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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇
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第65話

「どうだ、アシル。似合っているだろう?」


「ああ。やはりジル殿はその色を選んだのだな」


「どういう意味だ?」


「俺と同じ色だ。俺は袴を選んだがジル殿と同じ色の袴だ」


「ちなみに俺以外皆、袴か?」


「いや、交渉役はジル殿と同じだ。着物と言うらしいな」


「そうなのか?」


 俺はショータにそう尋ねた。


「ええ。合っていますぞ」


「ところでショータ殿はなぜヤマトワに詳しいのだ?」


「私の身の上話をしてよろしいですか?」


「ああ」


「実は…」


 ショータの話をまとめる。


 ショータの一族はアンドレアス暦四百年、つまり百三年前にサヌストを商いの為に訪れた。その二年後、ヤマトワに帰ろうとしたところ、ヤマトワでは反乱を鎮静化させる為、鎖国が始まっていた。ショータの先祖は『我々は帰れなくとも我々の子孫は故郷に帰れるよう手筈を整えておこう』と当時のブロンダン領主に『もしヤマトワに行く船があれば、必ず役に立つゆえ我が一族の者を連れて行って欲しい』と頼み込み、領主の協力を得た。


 その後約百年間、ヤマトワの文化を一族の間で受け継いできた。そしてついにヤマトワへ向かう船が現れた為、共に来た。


 ちなみに鎖国と言うのは魔帝ジャビラ(ヤマトワではジャビラを魔帝と呼ぶらしい)が残した政策の一つだ。ジャビラが残した鎖国の内容は主に二つ。一つは他国から来た船は発見次第、魔法で撃沈させること。そしてもう一つは他国から来た者はヤマトワ人含め誰ひとりとして上陸させないこと(魔帝の部下は除く)。こうすることで内乱は落ち着きヤマトワに平和が訪れる、とされている。

 つまり地方を治める領主が反乱を起こそうと思っても異国の助けは借りられぬという訳だ。

 だがタケルがいた日本では鎖国は平和な世になった後、当時の支配者と異なる思想を持った者が日本に来て反乱を起こすような考えを持たせぬ為に行ったとされている。つまり本来であれば鎖国は内乱を鎮める為ではなく、内乱を起こさぬ為の政策という訳だ。


「…ということなんです」


「なるほど。ではヤマトワが近づいてきたら俺とクラウディウスあたりで上陸させてくれるように交渉に行くことにしよう」


 なぜか皆が驚いたように固まった。


「…ジル殿、間違ってもヤマトワを海に沈めるなよ」


「何を言っている?」


「ジル殿とクラウディウスが組めば、予想もつかないことが起こりうる」


「クラウディウスはともかく俺はそんな事はせぬ。まあもう金には困っていないがな」


 そう。俺はもう金に困っていないのだ。護身石を売って稼いだ金貨五十万枚にウルファーが貯め込んだ財宝。俺とレリアだけなら一万年は遊んで暮らせる。いや、それでも余るだろう。


「まあいい。ミミル殿に伝えておこう」


 アシルはそれだけ言って部屋を出て行った。


「レリア、脱がしてくれ。やはりいつもの服の方が楽だ」


「うん、わかった。でも忘れないようにこれからは毎朝練習に来るね」


「明日からは和服で過ごそう」


「じゃあ、あたしもそうしよ」


 レリアは喋りながら俺の服を脱がしていく。

 レリアが脱がし終えたところで俺は魔法で服を着る。


「もしかして和服も魔法で着れるの?」


「魔法はイメージが大切でな。俺は自分で和服は着れぬ。それでな…」


「ムリってこと?」


「簡単に言うとそういう事だ」


 無論、これは嘘である。忙しい悪魔が開発した着替え用の魔法がある。一度着たことがあればその服に一瞬で着替えることが出来る。俺はいつもそれを使って鎧を纏ったり、着替えたりしている。

 俺が嘘をついたのには理由がある。レリアに甘えたいのだ。だがそんな事は言えぬから嘘をついた。

 誰かを不幸にする嘘はついてはならぬが幸せにする嘘はついても良い。俺はそうやって生きてきた。まあ今世の俺はまだ一歳にも満たぬが。


「じゃあ、あたしはジルのそばにずっといなくちゃ」


「そうだな。よろしく頼む」


「わかった」


「んん!」


 ショータが咳払いをした。なので俺は謝る。


「失礼」


「いえ。お二人は人目をはばからないのですな」


「え?」


「お気になさらず。ところでお二人には眼帯を付けてもらわねばなりません。この中からお選びください」


 ショータはそう言って黒くて硬そうな四角いカバンを開けた。そこには四十種類の眼帯が綺麗に並べてあった。それぞれ二つずつある。いや、よく見ると二つずつあるのは同じ柄の色違いだ。お揃いのを選べということだろう。


