第6話
俺は行軍中、ジュスト殿と話していた。
ジュスト殿からはこの国のことを聞いていた。
最初はこの国の成り立ちを聞いた。
この国、いや、この大陸は元々魔王と呼ばれる王が恐怖によって統治していたらしい。そこで各地の領主たちを纏めあげたのが魔都(魔王が住む魔王城があった都市)の東にあるサヌスト領の領主、アンドレアスである。彼は各地の領主へ手紙を送った。『共に魔王を打倒しよう』と。
大半の者は諦めていた為笑い飛ばしたが数人の領主が私兵を率いてサヌスト領へ集い始めた。その状況に乗っかるように笑い飛ばした領主たちも私兵を率いて集まった。
だが、中には魔王に勝てるわけが無いと考え、魔王へ密告し、その後の安泰を図ろうとした者もいた。
そこで魔王は事の真意を確かめる為、サヌスト領へ五千の兵を送った。
その軍をアンドレアス率いる反魔王軍は正面から打ち破った。
その勢いのまま魔都へ進軍を開始した。そこへこの流れに乗り遅れてはならぬと踏んだ領主たちも合流し、その軍勢は魔王軍の三倍以上、二十万へと膨れ上がった。
魔王自ら五万の軍を率いて反魔王軍を迎え撃った。数で劣る魔王軍も質は秀でていた為、両軍、互角であった。
そこでアンドレアスは三百程の精鋭のみを率いて魔王がいる本陣へと奇襲をかけた。魔王は本陣で戦場とは思えぬ程寛いでいた。そこへ奇襲を受けたわけであるから魔王は丸腰で外に出たところをアンドレアスに討ち取られた。
総帥が死んだと魔王軍全体に伝わると魔王軍は一部を除いて降伏した。
魔都攻略戦でも魔王の首を陣頭に掲げるとすぐに城門は開かれ、反魔王軍に反発する者は殺された。
アンドレアスは魔都をサヌスト領として併呑し、サヌスト王国とした。
それが五百年前の出来事であるそうだ。
今、魔都は王都アンドレアスとなっているらしい。このことから英雄は本人が望まなくとも地名に名を残す風習が生まれたらしい。
「魔王の首はその後どうなったんだ?」
「魔王の首は王都の地下深くで封印されている。ちなみに胴体の方は四つに切り裂き、東西南北それぞれの国境を守る城の地下深くに封印されている」
「もし復活したとしてもすぐに将軍が対処出来るようにか?」
「その通り。さすがは神が遣わした使徒様だ!わはははは」
この人は酒を飲まなければただの陽気なお喋り屋だ。エジット殿下によると酒を飲むとそれに戦闘狂が入るらしい。つまり、戦闘の前に酒を飲むということだ。
「前方約二メルタルに敵を発見!殿下、ご判断を!」
一足先に偵察に行っていた騎士が報告してきた。
「誰の手の者だ?」
「確認したところ、王太子殿下の旗印を掲げておりました」
「数は?」
「百には届かないと思いますが伏兵が潜んでいるかもしれません」
「そうか。では、容赦なく壊滅させてくれよう。出撃準備!」
「「「は!」」」
騎士達が二手に分かれた。人夫と共に食糧を守りながら進む隊と、敵と戦う隊らしい。俺やアシル、オディロンはもちろん後者に入った。
「我が配下にヴォクラー神のご加護があらんことを!突撃!」
エジット殿下の号令で一斉に騎士達が雄叫びを上げ、突撃していく。俺もそれに負けじとついて行く。
ジュスト殿が隣に来た。酒瓶を片手に。
「俺はジル卿と共に行く!」
俺にもしもの事があったらエジット殿下の大義名分がなくなってしまうからだろうな。
「敵はまだこちらの人数を知らぬ!ゆえに一人逃さず倒せ!おりゃ!」
ジュスト殿は部下に指示を出しながらすれ違いざまに手に持った酒瓶を敵の顔に叩きつける。
「逃げろ!一人でも多く!」
そう指示を出している男が敵側にいた。俺はそいつを狙って弓を射った。
やった!眉間に命中し絶命した。
「ジル卿、お見事!」
それから俺は弓を剣に持ち替え、一人でも多くの敵を斬ろうと逃げる敵を追いかけ、追い抜きざまに斬った。
「ジル殿、上!」
「ん?」
アシルの声を聞き、俺は上を向く。
俺に矢が迫っていた。
コツンと音を立て、矢は兜に防がれた。
「もっと自分の身の安全を考えろ!あんたが死ねばエジット殿下はどうなる?もはや、あんたの命はあんただけのものじゃない!分かったな?」
「すまん。これからはもっと気をつける」
こんなに怒ったアシルは初めて見た。そんなに俺の事が好きなのか?嬉しいな。アシルっていわゆるツンデレなのか?
