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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇
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第86話

「何が『敵より強い兵を用意するのも戦略の一つだ』だ。ヤマトワ兵を信用させたかっただけだろう?」


「それは皆わかっているだろう。だがそれを言っては面白みに欠ける」


「兄上も変わったな」


「そうか?」


「ああ」


 アシルが迎えに来てそう言った。遠くから見ていたらしい。


 俺はヌーヴェルから降り、会議室に戻った。全員戻ってきて会議を再開する。


「殿下、一部を除いて全て捕虜にいたしました」


「うむ。これで疑う者も減るだろう」


 殿下はトメルを見ながらそう言った。トメルはその視線に気づいておらぬ。


「私が見た限り、特に怪しい点はございませんでした」


「私は置いていかれたので分かりませんな」


 リョウ達について行った監察官は戦闘を間近で見ていたが、俺達についてきた監察官は戦闘を近くで見ておらぬ。その事を言っているのだろう。


「ただ、私の護衛として二人を残して下さり、その二人は私を気遣ってくれましたので、個人的には信じたいものです」


 意外と良い奴であった。いや、指示を出した俺と、護衛として残した者が優秀だったのだ。


「ならば良かった。父上との本格的な衝突までに仲を深めれそうか?」


「殿下、我々上層部が仲を深めたところで、一般兵の信頼関係は築けませんぞ」


「む。そうだな。ならば合同演習でもしてみたらどうだ?」


 その後、色々あったが、俺達は合同演習の予定を組んで会議を終えた。


 もうすぐ夜だったので近しい者のみで夕食を食べることとなった。

 エジット殿下やジュスト殿、ジェローム卿、アンセルム卿、アシル、レリア、エヴラール、アキ、ドニス、アルフォンス、ラミーヌだ。

 アキにはサヌスト語で話すから辞めておいた方が良いと伝えたが、ついてきた。


 集まったは良いが、まだ夕食には早い。なのでシガマトン領主からの贈り物を渡すことにした。


「エジット殿下、我らが入港したのはシガマトン領という土地でした。その地の領主に殿下の事をお話したところ、将来的には国交をしようではないか、という話になりました。まず勝手にそのような事を決めてしまい、申し訳ありませぬ」


「いや、良い。その地の領主は開国させるだけの発言力はあるのか?確か百年ほど鎖国が続いていると聞いたが」


「殿下、ヤマトワの政治体制をご存知ですか?」


「ああ。将軍に政治を任せているとか」


「ええ、その通りです。シガマトン領主は将軍の弟だそうです。まあ開国されると見て間違いないでしょう。で、その領主からこちらを預かって参りました」


 俺はそう言って異空間から脇差と呼ばれる刀を取り出した。ジャビラ刀の小さい版のようなもので、護身用に持ち歩くのだそうだ。


「これは?」


「護身用の小刀で脇差と言うそうです。交易を始める前に、相手の長にその脇差を贈るそうです。商談の際は武器を預けるそうですが、そちらは護身用として持つことが許されるそうです」


