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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇
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第60話

 地上に戻ると、人質だった者が次々に眠った。


「クロード殿、睡眠薬の撤去を」


「あ、忘れていた。グレンは覚醒薬を頼む」


 グレンに言われてアシルが睡眠薬の回収に向かった。

 ちなみに睡眠薬は小皿に特殊な草を調合した液体を入れて押し固めて作るらしい。そうすれば、半日ほどガスが放出され続けるらしい。

 そして覚醒薬とはこの睡眠薬で眠った者を起こす薬だ。これを薄めたものに布を漬け込み、乾燥させれば、俺たちが着けているマスクになる。


 ───デシャン!いや、デシャン様!いや、ジル様か?まあなんでも良いか!今、念話はできるか?───


 クラウディウスから念話が届いた。


 できる。何かあったか?


 ───セシャンとその腹心は拘束してある。あとさっきの衛兵達が屋敷に行った。もしかしたら眠っているやもしれぬぞ───


 分かった。セリムを向かわせよう。


 ───我はどうしたら良い?───


 そうだな…俺が合図したらセシャン達を担いで屋敷に入って来い。それまでは待機だ。


 ───承知した。ではまた会おう───


 ああ、後でな。


 俺はクラウディウスとの念話を終わった。


「セリム、聞こえていたか?」


「主の会話を盗み聞くようなことは致しません」


「オディロンには盗み聞きされたが…まあ良いか。では入口に戻れ。あとはクラウディウスに指示を仰げ」


「御意」


 セリムは走っていった。

 ちなみに俺は今、二階の一番広い部屋を占拠して元人質達に覚醒薬を与えているのを見ている。覚醒薬も睡眠薬と同じ作り方、同じ使い方である。ガスを吸わせれば目覚める。ちなみに覚醒薬を起きている時に吸うと目の裏側を、唐辛子を塗られたような痛みに襲われるらしい。


「デシャン殿、この後のことで話したいことがあります」


「なんだ?」


 近くにいた衛兵が話しかけてきた。


「ウルファーのアジト攻略の指揮を執って頂けませんか?」


「確か、昨日の夜はトスカン隊とやらがあったはずだが」


「おそらくトスカン殿も監獄行きでしょうな」


「そうか。他にいないのか?」


「いません。それにこんな話もあります」


「どんな話だ?」


「『ブロンダンに危機が迫った時、商人を装って英雄がブロンダンを訪れる。その英雄が指揮を執れば、子鹿の群れであろうと獅子の大群と化す。その時はその英雄に全てを任せ、ブロンダンの危機を救え』というものです」


「それが俺ということか?」


「はい。領主様に指示を受け、このご依頼をしております」


「なんと指示を受けた?」


「『この作戦が成功したらデシャン殿の指揮に従い、ウルファーを討伐せよ』と」


「なぜ?」


「私が理由を聞いたところ『彼は伝承にあるブロンダンの英雄かもしれない』と仰っておりました」


「引き受けよう。ただし、俺の事を大々的に発表するな」


「承知しております」


 俺はこの場でウルファー掃討の指揮権を手に入れ、さらにそれなりの報酬の約束も取り付けた。ちなみにウルファーのアジトに戦えぬ者がいたら俺の奴隷にしていいらしい。俺は商人だからと言って貰い受ける。


