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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇
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第54話

本日は2話更新しました。本話は1話目です

 俺は二日間、不眠不休で走った。途中、何度かヌーヴェルを喚び出して乗ったが、八割は俺が走った。俺が走った方が速いのだ。ブロンダンには確実に近づいている。

 もう日も沈んで暗いが今夜は月がそこそこ大きいので真っ暗ではない。


 ブロンダンの近くで皆に出て来てもらった。普通の商隊を装う為だ。

 交渉役とレリアはみかんを載せた荷車の御者台に乗る。牛が引いているが御者とかはいらない。賢い牛を選んでくれたので俺達についてくる。

 それ以外は馬に乗るのだ。ヌーヴェルとルドゥとエヴラールの馬は角があるが馬鎧を着せてカモフラージュしてある。

 ちなみに役所にはヤマトワにみかんを売りに行く、と申請する。剣を売りに行くと申請するよりもみかんを売りに行くと申請した方が許可が降りやすいのだ。

 ラポーニヤ山になっていたが誰も食べない為、ついでに売ってこよう、というのが本音だ。


 海が見えてきた。ブロンダンは海以外の三方を山に囲まれている為、建物などの雰囲気もガラリと変わる。


「わぁ〜、ジル、見て!海だよ、海!」


「ああ、レリアの瞳のように綺麗だ」


「も〜、ジル〜」


 俺がレリアと話しているとロジェが馬を近づけてきた。


「姫様、ご主人様のことは『デシャン』と呼ぶようにしてください」


「あ、そうだった。ごめん」


 俺ではなくレリアに用があったようだ。


「謝ることは無い。まだブロンダンには入っておらぬ。入ってから気をつければよかろう」


 レリアをフォローしておいた。


「デシャン殿、門が閉まっているようだ。俺が行って開けるように頼んでくる」


「ああ。任せた。クロードと名乗れよ」


 頷いたクロードことアシルが走っていった。


 しばらくすると俺達の上空に火矢が放たれた。


「囲め!」


 肩幅が俺の二倍ほどある大男とその一味が道の脇から出てきたのだ。数は三十人で全員、騎乗している。伏兵もいるかもしれぬ。


「荷物と金目のものと武器を置いて行け。そこの女もだ」


 その言葉が俺の怒りを買った。


「それはこちらのセリフだ。さっさと退け。さもなくば皆殺しだ」


「おぉ、無知な男だ。この辺りでは夜に出歩くとウルファーに襲われるぞ。特に貴様らのような商人はな」


「ウルファー?何だそれ?」


「そんなことも知らないのか?まあいい。ともかく、ウルファーに襲われないように俺らが荷物を貰ってやるって言ってんだろ?」


「やれるものならやってみろ」


 俺は大男を煽った。

 すると大男は大剣を両手で振り上げて俺を目掛け、振り下ろした。

 俺は剣を抜き、片手で受け止めた。


「お頭の剣を止めた!?」


「片手だぞ!?」


 大男の部下がそう言っている。


「なんだ?その体は?肉襦袢でも入れているのか?」


「何をぉ!」


 大男が更に力を込めてきたので押し返した。すると大男は落馬した。

 受身をとり、すぐに剣を振ったのは良いが、味方の馬の足を斬り裂いていた。


「お頭ぁ」


 その馬の主人は落馬した。ろくに受け身もとらず、近くの石で頭をぶつけて死んだ。


「な!」


 大男は驚いていた。当たった、と思い喜んでいたが、ただ同士討ちをしただけである。


「ロジェ!フィデール!エヴラール!荷物を守りながら、突破しろ!クロードと会ったらここに来るように伝えろ!」


「「「御意!」」」


 俺は大男の一味が呆然としている間に指示を出した。


「追え!一人も逃がすな!」


 大男がそう叫んだ。

 俺は弓矢を取り出し、ロジェ達を追いかける奴らを一人ずつ射抜いていく。だが半分くらいはこちらに残っている為、俺を殺そうとこちらに向かってくる。


 俺はヌーヴェルから降り、二手に分かれる。俺が遠くの敵を、ヌーヴェルが近くの敵をそれぞれ相手するのだ。


 最後の一人を狙っている時、大男が俺に剣を振りかざした。

 それを躱しながら最後の一発を放ち、見事命中させる。


「ウルファーってお前らだろ?」


「答えん!」


 俺は得物を弓から剣に変え、大男が振り下ろした剣を躱し、大男の胴体を斬り上げる。もちろんギリギリ死なない程度だ。


「さて、俺の質問に答えてもらおう。お前がウルファーか?」


「答えん!」


 大男はそう言って大剣を振り回し始めた。もちろん俺に当たる訳もなく、大男の体力が無くなり、倒れた。確認すると死んでいた。


「ヌーヴェル!」