「それはそれは。大事にしよう」


 俺が脇差を渡すと大事そうに懐にしまった。


「ジル卿、今は私用プライベートだ。そんな堅苦しい言葉はやめてくれ」


「…殿下、私は殿下の臣です」


「そんな事を言ったらジル卿は俺が崇めるヴォクラー神の使徒だ。身分だけで言ったら逆だ」


「…そういうことなら、私用プライベートでは以前通りに話そう。だが、公用パブリックでは敬語とさせてもらう」


「そうしよう」


 俺は結局、中途半端だな。いや、俺は悪くないだろう。これは殿下が悪いのだ、多分。


 周りを見ると、俺が殿下と話している間に他の者も話していた。アルフォンスなどは、こういう人達とは合わぬと思ったが意外と馬が合うようだ。


「夕食の用意が整いました」


 ルイ殿やカルヴィン達が夕食を運んできた。全て並べ終えるとルイ殿とカルヴィンが残り、それ以外が部屋から出ていった。


「冷めないうちに食べよう」


 殿下の一声で俺達は夕食を食べ始めた。なんと言うか普通の夕食会という感じだったのでヤマトワの酒を出した。


「殿下、ジュスト殿。ヤマトワの酒だ。飲もう」


「あ、いや、俺は…」


「ジュスト、今日は良いぞ。楽しもうではないか」


 ジュスト殿は確か禁酒をしていたな。だが殿下に言われるとすぐに飲み始めた。


「兄上は飲むな」


「そうだよ。ジルは前、酔っ払って大変だったんだから」


「主殿、これでも飲んでおけ」


 アシルに酒を取り上げられ、レリアに諭され、アキに果実水を渡された。レリアとアキは俺を監視するように俺の両隣に座った。


「ははは!ジル卿は失敗したようだ」


 顔を赤くしたジェローム卿に笑われてしまった。まあ良い。


「主殿、飲め飲め」


 アキが先程の果実水を俺の口に流し込んだ。その顔は少し赤い。いつの間にか酔っている。


「殺す気か」


 危うく溺死するところであった。


「主殿はこれくらいでは死なん。さあ次だ」


「あ、ダメだよ」


 アキが持っていた酒を俺に渡そうとしてレリアに取り上げられていた。そしてレリアは俺に骨付き肉を差し出した。


「ジルはこっち」


「わかった」


 俺はそう言ってレリアから骨付き肉を受け取ろうとした。


「はい」


「くれぬのか?」


「あ〜ん」


 レリアはそう言って更に差し出してきた。


「主殿、こうするのだ」


「!」


 アキが後ろから俺の上顎と下顎を掴んで口を開けさせた。そこにレリアが心配しながらも骨付き肉を突っ込んだ。アキが手を話したので俺は骨付き肉を食べた。骨はついているが噛み砕けば、食べれる。


「アキ、ダメだよ。危ないよ」


「姫、主殿はこれくらいでは壊れんぞ」


「それでもダメなの」


 俺は骨付き肉を飲み込んでアキを睨んだ。


「顎が外れたらどうする?」


「下から殴れば治るぞ。こうやってな!」


 アキはそう言って俺の顎を殴った。別に痛いだけなので大丈夫だが、普段のアキならこんな事せぬだろう。


「おい、カルヴィン。アキはもう酔っ払っている。寝かせてやれ」


「はは」


 カルヴィンにそう言うとアキは俺の肩を叩きだした。酔っ払っていないと言いたいのか、軽く叩いているだけだ。


「酔っ払ってなどおらんわ」


「カルヴィン、連れて行け」


「はい」


 アキはカルヴィンに連れられて出て行った。


「兄上、アキなど最初から連れて来なくて良かっただろうに」


「アキに聞かれたら殴られていたぞ」


「まあそうなんだが…」


 ちなみにアキとアシルは同じくらい強い。いや、接近戦はアキの方が僅かに強く、遠距離戦はアシルの方が圧倒的に強い。

 ヤマトワで一度、戦わせてみた時は剣で戦っていたが、接戦の末、アシルが負けたのだ。その時に殴られていたのでアシルはアキに殴られるのを恐れている。ちなみにその時にできたたんこぶはまだ治っていないらしい。魔法で治せぬように殴ったらしく、魔法で治らなかった。


「ジル、もう一回。あ〜ん」


 レリアが使っていたお箸で肉じゃがという料理を俺に差し出してきた。俺はもう学んでいる。『あ〜ん』と言われたら口を開けたら良いのだ。

 ちなみにレリアはお箸にハマっている。楽しいらしい。それと肉じゃがという料理を作るのにキトリーがハマっているらしい。


 俺はレリアが差し出した肉じゃがの肉を食べた。やはり美味いな。キトリーが肉料理を作れば、不味くはならぬ。いや、キトリーの不味い料理など想像出来ぬ。


「ジルもやって」


「ああ。何が食べたい?」


「ジルに任せるよ」


「そうか」


 俺は今まで使っていたお箸で肉じゃがの緑色の野菜を取った。そしてレリアに差し出す。が、レリアは口を開けぬ。


「あ〜ん」


 やはり『あ〜ん』と言うのは口を開けろ、という意味らしい。レリアは緑色の野菜を食べた。


「ふふ。美味しい」


「そうか」


 ふとアシルの方を見ると、殿下と二人でこちらを向いていた。ジェローム卿もこちらを向いている。


「よくもまあ、人前でイチャイチャと」


「殿下、愚兄が申し訳ない」


「いや、気にするな」


 三人でそう話していた。ジェローム卿は酔うとあんな口調になるのだな。なんと言うか、イメージに無いな。

 ジュスト殿の方を見るとエヴラールに取り押さえられていた。確かジュスト殿は強い酒を飲むと戦闘狂になるとか言っていたな。

 アンセルム卿の方を見ると、ルイ殿とドニス、アルフォンス、ラミーヌと語り合っていた。五人とも落ち着いて酒を飲んでいるな。なんと言うか、大人だ。


 その後、特に何事もなく、宴会は終わった。いや、エヴラールがジュスト殿を打ち負かしてジュスト殿が不機嫌になっていたな。


 俺がレリアと部屋に戻ると、俺のベッドでアキが寝ていた。自分の家のように大の字で寝ている。いや、アキにとってはここが家なのか。ちなみにファビオやアキの弟妹には部屋を与えてある。もちろんアキにも与えたが、アキはその部屋には一度も行っておらぬ。


「どうする?あたしの部屋で寝る?」


「いや、こうすれば良い」


 俺はアキを端の方へ追いやった。俺のベッドは大きいので三人くらい余裕だ。


「これで寝れるぞ」


「そうだね」


 俺は魔法で寝巻きに着替えた。レリアは一度部屋に戻ってから、部屋着に着替え、俺の部屋にやって来た。


 その夜、俺達は俺のベッドで三人並んで寝た。

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