


「殿下、ジェローム卿やアシルに連絡しておきます」


「頼んだ。アンセルムの最期も伝えてやってくれ。ああ、それと陣を構えるように伝えてくれ」


「はは」


 アシル、聞こえるか?


 ───聞こえる───


 アンセルム卿が一騎討ちの末、討ち死になさった。


 ───何っ?!───


 イアサントと相討ちだ。


 ───…そうか───


 ああ。今は逃走中の歩兵隊を追跡している。そちらはジェローム卿の隊と協力して陣を構えておいてくれ。


 ───わかった───


 俺はアシルとの念話が終わったことを殿下に伝えた。


 殿下は既に立ち直っている。言い方が悪いかもしれぬが、討ち死にしたのが、ジェローム卿でなくて良かったかもしれぬ。ジェローム卿はエジット殿下の育ての親だと聞いたので、こんなに早く立ち直れなかっただろう。

 アンセルム卿と接触したのが最近なので、まだ良かった。


 そもそも王族であるにも関わらず、将軍達と接触が無かったのはこの国の王族の教育法に関係する。

 この国では王太子以外の王族は、王子であれば武官が、王女であれば文官が育てる。そうして育てられた王族は国王を支え続け、生涯結婚することは無い。もし結婚すれば、死を持って責任を取る。これは無駄な王権争いを避ける為とされている。


 まあそういうことでエジット殿下はアンセルム卿を含んだ四人の将軍と接触が少ない。なので早く立ち直れたのだろう。それでも悲しい事には変わりないが、指揮を執れなくなるほどでは無い。


「ジュスト殿」


「なんだ?」


「作戦とはこうも上手くいかぬものか?」


「いや、イルモスタ平原まで衝突しないはずだった。それに敵が多すぎる」


「歩兵は何人いた?」


「だいたい二十万だ」


「二十万?多いな。騎兵と合わせたら二十六万か…」


 南と東の将軍の麾下を合わせても二十万だ。それも国境をガラ空きにしてやっとだ。


「ジル卿、これは可能性に過ぎないが、アクレシス卿が裏切ったのではないか?いや、王に忠誠を尽くしているから裏切りではなく、裏切らなかったのか?」


「そうかもしれぬな。だが、国王が王都を離れたのであれば、王都はこちらのものだ。デトレフ卿が上手くやっていれば、だがな」


「そんなことも言っていたな。確か国王が出立した後、お告げを発表するのだったな」


「ああ。そうすれば、民はこちらにつくはずだ。もし国王が勝っても王都には入れぬだろう」


 ちなみにデトレフ卿には手紙で伝えてある。俺が国王に処刑されそうになった日にアシルが届けて来ているはずだ。


「そういえば王太子はどうした?」


「国王の付属物に過ぎぬ。もはやエジット殿下の敵にはならぬだろう」


「弓が得意だと聞いたが大丈夫そうか?」


「ああ。単騎で戦況は覆せまい」


「そうだな」


 俺はその後も、ジュスト殿と話していた。エジット殿下はルイ殿が慰めていた。



「殿下、日も暮れた事ですし、兵を率いて陣にお戻りください」


「ダメだ。このまま追跡すれば何かわかるかもしれない」


「それは我々にお任せ下さい。それとも殿下は私やジル卿を信用できませんか?」


「信用している。だからと言って任せっきりには…」


 日も沈み、暗くなってきたのでジュスト殿が殿下を説得している。殿下には休んで欲しいものだ。


「殿下、兵も休ませねば全力を出せませぬぞ。ここは兵士を想って陣にお帰りください」


「ジル卿の言う通りです。このまま二十万人で追跡しても、千人で追跡しても同じです」


 ある程度戦ったので二十万人もおらぬだろうが、まあ良いのだ。


「…分かった。無理を言ってすまなかった」


「いえ。ジル卿、殿下を任せたぞ」


「ああ。後で別の隊を向かわせるからそれまで頼んだぞ」


「任せてくれ。見失ったりはしない」


 俺達はジュスト殿と僅かな兵を残して陣に戻った。


「殿下、ご無事でようございました」


 アシルやジェローム卿に迎えられた。


「殿下、アンセルム卿の事は残念でありました。ですがアンセルム卿も戦場で将軍として、騎士として死ねて本望でしょう。それがヴォクラー神の御為であるなら尚更です」


「ああ。アンセルムの為にも勝たなくては。改めてよろしく頼む」


「「「はは」」」


 その後、俺達は殿下の幕舎にお邪魔し、夕食を食べながら、軍議を開いた。

 ちなみにジュスト殿の所には人狼隊と人虎隊を派遣した。絶対に攻撃してはならぬ、と言ってあるので大丈夫だろう。


「アンセルム卿が指揮していた第四陣を誰が引き継ぎますか?」


 ジェローム卿がそう言った。


「どうすれば良いのだろうか。何か案があれば言ってくれ」


「ジル卿に指揮を執って頂けばよろしいのでは?」


 そう言ったのはジュスト殿だ。もう戻ってきたのか。


「確かにジル卿が適任ですな」


「ジル卿、引き受けてくれるだろうか?」


「ありがたいお言葉ですが辞退させて頂きます。私には荷が重すぎます」


「アンセルムの部下に聞いてみよう。呼んできてくれ」


 まずいことになったな。俺は真面目に作戦を遂行することは苦手だ。遊撃の方が性に合う。


「お呼びでしょうか?」


 そう言って幕舎に入ってきたのはトメルだ。アンセルム卿の部下を代表してきたのだろう。


「ああ。まずは座ってくれ」


「失礼致します」


「うむ。早速だが第四陣をどうしようか?」


「どう、とは?」


 俺はこれまでの会話を説明してやった。その最中、俺は良い事を思いついた。


「そういうことなんだが、トメル殿。指揮官になってもらえるか?」


「私ですか?」


「ジル卿、逃げてはならんぞ」


「そうだ。逃げないでくれ」


「いや、逃げてはおらぬが…」


「私でよろしければ引き受けさせていただきます」


「本当か?!よろしく頼むぞ」


「はは」


 良かった。これ以上この話をしていたら、何か言われるだろうから話題を変える。


「ところでジェローム卿。シルヴェストルはどうしたのだ?」


「あやつなら捕らえてある。腹の傷のせいで逃げはせんだろう」


「そうか」


 俺達は話題も無くなり、静かに夕食を食べ始めた。


 ───ジル様!───


「!」


「どうした?」


「ケリングから念話が来た。少し待ってくれ」


 どうした、ケリング?


 ───ラポーニヤ城が攻撃されています。念話も結界のせいで…───


 そうか。状況は?


 ───アルフレッドと名乗る弓の使い手が厄介ですが、それ以外は殲滅可能です。あ、それとギュスターヴと名乗った結界師も厄介です───


 アルフレッドは王太子だ。そしてギュスターヴは国王だ。ところで数は?


 ───なんと…あ、騎兵三万に先程の歩兵二十万が加わり、合計二十三万程だそうです───


 味方に損害は?


 ───ヴァトー殿によると死者は出ていません。ただ、ギリギリ均衡を保っているようですので、危険な状況です───


 分かった。また連絡する。


「殿下、ラポーニヤ城が攻撃されています。国王と王太子を名乗る者も確認したそうです」

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