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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇
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第61話

 奴は俺が結界を見ている僅かな間に三叉槍の間合いまで近づいた。狼の姿ではなく人の姿で鎧を纏っているのに速いな。

 奴が俺の顔を目掛けて三叉槍を突き出してきたが俺は体をのけ反り、避けたが眼帯が切られた。


「これでよく見える」


 俺はそう言って狼の姿になり、奴の槍を掴む。


「今じゃ」


 奴がそう言うとゴーレムが動き出した。ゴーレムの中には事前に魔力を渡しておけば魔力分は戦うものもいると聞いたことがある。

 俺は即座に槍を手放し、全力で駆け回る。ゴーレムの魔力を消費させ、戦闘不能にさせるのが目的だ。


 俺を暫く追い回したゴーレムは二体とも動かなくなった。俺はゴーレムの核となる部分を蹴り壊した。


「野蛮な…」


「卑怯者に言われたくはない」


 俺はそう言って奴に向かって走り出した。奴は槍の穂先を地面に突き刺した。

 それを踏み台にして奴は俺の身長の五倍ほど跳んだ。


 俺は槍を引き抜いて奴めがけて投げつける。


「なに?」


 見事命中と思ったが鎧を砕いただけであった。


「死ねぇ!」


 俺の後ろで声がした。それと同時に俺の腹から爪が出てきた。奴は狼の姿になり、俺の腹を貫いたのだ。


「こんなことで俺は死なぬ」


 俺はそう言って振り返り、奴の目を右手の人差し指と中指の爪で潰した。


「がぁぁ…」


 そのまま奴の脳天を貫いた。途中で魔石らしきものがあったのでそれは握りつぶした。


「生きているか?」


 返事はないが一応、左手で心臓を貫き、心臓付近の魔石も砕いた。


「審判はいないか?」


「こ、こ、ここにいます」


「俺の勝ちだな?」


「は、はい…あなたの勝利です…」


 俺の仲間から歓声が上がった。俺は魔力をそのまま垂れ流し、結界内を魔力で満たし、僅かに使える魔法で火花を起こし、爆発させる。そうすることで結界を破壊できる。


「ぐ…」


 結界を破壊した後、俺は不覚にも倒れてしまった。それと同時に人の姿に戻った

 さすがに腹を貫かれては痛い。それに魔力を使いすぎた。反魔法結界の中では火花を起こすだけでも国王親衛隊を壊滅させた時の七倍ほど魔力を消費してしまうようだ。魔力を垂れ流した上での七倍だ。立っていることは疎か、狼の姿を保つことなど出来ぬ。


「ジル様!」


 セリムが観客席から回復魔法を俺に掛けながら皆と共に走ってくる。


「助かった。礼を言う」


「ジル殿、肩を貸そう」


「肩じゃなくて魔力をくれ。全体の二割も残っておらぬ」


「なに?!」


 アシルが驚くのも無理はない。魔力が平均的な者は五割を失えば気を失い、八割失えば大抵死ぬ。魔石が多ければ一割を切ってもなんとかなるが魔石が一つなら八割失えば死ぬ。俺が死なないのは普通の者より魔力が多いからだ。普通の者を一とした場合、俺は千を超える。つまり魔力量だけは多いのだ。これは俺が天眼で調べたので間違いない。だから俺はいっぱい食べる。


