第71話
「べ、別に変ではないだろう?」
「そ、そうだよ。ね?」
「あ、ああ」
俺とレリアは皆に誤解を与えぬように大きめの声でそう言っておいた。レリアも言ってから誤解を与えるかもしれぬと思ったのだろう。
「ファビオ、朝ご飯は食べたか?」
「まだ!アニキ達を待ってたんだ。あ、でもウルとレノラ姉はもう食べたよ」
「そうか。では行こう」
俺はそう言って二人とともにパトリスの所へ行った。
「旦那、昨日は盛り上がったな」
「そうか。で、まだステーキはあるのか?」
「ああ。思ってたより旦那が早く帰ったんでな」
「すまぬ。どれくらい残っている?」
「旦那が満腹になるくらいは残ってるぜ」
「そうか。では全てもらおう」
「そう来なくっちゃな」
俺が肉を全て頼んだのでファビオとレリアは普通のモーニングセットを頼んでいた。それを確認してから俺は席に着いた。
「ジル様、妾を置いていくなんて酷いことをするわね」
俺が振り向くとキアラが一人でいた。
「あ、ジルのベッドで寝たいんだったらあたしのベッドにおいで。あたしがジルのベッドで寝るから」
「あら、そんな気は遣わなくて大丈夫よ」
「え?」
「妾がジル様の夜伽をするわ」
「よ、夜伽?!」
レリアは何を驚いているのだろうか。臣下が主の夜伽をするのはなんらおかしくない。
「その必要は無いぞ。エヴラールがいるし、もしもの時はヨルクやセリム達もいる」
「「え?」」
レリアとキアラがこちらを見た。
「旦那、多分旦那が思ってる意味じゃないと思うぜ」
パトリスがやってきてそう言った。ステーキが焼けたようだ。
「どういう意味だ?」
「ちょっとこっちに」
俺はパトリスの言う通りにレリア達から少し離れた。
「たぶんだがあの二人が言ってるのは同衾って意味だと思うぜ。あとそんな話は子供の前でしない方がいい」
「そうか。分かった」
俺は席に戻った。
「さっきのはなかったことにしてくれ」
「分かった」
「分かったわ」
「では冷めぬうちに食べよう。いただきます」
俺はそう言ってステーキを食べた。
食後、俺は会議室にウルファーの二十人を集めた。アシルとレリアと相談して誰を誰の専属にするか決めようという話になったのだ。
俺は名簿を眺める。
アメリー、ロアナ、フランシーヌ、サラ、マノン、エジェリーの六人がエドメが選んだ美女。マリー、ロズリーヌ、コデルロス、ガエタンの四人がその世話役。ちなみにマリーとロズリーヌが女でコデルロス、ガエタンが男だ。
ファビオとウル兄弟の世話役がレノラ、エレーヌ、オーレリアンだ。こちらはオーレリアンだけが男だ。
ハンノ、フベルトゥスが従者でリボーリウス、ダグマル、ロタールが護衛だ。こちらは全員男だ。
「俺はレノラだけで良いぞ」
俺がそう言うとレノラが手を挙げた。
「なんだ?」
「あの、私一人ではお二人の面倒を十分に見ることはできません」
「そうか。役割分担をしているのか?」
「はい」
「どうやって分けているんだ?」
「エレーヌが寝かしつけを、オーレリアンが力仕事を、私が食事などの面倒を見ています」
「そうか…では俺はレノラとエレーヌだ」
「あの…オーレリアンは?」
「力仕事なら俺がやろう」
「そんな事はさせられません」
「そうか。ではオーレリアンも俺の部下に」
俺がそう言うとレノラが頭を下げて座った。
「ジル殿、俺は戦えるか力仕事ができる者が五人欲しい」
「そうか」
アシルが提案してきた。護衛は皆、レリアにつけようと思っていたが俺がすれば良い。それに五人ならなんとかなるだろう。
「ロアナ。おぬしらに世話役などいるか?」
「え、あの、えーと…いたら楽だな〜みたいな感じです」
「では要らぬな」
「あ…はい」
俺は取り繕わないであろうロアナに聞いた。アメリーは気を遣っていらないと言いそうだがロアナは嘘は言わなそうなイメージがある。他の四人は知らぬ。
「では、コデルロス、ガエタン、ハンノ、フベルトゥス、リボーリウスはアシルの下につける」
「ジル殿、感謝する」
