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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第556話

 アズラ卿の先導に従って進むと、大きく『冒険者ギルド』と書かれた建物に来た。

 アガフォノワに馬を任せ、俺達は冒険者ギルドに入った。受付の他、大きな掲示板などが見える場所にあり、それ以外の事務所や書庫などは表からは見えぬようになっているようだ。

 依頼は掲示板に貼り出されており、ランクや実力等を考慮した上で受けられる依頼を選び、受付に持って行く必要がある。


「どれがいいですかね…」


「これ、これ、これ…これで昇格できるネ」


「そうですね。ジルさんはどれがいいです?」


「お任せします」


「それなら、トモエさんが選んだ分だけにしておきましょうか。帰りが遅くなってもいけませんし。それじゃあ、受付に行きましょう」


 トモエが掲示板から剥がした依頼を指してアズラ卿がそう言うと、トモエは小走りで受付に向かった。

 受付では、依頼を受けたい旨を伝え、誰が参加するのかなどを報告し、正式に依頼を受ける。この際、参加する全員の冒険者資格を証明する認識票を見せねばならぬ。認識票は冒険者登録や昇格の際に支給され、氏名やランクが記されており、依頼を受けた瞬間から以来の完遂報告まで携帯せねばならぬ。これは、死亡した時の身元確認に必要となる。

 普段から同じ依頼を受ける者同士でパーティ登録をしておくと色々と便利であるが、俺達は普段から一緒に依頼を受けぬので、パーティ登録をせぬ。この場合、依頼を受ける度に臨時パーティ登録をする必要があるので、少々面倒であるが仕方のない事である。


 色々と手続きを済ませた俺達は、冒険者ギルドを出て南に向かった。


 しばらく馬を駆ると、先導するトモエが止まった。そういえば、道中にでも依頼内容を聞いておくべきであった。


「近いネ」


「何が近い?」


「馬、預ける村ネ」


 標的が近いのかと思ったが、そうではないようだ。この近くで馬の立ち入れぬ場所といえば、少し行った所に森がある。そこに標的がいるのであろうか。


「アズラ卿、矢を預かりましょうか?」


「大丈夫です。私だって、かの大王の娘なんです。魔法くらい使えますよ」


「そうですか」


 親切心で言ったつもりであるが、有難迷惑であったかもしれぬな。そもそも、普段の魔物狩りに俺は同行しておらぬのだし、気遣いは無用であるのかもしれぬ。困っていたら助けるが、それ以外で手を差し伸べる必要はないな。

 村に入り、慣れた様子で馬を預けると、徒歩で森へ向かう事となった。


「ところでアズラ卿、今日の標的は何です?」


「魔物化した猿の群れですね。アンセルムには魔法使いや魔力が多い人が多いので、アンセルムの近くでは獣が魔物化しやすいんです。今回は先ほどの村の猟師から要請があったようですね」


「そうですか。いくつか依頼を受けていましたが、この近くで全て終わるのです?」


「ええ。トモエさんは適当に取ったように見えて、結構選んでるんです。魔物化した鹿を騎獣にするゴブリン、それから時折響く咆哮の原因を調査、できれば排除、最後に村人が狩った魔物の死体の処理またはアンセルムまでの輸送、この四つです」


「獣が魔物化する事は結構あるので?」


「我が領特有ですね。生物が排出する魔力は、魔力量が多いほど多くなりますが、排出された魔力が魔素に戻る際、条件が揃えば魔物化します。魔力に干渉する風のようなものがあって、それは日によって向きが変わるんですけど、アンセルムの風下では多く魔物化します」


「そうですか。どうにかならぬものですか」


 人間を含む魔力を有する全ての生物は、大気中の魔素を取り入れ、体内の魔石を用いて魔力に変換し、それを生命維持や魔法などに使うが、それに使われず余った魔力については呼吸などを通じて大気中に排出される。排出される魔力量は排出する生物の魔力総量に依存するため、魔法使いなどを集めれば、その分排出される魔力も増える。また、生物が死亡した場合、何もしなければ数日間を掛けて体内の魔力が排出されるため、戦場跡のように大量の死体がある場所では、慣れぬ者は体調を崩しやすい。

 排出された魔力はしばらくの時を経ると魔素になるが、魔力の状態でしばらく大気中を漂い、場合によっては一か所に留まり、人や動物を魔物化したり、魔物を強化したり、様々な影響が出る。

 これらの弊害を政策によって軽減できるのであれば軽減すべきであるが、それができぬなら統制を試みるべきではなかろうか。まあアズラ卿は俺よりもその辺りに詳しかろうから、有効な対策があれば既に講じているだろう。


「どうにかしようと思えば不可能ではないですけど、それだと他領を含む広範囲に弱い魔物が増えますね。それなら今の状況、つまりアンセルム周辺に強弱を問わず多くの魔物が出現する方が、対策も容易です」


「そうですか。であれば魔物を狩り続ける他ないようですな」


「ええ、そうですね。あ、でも一つだけ、極論ではありますけど、魔物が出現しなくなる方法があります。魔法使いなど一定以上の魔力を有する全員を殺し、外洋で水葬に付すると、少なくとも地上での魔物被害は無くなります」


