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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第59話

 俺は二人に座るように言った。アシルがクラウディウスの反対側に、衛兵がエルワンの隣に座った。


「クロード、地下牢への入口は分かったか?」


「ああ。セシャンの寝室のカーペットの下が入口になっている」


「そうか。ではクロードを先頭に行こう」


 人質は死んでしまっては人質としての価値が無くなる為、少なくとも一日二回は食事を与えているはずだから、いくら隠そうとしても半日後には食事を与えるために地下牢に行かなくてはならないだろう。


「あの…家宅捜索の許可は頂きましたが自衛以外の戦闘行為の許可は頂けませんでした」


 衛兵が申し訳なさそうに言った。


「そうか。ではアレを使おう」


「デシャン、アレってなんだ?」


「アレだよ、アレ」


 クラウディウスに尋ねられたが明確には答えられない。


「領主殿、俺の部屋に仕掛けられた睡眠薬とはどういうものだ?」


「無色透明で無味無臭のガスが発生するものです。そのガスを吸った者はまるで気を失ったように眠ってしまいます」


「どれくらいで効く?」


「そうですな…十回深呼吸をする間に眠っているらしいです」


「すぐに準備できるか?」


「作戦決行までに準備させましょう」


 エルワンが見張りをしている衛兵を呼び寄せ、指示を出していた。


「待て待て待て!それでは我らも眠ってしまうではないか!」


「互いに剣の柄で殴りあっていれば、眠ることもないだろう」


「そうだな!さすがデシャンだ!わははは!」


 俺はクラウディウスの疑問を解決してやった。我ながら冴えているな。


「睡眠薬に対抗する為の薬を漬け込んだ布で口と鼻を隠せば、眠ることはありません」


「そ、そうか」


 俺は自分で顔が赤くなるのがわかった。


「ではその布を使おう。人数分、準備を」


「すでに手配してあります」


 その後、俺達は細かい事を決め、朝食を摂った。

 そして睡眠薬が完成次第、作戦開始なのでそれまで休む事にした。といっても俺はクラウディウスと腕相撲を作戦開始までやった。ちなみに腕相撲はタケルの世界の遊びで手の甲が机に着いたら負けというものだ。もちろんこれが正しいかは分からぬがタケルの認識だとこれで合っている。


「皆さん、お待たせしました!」


 そう言ってさっきの衛兵が戻ってきた。


「よし。では鎧を着てくる」


 俺はクラウディウスとの試合を中断し、個室に戻った。もちろん鎧を着るのは一瞬だが一瞬だと怪しまれるので普通の鎧を着るくらいの時間、レリアの寝顔を見つめていた。

 そして部屋を出た。


「待たせたな。行くぞ」


「あの、これを」


 俺は衛兵が渡してきた布を受け取り、顔の下半分に着けた。まるでタケルの世界の忍者とやらみたいだ。


「デシャン殿はこれを着けろ」


 そう言ってアシルから眼帯を渡された。


「なぜ俺だけ?」


「さすがにオッドアイは記憶に残るだろう?」


「まあ、そうだな」


 俺は左眼を隠すようにして眼帯をつける。ちなみに天眼や魔眼は視界を奪われたら使い物にならない。なので今回は相手の気配や思考を読み取ることに長けた天眼を使う。魔眼はあくまで魔法の補助だし、今回は魔法の出番はないだろう。


「よし、では行くぞ」


「「「おぉ!」」」


 皆が控えめに叫んだ。

 そして階段をおりる。


 今回の作戦の要はアシルだ。まずアシルがセシャンの家に忍び込み、睡眠薬を仕掛ける。そしてセシャンの家の者が眠ったのを確認したら俺達に合図をして俺達が突入する。その後、アシルと合流し、地下牢まで行き、人質を助ける。

 クラウディウス達を呼んだのは衛兵達が暴走して関係ない者まで巻き込まないようにするためだ。人質救出後、そのままの勢いでセシャンを襲えば、それなりの死者が出る。あんなセシャンでも武家貴族の出身であるし、ブロンダンの平和を守る衛兵隊の長だ。それなりの実力がある。

