第55話
本日は2話更新しました。本話は2話目です。
俺は衛兵隊長と一緒にブロンダンへ入った。門の近くにレリア達がいた。衛兵と話していたが、俺を見つけて俺の方へ来た。
「デシャ〜ン!」
「無事か?」
「うん。街に入ったら衛兵さんが囲んでくれた」
「その言い方だと衛兵が敵みたいに聞こえるな。まあ無事ならいい」
俺はレリアと話しながらヌーヴェルから降りる。
「デシャン殿、よろしいですかな?」
「ああ」
「今夜は領主様の館でお休みください」
「宿が取れるか心配だったがもう安心だ」
もちろん、宿など必要ない。馬車に人数分のベッドがあるから。
「デシャン、この人って誰?」
「これは衛兵隊長だ」
「!自己紹介が遅れて申し訳ございません。私はこのブロンダンで衛兵隊長をやっております、セシャンと申します」
衛兵隊長が慌てて自己紹介をした。
「だそうだ」
「そうなんだ」
俺がレリアと話していると衛兵が近付いてきた。
「デシャン殿、皆様の馬を預かりましょう」
「ああ、頼んだ。あ、そうだ。馬鎧は外すなよ」
「何故でしょう?」
「俺らの馬は訳ありなんだ。馬鎧をつけていないと怯えて暴れてしまう。まあその代わりに駿馬なんだが」
「分かりました」
「頼んだぞ」
ヌーヴェルの正体がバレないようにしなければならぬ。
そもそもこの国の人間は魔物や魔法が実在することさえ知らぬ。一部の王族のみが情報を独占しているのである。
アルフォンスは『国王と魔族は繋がっています。魔族ならば、大義名分なしに他国を攻め落としても、祟りだ、と言われるだけです。それを保護という形で併呑してしまえば国土は広がります』と言っていた。もちろん証拠はないが、過去に国中の農作物が獣に荒らされ、食糧難に陥った国を保護という形で併呑したことがあるらしい。
ちなみにその時、それはおかしい、と主張してサヌスト王国に攻め入ったのがクロム王国である。
まあ、そんな感じに王族が情報を独占しているので、魔物とはなんだ、魔法は存在するのか、みたいなことになる。それゆえ、ヌーヴェル達が一角獣である事は隠さなければならぬ。
「ではデシャン殿、館まで案内しましょう」
俺はそう言ったセシャンの後ろをついて行く。もちろんレリア達もだ。
「そういえば、荷車はどうすれば良い?」
「我々の方で預かっておきましょう」
セシャンがそう言って手を上げると周りにいた衛兵が集まってきた。
ちなみに俺達は衛兵と一緒に歩いている。
「丁寧に運べ!傷をつけてはならんぞ!」
「「「は!」」」
三十人くらいが集まったところでセシャンがそう言った。荷車は十台あるので牛を厩舎へ連れて行く者と荷車を運ぶ者で分かれるのだろう。
「セシャン殿、一つでも減っていれば、この街を吹き飛ばすぞ。さっきの石を見ただろう?」
「分かっております。気になっていたのですがあの石はなんですか?」
「あれは俺らが身を守る為に持ち歩いているのだ。護身石と呼んでいる」
「どのような仕組みで爆発が起こるのです?」
「それは秘密なんだがな…ヒントをやるとすれば粉塵爆発だ」
「ふんじんばくはつ?」
「それは自分で調べろ。俺らが持っている護身石はさっきのとは比べ物にならぬ。計算上、王都が丸々無くなるだろう」
「部下どもに言い聞かせておきます。その護身石を分けていただくなんて…」
「無理だ。あれは商品じゃない。ところでまだなのか?」
「あ、あの館です。私は先に行き、領主様にご報告します」
セシャンはそう言うと走っていった。俺は粉塵爆発の細かいことは知らないが粉が燃えて爆発するらしい。まあ護身石とは言ったがあれは魔法だ。石なんて関係ない。粉塵爆発を調べても作れぬ、多分。
「ねぇ、デシャン。あたし、貰ってないよ?」
「護身石か?」
「うん。あたしだけ仲間はずれ?」
「そんな訳ない。レリアには特別な護身石を渡しておこうと思ったが機会が無くてな。部屋を借りたら渡そう」
「ホント?」
「ああ。大爆発だぞ」
「怖いな」
「大丈夫だ。ちゃんとレクチャーしよう」
「ありがと」
俺とレリアが話しながら歩いていると皆がついてこなくなった。俺は振り向いてこう言う。
「何をしている?」
「…デシャン殿、ここだ」
「え?」
アシルが指さした方を見ると館があった。レリアとの話に集中しすぎて通り過ぎてしまったようだ。
俺とレリアは顔を見合わせて笑い合い、アシル達の方へ走った。
「さあ行こう」
俺はそう言って館の門をくぐる。芝生の上に石が置いてある。その上を歩いて館の方へ行く。両脇には池がある。月光が反射して綺麗だ。