「なるほど、それほど難しい事ですか。魔物討伐庁でも対策を講じます」


「それなら、魔法技術庁と協力した方がいいですよ。魔法に関する政策を担当しているのでしょう?」


「確かにそうですな。帝都に戻ったら提案します。領主府にも協力を求めるかもしれませぬが、余裕はありますか?」


「ええ。ヴェンダール夫妻を頼ってください」


 枢密院議官と国策局長を頼るべきとは、帝国全体で行うにはなかなかに大変そうな政策であるが、気付いてしまったからにはなさねばならぬな。


 しばらく魔法政策について話していると、先導するトモエが止まった。耳を澄ませば、猿の鳴き声が聞こえぬでもない。魔物化しても鳴き声は変わらぬのか。


「標的、発見ある」


「作戦を立てましょう。アガフォノワが一方から攻撃します。それを合図に、一方からジルさん、もう一方からトモエさんが攻撃してください。私ももう一方から攻撃します」


「アガフォノワが攻撃したとして、遠くから分かりますか」


「閣下、私の主武装は突撃銃アーンヴァル・ヘウィールといって、正直言ってうるさい武器です。気付かない事はないかと」


「そうか。であれば良い。誰がどの方向から攻めますか」


「トモエさんがここにいてください。ジルさんはアガフォノワと右から回り、半分ほど行った所で待機、アガフォノワは猿を挟んでトモエさんの正面から、私は左から行ってジルさんの正面から攻めます」


「承知しました。ではそのように」


「それじゃあ、また後で会いましょう」


「ええ」


 俺達は簡単に作戦を決め、担当位置に向かって走った。

 アガフォノワが突撃銃アーンヴァル・ヘウィールと呼んだ武器は、黒く塗られた魔導具で両手で構えるのか、取手のような物がついている。いずれ紹介するよう言おう。


 アガフォノワと分かれてしばらくすると、連続した破裂音が鳴り響いた。これが合図となるアガフォノワの攻撃した音か。

 俺は弓を取り、天眼で標的の位置を確認しながら前進し、視界に入った魔猿から射落とした。樹上の敵に向けて矢を放つのは初めてであるが、なかなかに難しいな。枝や幹を纏めて射ち抜いてしまう。

 猿達は俺を見つけたのか、俺を目掛けて飛び掛かったので、俺は弓をしまって剣を抜き、近い猿から斬り殺し始めた。猿を斬った事はないが、鎧を纏った人間程度の硬さがあるので、魔物化によって皮膚かその下部組織が強化されているのだろう。


「あ、ジルさん」


「…アズラ卿」


 正面から血にまみれたアズラ卿が笑いながら手を振っていた。なるほど、スッキリするようだな。

 アズラ卿の背負う矢筒を見ると、矢が半分以上残っているので、大半を斬り殺したようだ。右手に長剣を、左手に短剣を持ち、肘まで血に染まっているので、近接戦を楽しんだようだ。


「あいやー、二人とも汚れてるネ。返り血、汚いある」


 アズラ卿と話していると、トモエが近づいてきた。

 トモエは双錘が汚れているのみで、その旗袍には一切返り血がついていない。まあ元々が赤い服であるから、少しならばついているのかもしれぬが、目立つ程はついておらぬ。返り血を避けているようだ。


「おぬし…綺麗だな」


「公爵、ダメある。わたし、だーりんと結婚してるネ。公爵も他夫ネ」


「いや、そういう意味ではなく…」


「トモエさん、ジルさんは清潔ですね、と言いたいんですよ」


「あいやー、そうあるか。恥かいたある」


「俺も言葉足らずであった」


 トモエはサヌスト語でもヤマトワ語でも特殊な話し方をするので、その言語能力が分かりづらい。まあサヌスト在住歴はアキより短い上、周囲のサヌスト人比率もアキの方が圧倒的に高いので、アキより少し拙い程度に思うべきだろう。


「猿ではなくホリラの間違いではありませんか…」


 アガフォノワがそう言いながら近づいてきた。天眼で周囲を探ると、アガフォノワの方に多く魔猿が行ったようだ。気迫が足らぬのだろう。


「ほりら? ああ、大猩猩ゴリラの事か。アガフォノワ、フォルミーント語が出てるぞ。命名基準にするのは勝手だが、それ以外では辞めろと言ったろ?」


「申し訳ありません、長官。あれが猿ですか。それとも、この辺では霊長類を猿と総称するのでしょうか」


「我が領に大猩猩ゴリラが住み着くような環境はない。魔物化して生態が変わったんだろう。トモエさん、死体の回収を」


「分かたある」


 アズラ卿はアガフォノワのフォルミーント語を窘めつつ、トモエに死体を回収するよう言った。すると、トモエは旗袍と同じ意匠の袋を取り出し、それに死体を詰め始めた。時空間魔法が付与された鞄であるようで、死体の回収に使っているようだ。ちなみに、モレンク血閥軍兵士からなる冒険者パーティには一つずつ配布され、有効活用されているそうだ。

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