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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第84話

 エヴラールが戻ってきたので俺達は入城する。

 俺は先頭でヌーヴェルに乗っている。入城するのは代表格のみである。アシルやレリア、アキ、キイチロウ、リョウ、エドメなどだ。もちろんエヴラールや侍従武官もいる。そういえば、フローラン達に交渉を任せようとしていたが忘れていたな。自分でしてしまった。


「エジット殿下!」


 わざわざエジット殿下やジェローム卿が迎えに来ていた。

 俺はある事を決めていたので驚いた。


「わざわざ殿下がいらっしゃらずとも…」


「ジル卿、よそよそしいな。何かあったか?」


「はい」


「まあ中で聞こう」


 中からカルヴィン達が来ていたので残りのウルファーやヤマトワの者は任せておいて良いだろう。

 俺は殿下と一緒に入城し、会議室に入った。会議室には殿下とアシル、ジェローム卿、ジュスト殿、ルイ殿、エヴラール、そしてアンセルム卿だ。アンセルム卿は初対面なので自己紹介だけしておいた。


「早速ですが本題に入らせていただきます」


「ジル卿、なぜ敬語なんだ?」


「本題に入らせていただいても?」


「ああ、すまない」

 

「エジット殿下、このジル・デシャン・クロードを一人の将として迎え入れていただきたい」


 ある事とはこの事だ。アキを見ていてふと思ったのだ。気に入った主に仕える事は幸せな事なんだ、と。なので俺はエジット殿下に仕えることにしたのだ。


「ちょっと待ってくれ。そのジル・デシャン・クロードと言うのはジル卿か?」


「はい。本名が判明致しました」


「で、その、なんだ。俺の配下に加わると言うことか?」


「はい。私は殿下の剣となりましょう」


「断らせてもらう」


 まさか断られるとは思ってなかったので、なんと言って良いか分からぬ。


「ジル卿、殿下は何もジル卿のことが気に入らないのでありません。サヌスト国王はヴォクラー教徒の代表、使徒であるジル卿は言わばヴォクラー神の代理です」


「アンセルム卿の言葉に付け加えると使徒であるジル卿は現人神も同然。そして神が人間に仕えるなどありえない」


 どうすれば良いのだろうか。将軍二人にそう言われると、更になんと言って良いか分からぬ。


「ジル卿、殿下に仕えずとも俺達は共に戦う仲間だ」


「ジュスト殿の言う通りです」


 なぜか皆が俺を説得しようとしている。どうしたものか。


「もう一度、兄上の話を聞いて欲しい」


 アシルがそう言ったので俺は立ち上がった。アシルと俺が兄弟であることは説明済みである。


「常識に囚われることをヴォクラー神は好みませぬ。ヴォクラー神は、奴隷制度をこの世界から完全に無くす為に私を遣わせました。つまり今は改革の時代です。そして私がエジット殿下に仕え、ギュスターヴ王を打倒し、大陸を統一することをヴォクラー神は望んでいるはずです」


「俺に仕える事は、別に望んでいないと思うが」


「望んでおられぬかもしれませぬ。ですが私が殿下の配下となり、私の配下が正規軍となることで魔族の地位向上や負のイメージの払拭が出来る、と考えられており、私にそう仰いました」


 俺なりの解釈ではあるが、似たようなことを言っていたはずだ。それに人間と魔族を平等に扱うこと、と言うお告げもあったのだ。これで良いだろう。


「ジル卿、そういう事なら承知する」


「ありがとうございます」


「うむ。エヴラールからも一つあるらしい。聞いてやってくれ」


 俺は少し驚きながら、エヴラールの方を見た。


「ジル様、教会勢力から伝言です。『もしジル様が本当の使徒様であるならば、最初に掲示されたお告げのうちのどれか一つを達成してください。達成した暁には、我々は教皇の座を用意して待っています』との事です」


「そうか。ならばエジット殿下に王になって頂かなければならぬ。ところで、なぜエヴラールが教会勢力と繋がっているのだ?」


「話せば長くなるのですが…よろしいですか?」


「ああ」


 エヴラールが語ったのはエヴラールの過去の話である。


 エヴラールは兵役後も軍に残っていた。二年間、軍に務めた後、聖堂騎士団に勧誘(スカウト)され、入団したそうだ。軍で優秀だったのでそれなりに目をつけられていたようだ。もちろん良い意味で。

 そしてエヴラールは、大司教ニルスからある司令を受けた。それは『使徒と名乗る男ジルの護衛』である。教会勢力は中立を貫くと公言してしまっていたので、聖堂騎士団を動かすわけにはいかぬ。そこで白羽の矢が立ったのがエヴラールだ。エヴラールは七年間務めた聖堂騎士団を辞め、俺の下にやって来た。