「ああ」
俺は残った者を数えた。ファビオとウルは含まないので十人だ。
「レリアには残った者を全てつけよう」
「ちょっと待って。ジルは?もっと部下を持ったら?」
「誰もおらぬぞ」
「なんで?」
「ダグマルとロタールはレリアの護衛につける。すると残った者は皆、女だ。他の者にレリア以外の女がいるとは思われたくない」
「じゃあ侍女ってことにしたらいいと思うよ。あとあたしは部下はいらないよ?」
「いや、ヤマトワで一度別行動をするのだろう?その時に護衛がいるだろう?」
「キアラさんと一緒だから大丈夫だよ」
「いや、だがな…護衛がいる、と思わせるだけで手を出す輩は減るものだ。キアラは強いが護衛には見えぬぞ」
「んー分かった。でもあたしに護衛をつけるなら、ジルも侍女を持って」
「ではロアナとアメリーだ」
「もう一人くらい持ってよ」
俺は残りの四人を見る。名前は知っていても顔を知らないのでどう選べば良いのだろうか。それに話したことも無い。
「そこのおぬし。名はなんという?」
俺は目が合った者にそう尋ねた。
「さ、サラです」
「そうか。ではおぬしに決めた」
「あ、ありがとうございます…?」
俺はなんとなくで選んだがそれで良いのだろうか。
「ではフランシーヌ、マノン、エジェリーはレリアの下につくように。何か困っていたら手伝ってやれ」
俺はそう言って立ち上がり、部屋から出ていく。
「ジル殿!どこに行く?」
「解散だ」
俺はそう言って甲板へ上がった。
先程、俺の部下にすると言った者がついてきた。ファビオとウルもいる。ちなみにウルはエレーヌに抱かれて眠っている。
「エレーヌ、ウルはもう少し寝るのか?」
「はい。普段は昼前まで眠っています」
「ではベッドで寝かせてやれ」
「分かりました」
エレーヌは船内へ戻って行った。
「ロアナ、アメリー、サラ、レノラ。おぬしらはファビオを連れてショータ殿の所へ行き、ファビオとウル、ロアナ、アメリー、サラ、レノラ、エレーヌ、オーレリアンの和服を用意してもらうように頼め。代金としてこれを渡せば、用意してくれるだろう。多かったら、まあ好きにしてくれ」
俺はそう言って金貨一万枚が入った皮袋をサラに渡した。サラは一礼して船内へ行った。その他の四人も後に続いた。
「オーレリアン、力仕事とはなんだ?」
「いや、普段は雑用とかをしています。この船は全て担当者がいるので私の出番がなくて…」
「雑用?」
「荷物を運んだり、その他にも…」
「いや、全部聞きたい訳でない」
「そうですか」
「おぬしはウルについていてやれ。いつもそうしてたのだろう?」
「あ、いえ。この船に乗ってからはパトリス殿の手伝いをしてました」
「ではパトリスの所に行ってやれ」
「分かりました」
オーレリアンはパトリスの所へ向かった。多分オーレリアンとはあまり気が合わぬだろう。
「セリム。来い」
「何でしょう?」
「俺の体を調べてくれ」
「どう調べましょう?」
「いや、内臓とか魔石とか」
「承知しました」
セリムは目を瞑り、俺に掌を向けた。すると体の中をなぞられているような気がした。
「これは…!」
「なんだ?病気か?」
「いえ、少々特殊な体をしていますね」
「どういうことだ?」
「魔石以外の部分が全て内臓です。それも特殊な内臓です」
「どう特殊なんだ?」
「通常の人間が持つ内臓の機能全てが備わっています」
「それだけか?」
「魔石も見たことないほどの大きさです。胴体の八割ほどが魔石です」
「そうか。また理解を深めておこう。もう帰って良いぞ」
「承知しました」
セリムはそう言って帰った。
俺の体は全てが内臓だと言っていた。つまり、俺の体の中は一つの内臓で埋め尽くされている。その内臓は心臓や胃袋などの全ての内臓の役割を持っている。とりあえず、全ての機能を持つ内臓ということで全臓とでも呼ぶか。
おそらく内臓が無い魔天使族と内臓があるハイエルフなどの両方の血を引いているからか?
まあ簡単に纏めると俺の体は特殊だ。




