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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章
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第558話

 馬を預けた村にアズラ卿と戻ると、アズラ卿が井戸を借りる手配をしてくれた。さすがに全身が血で塗れたまま村の中を歩けぬ。

 村の外れの井戸を借りれられたようで、俺は鎧を異空間に返し、上裸になった。ちなみに、ヴォクラー神に賜った武器や防具は異空間に返すと、どれだけ短い期間でも完璧に手入れされた状態となるので、返り血を避ける習慣が身につかぬのだ。


 アズラ卿が汲んでくれた水桶いっぱいの水を何杯も浴び、見た目の上では綺麗になったが、アズラ卿によると血の匂いは取れておらぬとの事である。

 どうにか対策を考え、水魔法を用いて高圧の熱湯で自らを撃ち、洗い流せぬ汚れを落とした。アズラ卿の合格も貰えた。


「火傷は大丈夫なんですか?」


「ええ、感知する前に完治します」


「すごいですね。痛みはあるんですか?」


「常人が感じる程度には感じているかと思います。痛いから何だ、という話ではありますが」


「痛いのは嫌なものですよ。私だって、たとえジルさんが後で治してくれるからといって、高い所から飛び降りるのは、もう御免ですよ」


「私も望んで痛みを感じている訳ではありませぬぞ。痛みが避けられぬ時、躊躇わぬというだけです」


「そりゃそうですよ」


 俺はアズラ卿と雑談しつつ新しい服を着た。アズラ卿には大怪我をせぬようにしてほしいものだが、ちゃんと反省してくれていたようで良かった。


 その後、馬小屋に移って雑談していると、トモエ達が来た。村人が狩った魔物の処理は既に終えて来たようである。


「帰りましょうか」


「腹ぺこネ。公爵、帰ったら昼食、奢るある」


「我が屋敷で用意しよう」


「ジルさん、冒険者ギルドの依頼を終えて帰った後は、ギルドが運営する食堂で食事をしながら、その日の討伐を振り返るんです。トモエさんとは何度も依頼を受けて、既に習慣化してしまっているので…お願いしますね?」


「そういう事ならば俺が払おう」


 屋敷で食べた方が質も量も満足できそうなものだが、アズラ卿とトモエの習慣ならば、同行した俺が従うべきであろう。

 ちなみに、冒険者ギルドが運営している食堂とアズラ卿は言ったが、正確には魔物討伐庁支援局が運営しているのである。魔物討伐管区長官として、ギルドマスターが統括しているので、完全に間違っている訳でもない。まあ別に細かい部分を気にする必要はない。

 村を出た俺達は、往路をそのまま辿ってアンセルムに向かった。


 道中、俺はアガフォノワに頼み、突撃銃アーンヴァル・ヘウィールについて説明を受けた。

 元はアガフォノワの故郷、フォルミーント国において、歩兵の個人用主武装として、歩兵以外の自衛用副武装として配備された小銃なる兵器があり、その一種である突撃銃アーンヴァル・ヘウィールを魔法機構を用いて再現したものが、アガフォノワが使う突撃銃アーンヴァル・ヘウィールであるそうだ。

 突撃銃アーンヴァル・ヘウィールはフォルミーント国軍の歩兵に配備されており、歩兵士官であったアガフォノワも当然愛用しており、アガフォノワ曰く『歩兵なら十分、そうでないなら十二分』な使い勝手だそうだ。だが、これはあくまでアガフォノワの好みであり、例えばアウストリアが愛用した武器は魔短銃マヒー・ピストーラと言い、こちらはリンが持っている。

 突撃銃アーンヴァル・ヘウィールの能力であるが、指先ほどの大きさの弾丸を音よりも速く射出し、敵を殺傷する。連射と単射、地形や敵味方の編成などによって、当然ながら採れる戦法は変わる。この辺りは別の機会に教わる事となった。


 弾丸が射出される仕組みであるが、アガフォノワは本職ではないから正確性や正誤については保証できないと前置きしつつ説明してくれた。当然であるが、突撃銃アーンヴァル・ヘウィールと弾丸の双方が役割を果たす事で、弾丸は射出される。

 まず弾丸についてだが、弾頭と薬莢とに大別でき、前者は射出されて敵を殺傷し、後者は弾頭を押し出すための色々が詰まっている。

 弾頭は素材や形状、内部構造を変える事で、与えられる効果が変わる。訓練用の非殺傷弾や弾道を視認するための曳光弾、さらに魔法を付与した魔導弾など、挙げればきりがないとの事だ。

 薬莢は火魔法を付与した魔石を砕いた装薬と装薬に点火する雷管からなる。

 次に突撃銃アーンヴァル・ヘウィールの構造についてである。だが、アガフォノワの当初の説明では専門用語が多すぎて理解できず、かといって専門用語を用いずに説明はできぬそうで、詳しい説明はまたの機会に、専門家から聞くことになった。

 アガフォノワの説明では、引き金を引くと装填された弾丸の雷管に刺激が加えられ、これによって装薬が燃焼する。すると、突撃銃アーンヴァル・ヘウィール内部の圧力が高まり、弾頭が射出される。この際、役割を終えた薬莢は排出され、弾倉から次の弾丸が供給される。

 連射の場合、引き金を引いている間は射撃が続けられるが、弾倉にある三十発を撃ち尽くすと、当然止まる。弾倉を交換している間は大きな隙ができるので、なるべくならば節約すべきだが、節約して死んでは元も子もないので、味方との連携であったりが重要であるそうだ。