「まぁまぁ、アシル殿もそう怒らずとも良いだろう?今回は初めての戦場だったんだし許してやれ」
「俺はもう怒っていない」
「あ、そう?それならいいんだけど」
ジュスト殿もタイミングが悪い。もう少し前に言ってくれれば良かったのに。
───今夜からは我も鍛錬に参加しよう───
ああ、頼むよ。
「ところで殿下はどこにいるんだ?」
「食糧を守る方の部隊の指揮を執っていたんじゃないか?」
「ならば、早く合流しよう」
「おう」
「ジュスト殿もそれでよろしいか?」
俺とアシルは相棒だ。すぐに仲直り出来る。
「うむ」
殿下、今どこにいるんですか?
俺は殿下に念話を送った。
───東に一メルタル程のところだ───
了解。すぐに行く。
「エジット殿下は東に一メルタルの所にいるだそうだ。行くぞ」
「「おう」」
アシルとジュスト殿の返事を聞いて俺達はエジット殿下の方へ移動を開始した。
「あ、エジット殿下だ」
しばらく行ったところにいた。
「ジル卿、オディロンはどうした?」
「ん?その辺にいるだろ?」
「いないが?」
「!」
オディロンがいない!ああ、どうしよう。
念話を送れば良いではないか。焦ると念話の存在を忘れてしまう。
オディロン、今どこにいる?
───ジル様達が取り逃した敵を追いかけている。三人程倒したがまだあと一人いる。先に進んでいても構わない。我はジル様の気配を辿って追いつくゆえ───
ああ、すまん。頼んだ。
「オディロンは取り逃した敵を追いかけているらしい。後で追いかけるから先に行けとの事だ」
「分かった。では先に進もうか」
エジット殿下は納得した。俺もした。
「死傷者はいないな?では進もう」
ここで言う死傷者とは死んだ者や重傷を負った者の事を言うらしい。
かすり傷などは各自で人夫に頼んで手当てをしてもらったり、放置して自然治癒させたりするらしい。
それからはオディロンと合流したり、お昼ご飯を食べたり、これといった出来事もなく野営地に着いた。
一つルイ殿に伝えておかなければならないことがある。
「ルイ殿、俺とアシルは幕舎はいらないぞ」
「そうですか。では他の者にお譲りしてよろしいのですな?」
「ああ、構わない。それと出来れば俺とアシルの分のご飯は多めに用意してくれるとありがたい」
「承知しました。それぞれ前回の三倍程作ればよろしいですね?」
「ああ。それと作りすぎて余ってしまったら俺らの所へ持ってきて欲しい」
「承知しました。そのように致します」
「ああ、頼む」
ルイ殿は一礼し、立ち去った。
その後夜ご飯を食べ、一段落したところで俺とアシルとオディロンは野営地から少し離れた所で鍛錬を開始した。
今夜はオディロンと戦いながらアシルに狙われるというものだ。
アシルの方から飛んでくる矢を避けながら俺の攻撃を避けるオディロンに一撃を喰らわせれば少し休憩というものだ。もちろん剣は鞘に入れたまま、矢は安全な様に加工したもの、槍は穂先に鞘のようなものをつけて、怪我はしないようにしている。
今夜は一晩中かけて二回休憩できた。
昨日と同じように夜明けまでに戻り、皆と一緒に朝ご飯を食べた。もちろん戻る時にはオディロンが休憩中に狩ったよく分からない獲物を差し入れした。これが妙に美味しかった。
朝ご飯を食べた後は昨日と同じように人夫達が野営の跡を完全に消すのを待ち、出発した。
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