「レリア、どれにする?」


「ジルが選んでよ」


 俺は一つの眼帯が目についた。黒の眼帯に水色で薔薇が描いてある。薔薇は全てが水色では無く輪郭のみが水色だ。色違いの方は水色に黒色で薔薇が描いてある。


「これにしよう」


 俺はそう言って薔薇の眼帯を取った。


「なんでこれにしたの?」


「俺の軍旗と同じだろう?」


 そう。俺の軍旗は黒色の布地に青色の薔薇をバックに青色の剣がクロスしているのだ。


「ジルの軍旗なんて見た事ないよ」


「え?」


「だってあたしは旗なんか見なくてもジルがいるって分かるもん」


「そうだな。ちなみにラポーニヤ魔砦にチラホラ立っている旗が俺の軍旗だ」


「黒い旗?」


「そうそう」


「あ、そうなんだ」


「なんだと思っていたのだ?」


「何か分からないけどオシャレな旗だなーって思ってた」


「そ、そうか」


 まあ俺の軍旗がオシャレと褒められたので良しとしよう。


「これで良いか?」


「うん。気に入った!」


「それは良かった」


 俺はレリアに眼帯を渡す。


「ショータ殿、これを頂こう」


「どうぞ。代金は先に頂いておりますので」


 ここで金のことが出てくるとは思わなかった。まあ払ってあるなら良い。


「では私はこれで失礼します」


「おう。世話になった」


「いえいえ」


 ショータは足早に部屋を出て行った。


「あたし達も戻る?」


「その服で良いのか?」


「あ、忘れてた」


「着替えて来たらどうだ?待っていよう」


「うん、わかった。ちょっと待ってて」


「ああ」


 レリアは部屋を出て行った。

 俺は特にすることもないのでベッドに飛び込んだ。


「ヨドーク、出て来い」


 俺はなんとなくヨドークのしっぽを触りたくなったので喚び出す。


「きゅ?」


「ヨドーク、喋りたいか?」


「きゅー!」


「そうかそうか。だがお前は本来、あの時死ぬはずだったのだぞ。生きているだけでもありがたいと思え」


 俺はそう言いながらヨドークに魔法をかける。


「ジルさま!」


「喋れるようになったか」


「きゅ!」


 実はヨドークが喋れるようになる魔法を眠っている間に考えていたのだ。もちろん夢の中で。


「良かった。これからお前は俺の肩の上で過ごせ」


「なんでー?」


 可愛い口調をと思っていたがこんなに馴れ馴れしいとは思わなかった。


「お前を監視する為だ」


 忘れかけていたがヨドークは一度、レリアの命を狙っていたのだ。まあ昨日の敵は今日の友という言葉がタケルの世界にはあるらしいので俺は海よりも広い心で許し、従魔にしたのだ。


「何かあればレリアを守れ。守りきれぬとは言わせぬぞ」


「わ、わかったきゅー」


「語尾に『きゅー』などつけるな。略奪王の名が廃るぞ」


「もうその称号は捨てたからいいもーん」


 ヨドークは俺に拾われてから魔王の事に一切関心を持たなくなった。良い事ではあるが新たな主に拾われたらと思うと怖いな。


「それとな。ファビオとウルの前では喋るな」


「どういうことー?」


「きゅって言ってろ」


「きゅ!」


「それで良い。ファビオとウルには不思議な生き物という事で通す」


「きゅ!」


 俺がヨドークと話していると扉が開いた。ノックをせずに開けるのはレリアかアシルしかいないのでベッドから飛び起きる。


「ジル、お待たせ」


「ああ。甲板へ行こう。ファビオ達が待っているかもしれぬ」


「そうだね。そう言えば久しぶりだね」


 レリアはそう言って俺の肩に乗っているヨドークの頭を撫でた。


「なんて名前だっけ?」


「ヨドークだ」


「ヨドーク、おいで〜」


 レリアはそう言って両手を差し出した。ヨドークは困ったように俺の顔を見た。


「行っても良いぞ」


 レリアに害を加えたら俺の命が果てるまで怨み続けるぞ。


「きゅ!」


 ───そんなことしないから脅さないでー!───


 俺は念話でヨドークを脅しておいた。そうでなければ、レリアには触れさせぬ。


「ふふっ可愛い!」


 そう言うレリアが一番可愛いが口には出さぬ。


「しばらくヨドークを預けていよう」


「ほんと?ありがと!」


「ああ。甲板へ行こう」


「うん」


 いつもよりレリアがはしゃいでいるな。ヨドーク如きがレリアを喜ばせることが出来るとは。種族的な見た目が変わると相手の態度も変わるらしい。


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