 ───我が主よ。我が自慢の角に付いた血を拭き取ってくだされ───


「ああ」


 俺は水魔法で水を生み出し、ヌーヴェルの角を水で包み込んでやった。


 ───おぉ、これは…癖になりますな。これからも戦の後は頼みますぞ───


「分かった。というよりも血がつかないように戦ってくれ」


 ───それは不可能ですな。ジル様に剣を使うな、と言うのと同じですぞ───


「俺は素手でも強い。相手の武器に合わせているだけだ」


 ───左様か。ではジル様がこの世で一番強いのでは?───


「そうだといいな」


 ヌーヴェルと話しているとアシルが来た。俺は立ち上がって迎える。


「お、どうだ?門は開けてくれたか?」


「ああ。ところで盗賊は?」


「その辺に落ちているだろう?」


「え?」


 アシルが足元を見ると納得したような表情(かお)になった。


「エヴラールが衛兵隊を連れてここまで来る。それまで待っていよう」


「ああ。焚き火でもするか?」


「俺がつけよう」


 アシルはそう言って魔法陣を空中に描いた。そこから薪が出てきて、空中で火がついた。


「そうやって女を落とすのか?」


「え!いや、別に…」


 妙に演出じみた火の付け方をからかうとたどたどしくなった。図星か?


「まあいい。ところで今、門を出た騎馬隊が衛兵か?」


「分かるのか?」


 俺は右眼を指差してこう言う。


「天眼を使えば、な」


「俺もあるが、そんな遠くまで見えないぞ」


「俺の眼がいいんだよ」


「ジル殿ばかりずるいな。俺は魔眼もないぞ」


「そうか。可哀想なアシル」


「言うなよ」


 俺とアシルはその後もしばらく話し続けた。すると騎馬隊が三方向から近付いてきた。


「来たぞ。敵か味方か」


「ジル殿、背中は任せろ」


「ああ。敵だったらの話だが」


 俺とアシルは背中合わせになる。


「ウルファー!」


 どこかでそんな叫び声がした途端、騎馬隊が出てきた。衛兵隊とそうでない騎馬隊が剣を打ち交わしながら来たのが一方向。エヴラールを先頭にブロンダンの方から来たのが一方向。山の方から来たのが一方向。


「エヴラール!」


「デシャン様!今夜はウルファーの日だそうです!」


「ウルファーの日?」


 エヴラールが俺の方に来てそう言った。俺とアシルは馬に乗った。


「はい。なんでもこの辺りでは毎月初めにウルファーが大々的に盗賊行為をするらしいのです。それが今日だったらしく…」


「分かった。詳しい事は後で聞こう。先にそのウルファーとやらを討伐する。案内しろ!」


 俺はエヴラールの後ろをついて行く。衛兵隊では無い騎馬隊の方だ。


「ここか!」


 俺とアシルはエヴラールを抜かしてウルファーに突っ込む。後ろではエヴラールが衛兵隊の者に話しかけていた。耳をすませば声が聞こえる。


「衛兵隊長殿、あの一隊は我々が討伐しましょう。黄金の鎧をまとってるのはデシャン様と言い、商人でいるのがもったいないくらい強いのです。これまでも盗賊を一人で壊滅させたことが何度もあります」


「いや、しかしだな」


「ではこうしましょう。衛兵隊があちらのウルファーを討伐し終えたら加勢してください」


「…やむを得ん。感謝する」


「ありがとうございます」


「うむ。セシャン隊はトスカン隊に加勢せよ!」


 後半は部下に向けての言葉だろう。俺の周りで戦っていた衛兵がもう一方の衛兵隊の方へ向かっていった。


 俺はエヴラール達の会話に耳を傾けながら二十人は斬った。


「クロード!エヴラール!あれを使え!」


『あれ』というのは魔法だ。エヴラールはまだ実戦で使えるほどでは無い為、石を投げるのだ。それに合わせてアシルが火魔法で小規模の爆発を起こす。そうすることで魔法をカモフラージュできる。そしてそれはデシャン商隊特製の秘密兵器ということにしておけば良い。


 魔法を使いだしたおかげで相手の数もどんどん減っていく。俺は得物を槍に代え、三人程を同時に貫く。それを何度も繰り返すことで効率よく戦える。


 そしてしばらくした後、全員倒した。衛兵隊の方もほぼ同時に終わったようだ。


「デシャン殿、ご協力感謝する」


 エヴラールが話していた衛兵隊長が話しかけてきた。


「いや、こちらも助かった」


 もちろん嘘だ。


「ここではなんですし、ブロンダンの館まで案内しましょう。今夜はそこに泊まってくれて構いません。もちろんお仲間も」


「それはありがたい」


 俺は衛兵隊長と並んで進む。


「少しお待ちを」


 衛兵隊長はそう言うと、振り返ってこう叫んだ。


「今夜は遺髪のみ回収しろ。遺体は明日回収する。怪我人には手を貸してやれ」


 俺の方に向き直った。


「さあ、行きましょう」

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