 ちょうどその頃、俺の名前で募兵していたのでそれに参加した。どうにかして俺に目をつけられようとしていたエヴラールは、見事に俺の従騎士となったのだ。


 まあ簡単に纏めると、元聖騎士のエヴラールが俺の護衛にやって来た。これだけの事である。ちなみに他にも元聖騎士が二十三人いるらしい。普通の兵士として隠れていたり、文官として隠れていたりするそうだ。


「隠していて申し訳ございません」


「良いぞ。隠し事の一つや二つくらいでは怒らぬ」


「はは」


 俺は色んな者に助けられながら、生きていたのだと知れてよかった。ずっと自分の実力で運営していたと思っていたが、エヴラールのように陰ながら支えていてくれた者がいたのだ。感謝しなければ。


「では一旦解散とする。昼食を食べ終わった後に遣いを出すから、それから公式の会議をしよう」


 エジット殿下がそう言ったので皆が頭を下げた。もちろん俺も下げた。

 エジット殿下が退室してから、エヴラールと私室に戻った。

 アキが我が家のようにくつろいでいる。レリアは友人の所に行った。お土産を渡しに行ったそうだ。


「ファビオ達はどこにいる?」


「外で遊んでいるぞ。宝探しとか言って走り回っていた」


「城壁の外か?」


「安心しろ。護衛はついているし、ただの人間に負けるはずがない」


「そうか。ところでレリアは何か言っていたか?」


「『あたしはアルテミシアと食べて来るから、待たなくていいよ。ってジルに言っておいて』と言って出て行ったぞ。主殿はワタシと二人で食べよう」


「そうか。エヴラール、先程の会議の内容をドニスとキイチロウに知らせておいてくれ。それと、おぬしもちゃんと食べておけ」


「御意」


 俺はエヴラールが元聖騎士だと知っても対応は変えぬ。エヴラールの過去がどうであれ、今は俺の従騎士なのだ。


 俺はキトリーを喚んで昼食を食べた。


 昼食後、アキにサヌストの礼儀を教えてやった。エジット殿下に失礼のないようにする為だ。ヤマトワとサヌストと礼儀は違うかもしれぬので、一応教えてやった。それにアキが礼儀を知らぬ可能性も無くは無い。


「ジル様、殿下の遣いの方がいらっしゃいました」


 エヴラールの声がしたので、私室から出て、三人で会議室に入った。

 既に三十人ほどがいる。まだまだ入ってくる者もいるだろう。


 結局、七十人ほどだ。誰も従者などは連れていないので、皆が座っている。ギリギリ定員内だ。


「殿下がいらっしゃいました」


 出入口に立つ者がそう言うと皆が立ち上がって、頭を下げた。エジット殿下は真ん中を歩いて行き、一番奥の席に座った。すると皆が頭を上げて座った。


「早速始めよう。まず、お告げの確認だ。ジル卿、頼む」


 殿下がそう言ったので俺は例の巻物を取り出して立ち上がった。そして巻物に魔力を通す。


「ここに記されている通りです。

『一つ。サヌスト王国第二王子エジットが集めた兵を四月中にラポーニヤ魔砦に集め、互いの実力を知ること。

 一つ。花月の日の朝、ラポーニヤ魔砦を出立すること。

 一つ。人間、魔族を平等に扱うこと。以上』

 現在、ラポーニヤ魔砦はラポーニヤ城となっております」


 俺はそう言って座った。全員知っているはずだが、念の為、確認をしたのだ。

 ちなみにこの会議は公式の会議なので、書記官五人が俺達の発言を一文一句逃さずに記録している。一人一枚で書いているので間違いは起こらぬはずだ。

 少し覗いてみると、略字で書かれていた。いわゆる速記と言うヤツだろう。公式の書類にする時に五人の物を確認しながら、本来のサヌスト語に直すのだろう。


「一つ目は達成出来ているな」


「殿下、我々はまだ魔族とやらの実力をしれていないので、達成出来ていないのではありませんか?」


 手を挙げてそう言ったのはアンセルム卿だ。

 俺が帰るまでに合同訓練はほとんどしておらぬそうだ。そもそも全員が集まったのが三日前のことだそうだ。


「アンセルム卿の言う通りです。それにジル卿が連れ帰った兵士もおります」


「ジル卿、疑うようで悪いのですが、信用できるのか?その者達は?」


 アンセルム卿の部下がそう言った。名は知らぬ。

 アキやキイチロウ、リョウにはヤマトワ遠征組の通訳がいるので意味は通じている。

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