 アンセルムに着くと、アズラ卿が依頼の達成報告をして来てくれた。

 報酬であるが、魔猿の討伐が金貨一枚、魔鹿とゴブリンの討伐が金貨一枚と銀貨二十枚、咆哮の原因の調査が銀貨二十枚、討伐が金貨二枚、死体処理に銀貨十枚である。単位を揃えると、四百五十万リロイあるいは四十五オールとなり、これは帝国騎士団の中士に支払われる年間の俸給と同額である。冒険者はここから装備代や移動費など諸経費を差し引かねばならぬが、それでも高ランク冒険者はかなり儲かるだろう。

 討伐した魔物の素材を引き渡せば数倍になるが、モレンク領内で冒険者ギルドに売り渡す利益はない。これは、冒険者ギルドが買い取った魔物の素材は魔物の生態調査に用いられるか、民間に払い下げられるかするのだが、後者の場合の買い手はモレンク血閥が九割九分を占めるので、冒険者ギルドに売る必要はないのだ。魔物の調査に関してもモレンク血閥が独自に行っているので、その点に関しても心配はいらぬ。これらは領内の冒険者に周知されており、冒険者ギルド近くに設置されている『モレンク血閥領魔物買取所』に持ち込むと、冒険者ギルドが差し引く手数料の半分程度を上乗せされ、多少高く素材を買い取るので、こちらに持ち込まれる事が多い。


 食堂に来ると、トモエが勝手に注文し、席に着いた。高ランクの冒険者は優先的に座れるようで、並んでいる冒険者を抜かして座れた。


「公爵、わたしもAになったネ」


「そうか。トモエ、Sに上げたくはないか?」


「それは無理ネ」


「ああ、すぐには無理だ。だが、これは計画段階であるが、遷都した後、武闘大会が開かれる。これの優勝賞品の一つに、冒険者ランクをSにするものがある。参加せぬか」


「公爵、どうあるか」


「俺も出る」


「じゃ、無理ネ。わたし、公爵、勝てるないある」


「分からぬぞ。まあ無理強いはせぬから、気が向いたら俺に言えば良い」


「分かたある」


 武闘大会はケールスティンが中心となり、ジェローム卿ら軍令部幹部を巻き込んで計画中で、帝国軍の各級部隊から部隊内で最も強い兵士を参加させたり、爵位を優勝賞品にして人生の一発逆転を狙う者を誘ったり、とにかく参加者を多くしようと、実現の可否は別として様々な案を出している途中であるそうだ。ちなみに、この武闘大会の意義であるが、遷都の記念式典という名目の下、魔法使いの戦力を内外に知らしめる事であったり、皇帝に従う戦力の誇示であったり、様々ある。ノヴァークレクス大公が乗り気であり、運営に関する知見を提供し、必要ならば無報酬で運営を代行するとまで言っているそうだ。


「ジルさん、トモエさん、お話もいいですが、まずは報酬をどう分けるか決めましょう」


「私は報酬が目当てで討伐に行ったのではありませぬ。三等分すればよろしいのでは?」


「私は閣下にお仕えし、報酬を賜っている身であります。お三方でお決めください」


「無報酬、許すないある」


「そうですよ。ジルさん、魔物討伐庁長官なのに、冒険者の掟を知らないんですか? 確か、長官通達として明文化されてましたよね?」


「初耳ですが…ではその掟とやらに従いましょう。掟では何と?」


「報酬の辞退を許すべからず。報酬の配分は全員の納得を得よ。でしたかね」


 内容を聞いても思い出せぬが、リンに渡された書類には内容を確認せずに署名をしていたし、その中のどれかであるのだろう。そういえば、ケールスティンも長官通達か次官通達かどうするかとか何やら言っていたような気もしないでもない。

 俺の記憶の有無は別として、俺自身も今回は冒険者として依頼を受け、報酬を貰ったのであるから、その掟とやらに従うべきだろう。寧ろ、全ての冒険者を統括すべき冒険者総監グランドマスターとして、率先して掟を破るべきではない。


「それでは綺麗に四等分でいいですか?」


「了解ある」


「皆様がよろしければ私に異存はありません」


「私も構いませぬが…綺麗に割れますか?」


 リロイで計算すれば、百十二万五千リロイとなるが、今回の報酬に銅貨は含まれておらぬから、どこかで両替してもらうとしても手数料を誰が負担するのか、あるいは手数料を差し引いた額を四等分するのかなど、新たな議論が生まれそうである。そもそも、俺は銅貨を使う機会はないし、アズラ卿もそれは同様だろうから、銅貨で報酬を貰っても金庫を圧迫するだけだ。


「金貨は各自一枚、銀貨は各自が十二枚で、二枚余りますね」


「昼食に使うよろし」


「銀貨二枚の食事ですか。この食堂だと、かなりの量になりますね」


「公爵、大食いある。心配ないネ」


「昼食は俺が奢るのでは?」


「それじゃあ、ジルさんには銀貨二枚から食み出した分をお支払いいただきましょうか」


「承知しました」


「アガフォノワもそれでいいか」


「はい、異存はありません」


「それじゃあ、金貨一枚と銀貨十二枚、受け取ったら一応数えてくださいね」


 アズラ卿はそう言い、金貨一枚と銀貨十二枚をそれぞれに配った。

 その後、料理を持って来た売り子に銀貨二枚分の食事を注文した。届いたそれらはかなりの量で少々驚いたが、庶民向けの店では金額を上げても質は大して上がらず、量ばかりが増えるとアズラ卿に諭された。同じような経験をしたのであろうか。

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