「セリム、魔力をくれ」


「私の魔力の半分をジル様に」


 セリムが使うのは回復魔法の一種だ。自分の魔力を相手に渡すという単純なものだ。


「それなりに回復した。感謝する」


 セリムのおかげで全体の五割ほどまで戻った。


「あの、ジル様?」


「なんだ?」


 審判が近づいて話しかけてきた。


「我らウルファーをどうなさいますか?」


「どう、とは?」


「皆殺しにする、奴隷にして売り払う、見世物としてサーカスを催す、など」


「そうだな…ここにウルファーを全員集めろ」


「人間もですか?」


「人間?」


「はい。盗賊として認識されているのはほとんどが人間です」


「連れてこい」


「直ちに」


 審判は足早に立ち去った。


「何か策はあるのか?」


「ここにあるものを全て持ち帰る。領主達には焼き払ったとでも言っておけば良い」


「ではここを出る時に焼き払っていこう」


「アシルは恐ろしいな」


「嘘を言うのは良くないぞ」


 俺達はそう話しながら観客席へ行く。ちなみに長の死体は先程の爆発で消えた。



「集めましたぞ!」


 しばらくすると審判が報告してきた。皆、俺達が戦っていた所へ集まっていた。人狼は観客席にいた者だけで五十名ほど。人間はその五倍ほどいる。


「指示を出す!一度しか言わぬから心して聞け!」


 俺は観客席からそう言った。


「ここにあるものを全て集めよ。日用品は俺が預る。これまで盗賊行為で入手した金品は荷車に積め。それが終われば新たに指示を出す」


 俺はそう言って座った。だが誰も動こうとはしない。


「何をしている!さっさとしろ!日が沈むまでにはブロンダンへ行かねばならぬ」


 俺がそう言うと皆が大慌てで走り去った。


 俺達は待っている間、机を創り、腕相撲をした。結局、クラウディウスが一番強い。その次は俺だ。七勝八敗で負けている。だが審判がやってきたので中断した。


「集めました!」


「よし!では皆、荷車を引いてここから出ろ!急げ!」


 俺が指示すると人間が荷車を引いて動き出した。荷車は百台ほどある。


 俺は日用品が集められている所へ行き、それらを全て異空間へ仕舞った。新たな異空間を作って仕舞ったから混ざることはないだろう。


 俺達は洞窟を通って外へ出た。すでに日が傾き始めていた。

 出る際、セリムが小さな火を至る所へ放っていた。

 俺は皆が集まっている方を見て指示を出す。


「俺のことはこれからデシャンと呼べ。いいな?俺の名はデシャンだ」


「俺のことはクロードで!」


 横でアシルがそう言った。


「ではブロンダンへ行くぞ」


 俺はそう言って先頭を歩く。俺の仲間は散らばって見張っている。


「デシャン様。よろしいですか?」


「なんだ?」


 歩いていると審判が話しかけてきた。


「昨日からウルファーの中でも精鋭の隊が帰ってないのですが何か知りませんか?」


「知っている。三つだろ?」


「はい、三隊です」


「壊滅したぞ」


「…全てですか?」


「ああ。二つは俺が、一つは衛兵隊が壊滅させた」


「…そうですか…」


 審判は落ち込み、離れていった。それを見てあることを思いついた。皆に念話で伝えておこう。


 こういう場合って拘束した方がいいのか?


 ───我々悪魔は捕虜という概念がないので分かりません───


 ───拘束しておいた方がいいんじゃないか?───


 そうか?では、一旦止まって手首を結ぶヤツをしよう。


 俺はそう言ってイメージを送る。ちなみに悪魔には捕虜がいないと言ったのはグレンだ。


「皆、止まれ!」


 俺がそう言うと皆が止まった。


「今からおぬしらを拘束する。荷車を引いていない者は手首を出せ」


 俺がそう言うと皆が手首を前に差し出した。


 セリム、魔法で縄を創って結んでくれ。


 ───御意───


 俺がセリムに念話で指示を出すと数瞬後には皆の腕に縄があった。十人くらいで一本の縄を使うヤツだ。


「進め!」


 俺がそう言うと歩き出した。


 日が沈みかけた頃、ブロンダンに到着した。


「デシャ〜ン!」


「レリア!」


 レリアが走ってきたので腕を広げるとレリアが飛び込んできた。そのまま抱きしめる。


「六人で乗り込むなんてやめてよ!」


 一旦離れるとそう言われた。


「いや、俺が負ける訳ないだろう?」


「もー!負けなくても心配なの!」


「すまん。次からはレリアに報告してから行動することにする」


「報告はいらないけど…危ないことはやめてね」


「分かった」


 俺がレリアとの会話を一旦終わるとエルワンが近づいてきた。


「ご無事で何よりです、英雄殿」


「よせ」


「申し訳ありません。それでどうでした?」


「約三百人の奴隷を捕まえた。財宝と共に頂こう」


「それは討伐者として当然の権利でございます」


「で、そちらは?」


「もう落ち着きました。セシャンとその腹心は奴隷として売ります。その他の関係者は三年間の肉体労働となります」


「仕事が早いな。さすが領主殿」


 俺はエルワンと話しながら宿へ向かった。

 その後、細かい事を話し合った。

 出港許可証は無事貰えた。そして今夜は宴会を断わり、船員達と共に船で眠ることになった。ウルファーの寝床がないので宿を譲った。宿屋の店主には金貨一万枚を預け、俺が帰ってくるまで面倒を見てくれるように頼んだ。少々狭いが問題ないだろう。


 そして俺が宿を出発する時のことである。


「デシャン様、どうか二十人、二十人だけ連れて行ってはくれないでしょうか?」


 審判がそう頼んできたのだ。

 幸い、船は百人乗りでミミルの方で六十人、俺の方で二十人弱なので二十人なら乗れる。


「お前がここに残り、指示を出せ」


「指示、とはなんでしょう?」


「やっぱり指示はいらぬ。喧嘩をさせぬようにしろ」


「はは」


「それとあまり目立つようなことはするなよ?」


「承知しております」


「ではな」


 俺はそう言って船へと向かった。船に入ると、ミミルに俺の部屋へと案内してもらった。もちろんレリアの隣の部屋だ。一人用の部屋しかないらしい。

 明日は朝が早いらしいので夜ご飯は簡単なものを沢山食べ、眠った。疲れていたのだろう。すぐ眠れた。

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