 ちなみに今回の作戦にエヴラールや侍従武官は参加しない。夜中の移動があったから休んでもらわなければならぬ。


「デシャン殿、あそこにセシャンがいます」


「どこだ?」


 宿を出てしばらく進むと衛兵の一人がそういった。衛兵が指差した方を見るとセシャンが十人ほどの部下を連れて歩いていた。


「後ろにいる者は味方か?」


「半数は味方です」


「残りは?」


「セシャンの腹心です」


「分かった。味方と合流し、奴と奴の腹心の足止めをさせよう」


 俺はアシルと話しているクラウディウスを呼んだ。


「どうした?」


「あそこにいるのがセシャンだ」


「斬れば良いのだな?」


「いや、足止めを。奴はすぐに死なせずに罪を償ってもらいたい。死ぬよりも辛い罰を与えなければ、こいつらの気が済まないだろう?」


 俺はそう言って衛兵達の方を見る。


「ええ。奴には永遠に苦しんでもらいたいですね」


 俺は衛兵がそう言っている間に作戦を思いついた。


「お前は味方かどうか分かるであろう?」


「分かります」


「ではクラウディウスに教えてやれ。あとはクラウディウスがどうにかする」


「分かりました」


 俺はクラウディウスの方を見る。


「クラウディウス、殺すなよ。奴と奴の腹心は拘束しておけ」


「分かっている!ヨルクを連れて行くぞ!」


「ああ、頼んだ」


 俺がそう言うとクラウディウスとヨルクと衛兵はセシャン達の所へ向かった。


「デシャン殿、何があった?」


 近くで聞いていたであろうアシルがそう尋ねてきた。


「セシャンを見つけた。クラウディウスが捕まえる」


「そうか。それまでにこちらも終わらそう」


「ああ。クロード次第だ」


「そうだな。では行ってくる」


 アシルはそう言うと目の前にある二階建ての屋敷に入っていった。もちろん窓からだ。


「ここか…意外とデカいな」


「奴も貴族ですからね」


 俺が独りごつと近くにいた衛兵がそう言った。多分俺が蹴った者だろう。


「お前ら!一応言っておくが殺すなよ。奴には死ぬより辛い罰を受けてもらった方がスッキリするだろう?」


「はい。奴の蛮行に加担した者にも同じ罰を与えてやってください!」


「それは俺には決められぬ」


「はは…そうですよね」


 なぜか落ち込んだ。そんな権限を持っているならこんなことなどせずにヤマトワに行っているのに。


 俺がしばらく衛兵達と話していると二階の窓から布切れが投げられた。

 それを地面に落ちる前にグレンがキャッチした。


「デシャン様!屋敷の者は全て眠りについたそうです」


「分かった!」


 俺は一応、剣を抜いた。それを見て他の者も剣を抜いた。


「行くぞ!」


「「「おぉ!」」」


 衛兵達が勇ましい声をあげて走り出した。その勢いのまま、扉を蹴破り、中へ入っていった。


「衛兵隊だ!無闇に動くな!」


「両手を上げて膝をつけ!」


 衛兵達がそう叫びながら入って行った。これは家の者だけでなく、近所の人に強盗と勘違いされないように言うのだ。だから家にいる者が眠っていようと外まで聞こえるほどの大きさでそう叫ぶのだ。


「クロード!どこだ?」


「デシャン様、あそこに!」


 セリムが指差した方を見るとアシルが吹き抜けのところから飛び降りていた。


「皆、地下牢はこっちだ!」


 アシルが駆け出すと衛兵達が後ろに続く。

 アシルはなぜか二階に上がった。


 地下牢なのに二階に入口があるのか?


 俺はそう思いながら二階に行く。もう衛兵達の姿は見えないが声が聞こえる。声の方へ進むとカーペットが雑にめくられていた。そこにはひと一人が余裕を持って通れるくらいの穴が地面に対して垂直に空いていた。

 穴を覗くとハシゴが壁に打ち付けられていた。

 穴の中からは声が聞こえる。だが何を言っているかは分からぬ。


「デシャン殿!鍵を持っている奴を探してくれ!」


 穴の中からアシルの声が聞こえた。


「俺が開けてやろう!」


 俺はそう言って穴の中を確認した。下に誰もいなかったので飛び降りた。


「どこだ?」


「こっちだ」


 アシルに案内された方に行くと鉄格子の中に家族がいた。各々、再会を喜んでいる。


「鍵を開ける!順番にあけるから待っていろ!」


 俺はそう言って一番近くの檻に近づいた。


「こんなものか」


 鍵を触って確かめたが錆びて脆くなっていそうだ。鍵めがけて思いっきり剣を振り下ろした。鍵は壊れ、そのままの勢いで剣が床にめり込んだ。床や壁は石でできているが脆くなっていたのだろうか。


「鍵は剣で殴れば壊れるぞ」


 俺は扉を開けながらそう言った。

 衛兵達は刃こぼれを起こさぬように剣の柄で殴っている。

 次々に鍵は壊れ、扉が開き、再会の抱擁をしている。


「壊れぬか?」


「すみません…」


 俺は手こずっている衛兵に近づき、そう言った。剣を使うまでもないので引きちぎった。


「もう壊れかけていた。家族を解放したのはお前だ」


 俺はそう言って衛兵の肩を叩く。


「あ、ありがとうございます…」


 衛兵は泣きながらそう言った。

 その後、全ての鍵を壊し、地上に戻った。

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