「貴殿がデシャン殿か?」
俺は館の中から話しかけてきた小太りの男を見る。
「ああ。デシャン商隊の隊長をやっている」
「そうであったか。私はこのブロンダンの領主エルワンです。今夜はウルファー壊滅記念に宴を開く。デシャン殿にも参加して頂きたい」
「壊滅記念?」
「今月のウルファーの日は衛兵が街道を見回り、ウルファーを見つけ次第討伐する、という作戦であった。明日はウルファーのアジトを攻め、死に損ない共を討伐しに行きます。デシャン殿も参加しては?報酬も弾みますぞ」
「そうか。では報酬の代わりに出港許可を貰いたい」
「どちらに行かれるのです?」
「ヤマトワだ」
「…活躍次第ですな」
俺は話しながら歩くエルワンの後ろをついて行く。すれ違う者が皆、お辞儀をする。
しばらく歩いた所でエルワンが止まった。セシャンがいる。
セシャンはエルワンを見ると、扉を開けた。
エルワンが進んだので俺らも進む。いい匂いがしてきた。この部屋で宴をするのだろうか。
エルワンに勧められた席に俺達は座る。
「皆、出て参れ!」
エルワンがそう言うと壁が動いて人が出てきた。そういう扉なのか?その扉を通って料理も運び込まれている。
「今夜はウルファー討伐を記念した宴だ。存分に楽しめ!」
エルワンがそう言うと、皆がコップを持ったので俺も目の前にあったコップを持った。料理と一緒に用意されたようだ。俺が持ったのを見たレリア達もコップを持った。ちなみにレリアはすぐ隣に座っている。
「乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
エルワンがそう言うと皆が唱和してコップに入っているものを一気に飲んだ。俺も飲んだが酒であった。
その後は皆が思い思いに料理を食べたり、酒を飲んだりしている。
「デシャン殿、セシャンから聞きましたぞ」
「何をだ?」
エルワンが話しかけてきた。俺としては二日ぶりの食事を邪魔されたくなかったが印象が悪くなり、出港許可が貰えなくなると嫌なので相手をする。
「護身石です」
「売らんぞ」
「一つ金貨百枚でどうでしょう」
「金貨五百枚だな」
「…それでいくつ売っていただけるのです?」
「いくつ欲しい?」
「多ければ多いほどよろしいです」
「その言葉が一番困る」
「ではいくつお持ちですか?」
「ざっと千はあるだろうな」
本当はひとつもない。
「そんなにも…なぜ千も持ち歩くのです?」
「作るのが面倒だから作る時は大量に作る。今は作ったばかりだ」
「…そうですか。では五百個でお願いします」
「あれは練習無しには使えないぞ」
嘘ではない。魔法の練習無しに魔法が撃てるようになっては魔法使いの仕事が無くなる。これは何事でも同じか。
「それでは…千個全て頂けないでしょうか?」
「…まあいい。船の上では暇だ。ある分は全て売ってやろう。ただし、出港許可をくれるのなら」
「…ヤマトワは危険ですぞ」
「それがどうした?」
「ヤマトワでは常に戦が起こっているそうです。その為、ここ百年、ヤマトワに向かった者はいません」
「では何故、ヤマトワの服が売っている?」
「あれは…オシャレを楽しみたい商人向けです。ヤマトワは戦がなければ、良い国だそうです」
「それで許可は?」
「明日、許可証を発行しましょう」
「契約成立だ」
俺はただの石を売って金貨五十万枚を手に入れた。まだ貰ってはいないが。
その後はレリアと共に料理や酒を楽しみ、二人共が満腹になったところで退出し、借りた部屋へ入った。もちろんレリアと同じ部屋だ。エヴラールは毛布を借りて部屋の前で剣を抱いて寝ている。
「レリア、すまぬ」
俺はレリアに頭を下げた。
「?なにが?」
俺は天眼で声が聞こえる範囲に人がいないかを確認して小声でこう言った。
「本当は護身石なんて無いんだ」
「そんなこと分かってるよ」
「え?」
「だってデシャンが売らないって言った物を売るわけないもん」
「おぉ…さすがレリアだ」
俺はそう言ってレリアを抱きしめた。そのタイミングで鎧を脱いだ。
「…レリア?」
ふとレリアを見ると目を閉じて眠っていた。酒に弱いのだろうか?それにしてもさっきは普通だったのに。遅効性の酒なんてあるのか?
俺はそう思いながらレリアをお姫様抱っこでベッドまで運び、ベッドで寝かせた。俺は魔法で着替え、レリアの横で眠る。二日ぶりの睡眠だ。
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