「デシャン殿、クラウディウス達はまだか?」


「屋敷の前で待っているはずだ。もしここに来るまでに分かれるようなことがあれば入らずに待っているように言ったから待っているはずだ」


「そうか。セリムは?」


「あちらの応援に向かわせた」


「分かった。では皆が起きるまで待つのか?」


「いや、もう起きるはずだ」


 俺がそう言うと皆が目覚め始めた。


「このお方はブロンダンの危機に駆けつけた英雄だ。皆も聞いたことがあるだろう?これからこのお方が指揮を執ってウルファー共を掃討しに行く。このことを街中に知らせよ」


 皆が目覚めたところでさっき話した衛兵がそう言った。

 俺は仕舞っていた剣を抜き、衛兵の首筋に当てた。


「約束が違う。ウルファーは俺達だけで討つ」


「も、申し訳ありません!伝承ではこの事を知っている者が多いほど良いとの事でして…」


「そんなことは知らぬ。さっさとウルファーのアジトの場所を教えろ」


「セシャンが地図を持っているはずです」


「そうか。ではここは任せた。使用人は全て拘束してある。セシャン達は眠らせておく。では領主殿には俺がウルファー掃討に向かったと伝えておけ」


「…はは」


 俺は衛兵にそう言って剣を鞘に収める。


「行くぞ」


 俺は二人にそう告げて走り去る。


「クラウディウス!セシャンが地図を持っているはずだ!探せ!」


「おうよ!」


 俺は屋敷の入口の真上の窓から飛び降りながらそう言った。


「あったぞ!これをどうする?」


「そこに行く。案内しろ!」


「我らだけか?」


「ああ。俺とクロードとクラウディウス、グレン、ヨルク、セリムだ。他の者にはここの後始末を任せてきた」


「そうか!では我に続けぇ!」


 クラウディウスはそう言って走り出した。俺たちも後を追う。途中でマスクを捨てた。それを見て他の者も捨てた。


 ブロンダンを出てしばらく走った頃、クラウディウスが止まった。山をしばらく登ったところにある洞窟の前だ。


「この洞窟を抜けた先だ!我が先陣を切ろう!」


「むやみに殺すなよ」


「無論!」


 クラウディウスは背負っていた大剣を抜き、走っていった。俺達もそれぞれ得物を構えて後を追う。俺はもちろん剣だ。中は暗いが俺達は夜目が利く。


「伏せろ!」


 先頭を行くクラウディウスがそう叫んだと同時に皆が伏せた。これはクラウディウスの声に反応したのではなく、各々が危険を感じたからだ。


「何者だ。この先は入ってはならぬぞ」


「今帰れば、命までは取らん」


「おい待て。人狼の匂いがするぞ」


「なに?」


 見張り同士で話し始めた。俺達は立ち上がり、黙って見つめる。


「そこの金の鎧、そなたは人狼か?」


「俺か?」


「いかにも」


「俺は人狼の長だ。名はジルと言う」


 俺は天眼で周りに俺達を見張る者がいないか確認してからそう言った。ちなみに眼帯はつけっぱなしだ。


「どこの人狼を纏めている?」


「ラポーニヤ山の魔族全てだ。人狼、人虎、エルフ、犬人、猫人。全て俺の配下に迎え入れた」


「…我らの長と勝負してもらおう。そなたが勝てば、我らも配下に加わろう」


「俺が負けたら逆か?」


「いかにも」


「受けよう。長を呼べ」


 俺がそう言うと俺と受け答えをしていた者が俺達を案内した。他の者は見張りを続けるようだ。


「暫し待たれよ。ここにあるものは自由に使われよ」


「感謝する」


 俺達を一室に閉じ込めて案内者は立ち去った。


「あなたがたは挑戦者ですか?」


「俺がな」


 部屋にいた少女がそう言った。見た感じは人間ではない。なんの種族かも分からぬ。


「ではルールをご説明します」


「頼む」


 俺はソファーに座り、少女にそう言う。


「ウルファーでの決闘は武器の使用が認められていません。魔法も禁じられています。使って良いのは己の肉体のみ。勝敗はどちらかの死亡によって決まりますので死ぬ覚悟と殺す覚悟をしておいて下さい。以上になります」


「分かった。服はどうする?」


「脱いでください」


「下もか?」


「下は結構です」


「そうか」


 俺は上衣を脱いで少女に預ける。ちなみに他の者は腕相撲をしている。クラウディウスの相手をしているうちに楽しくなってきたのだろう。

 俺も参戦しようとしたら扉が開いた。


「準備が整いました。こちらへ」


 先程とは違う者が来た。


「こいつらはどうする?」


「観客席へどうぞ」


 アシル達は観客席に行くようだ。


「また後で」


「ああ、負けるなよ」


「もちろん」


 俺とアシルはそれだけ言い、分かれた。

 案内の者の後ろをついていくと、空が見えた。洞窟を出て山頂付近に集落があるのだろう。


「ここです。呼ばれたら入ってください。名はジルですね?」


「ああ。ジルで間違いない」


「健闘を祈っております」


 案内の者が去った。ちなみにこの部屋には何も無い。呼ばれたらというのはどういう意味であろうか。

 しばらく待っていると歓声が上がった。


「挑戦者ジル〜!我らの新たな長となるか、無惨に殺されるか!」


 多分これが合図だろうと思って部屋を出る。

 そこはラポーニヤ山で闘った所と似ている。いや、作りは同じだ。


「挑戦者よ。貴様はラポーニヤ山の長であるそうじゃな」


「そうだ」


 俺は話しかけてきた相手を見る。おそらく対戦相手だろう。その対戦相手は鎧を纏い、三叉槍を持ち、二体のゴーレムを従えていた。ちなみにゴーレムとは戦闘用の人形だ。もちろん動かすには魔法を使わねばならぬ。


「自分だけフル装備か」


「まんまと騙されよって。若い(もん)は素直でよいのう」


「さっさと始めよう。勝負にすらならぬだろうがな」


 俺は相手を煽る。


「反魔法結界!」


 奴がそう叫ぶと結界が張られた。戦いにくい相手だ。

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