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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第546話

 屋敷に帰ると、レリアは真っ先に談話室に向かった。準備はできていると連絡はあったが、少々不安だな。

 談話室に入ると、執務机ほどはあろうかという大きな自鳴琴オルゴールが置いてあった。いや、昨日聞いた製造過程を考えれば、執務机に自鳴琴オルゴールや各種の音響機器を嵌め込んだもの、という表現が正しいだろう。


「ジル…これは何?」


自鳴琴オルゴールという、自動で演奏する楽器だ」


「自動で演奏って…どういうこと?」


「仕組みはよく分からぬが、とりあえず使ってみよう」


 俺はレリアにそう言いながら自鳴琴オルゴールの前に膝をついた。

 引き出しから円盤を取り出し、自鳴琴オルゴールの然るべき部分に置き、然るべき部品で固定した。各部分の名称は聞いておらず、使い方のみ教えられたので、レリアに説明するには使って見せるしかない。


「レリア、手を貸してくれるか?」


「うん、はいどうぞ」


「ありがとう」


 俺はレリアの手で机上の取っ手を握り、回した。この取っ手を回すと、ぜんまいに力が溜まり、この力を僅かずつ消費して音楽が奏でられるそうだ。溜められる力には上限があり、限界を迎えるとそれ以上は取っ手が回らなくなるようなので安心である。

 俺達が手を離すと、音楽が奏でられ始めた。


「凄すぎてちょっと分かんないけど、とりあえずいい曲だね。ありがとう」


「喜んでもらえて良かった」


「使いこなせるか自信はないけど、ジルがいない日は毎日聞かせてもらうね」


「では飽きぬように、何曲か追加で手配しよう」


「飽きないと思うけど、ありがとう。あ、お願いがあるんだけど、いいかな?」


「ああ。任せてくれ」


「これ、寝室かあたしの部屋に置けないかな?」


「車輪がついているゆえ、押せば動くぞ。だが、任された以上は俺が動かそう。どこに置く?」


「それじゃあ、あたしの部屋にお願いするね」


「承知した」


 俺はそう言い、レリアの指定した場所まで自鳴琴オルゴールを運んだ。なかなかに重いが、車輪があるためにレリアでも動かせぬ事はなかろうから、大事を取って誰かと二人で動かせば安全だろう。

 その後、レリアは自室のソファーで俺と並んで音楽を聴きながら寝落ちしたので、俺はレリアをベッドに移し、ベッドの傍らの椅子に座った。


 翌朝。俺はレリアが起きる前に、朝食を食べるエヴラールとリンから昨日と一昨日の話について報告を受けた。騎士団も魔物討伐庁も、事前の手配のお陰で俺が決裁すべきものはなかったようである。

 エヴラール達を見送ると、レリアが起きてきた。


「おはよ。あれ、今日もいてくれるの?」


「おはよう。今日は家政を処理しようと思ってな」


「あ、あたしのためじゃないんだ」


「レリア、勘違いはして欲しくないが、夫婦仲を保つのも家政に含まれると、俺は考えている」


「アズラちゃんに怒られない?」


「怒られる」


「それなら、頼まれた事はちゃんとやっておかないとね。あたしも手伝えるなら手伝うよ」


「それはありがたい。だが、まずは朝食だ」


「だね。もう食べた?」


「いや、まだだ。一緒に食べよう」


 俺はレリアにそう言い、二人で食堂に入り、睦み合いながら朝食を食べた。そのためか、いつもの数倍の時を要したが、満足感は数十倍であるから、まあ得をしたと思おう。

 朝食後、俺は執務室に移動し、衣装室に着替えに行ったレリアを待ちつつ、リンが整えてくれていた書類を確認した。


「お待たせ。どんな感じ?」


「現状報告と今後についてであった。詳しくはまだ見ておらぬが、来年以降の納税に関してであったり、領内の開発についてであったり、色々ある」


「へえ。あたし、良く分からないんだけど、納税って誰が誰に納めるの?」


 レリアはそう言いながら税収や納税額の予定に関する資料を手に取った。俺もアズラ卿達に任せっきりであるゆえ、大して詳しくはないが、レリアに説明を求められたのに説明せぬ訳にはいかぬ。分かる範囲で説明しよう。


「平民が県に納め、県が州に納め、州が皇帝陛下に納めるのだ」


「県とか州とかって言うのは、領主の事だよね?」


「統治者という点では領主であると言えよう。帝室直轄領と領主一人の州、複数の領主がいる州とでは、運用法が異なるゆえ、一概には言えぬのだ。帝室直轄領や複数の領主がいる州については、俺は詳しくない」


「なるほどね。うちの領地はどうなの?」


「それぞれの県が徴税し、各州令府に税収額を報告し、領主府に納める。そこから、皇帝陛下に納める分と領主府予算、三つの州令府予算とに配分し、さらに州令府予算を県令府予算に配分する」


「ずっと気になってたんだけど、州令府とか県令府とか、皇帝陛下の指示で設置した機関の上に、あたし達が勝手に家政機関を設置してもいいの?」


「構わぬぞ。内務省に州令と県令の人選を報告し、その上で州令府に中央官吏を受け入れたら、他はどう統治しても良いのだ。まあ帝国法に則った中央官吏の職務には協力せねばならぬが、そんなものは大した負担にならぬ」


「それなら良かった。それで、モレンク領の税収ってどんな感じなの?」


「アズラ卿が送ってきた資料がある。これによれば…」


 俺は手元にあった資料から、アズラ卿の字で『税に関して』と書かれたものを取り、レリアと二人で中を見た。


 アズラ卿の計算では、モレンク領三州合わせて二十億オールほどの税収となり、中央から派遣された財務官僚の算出した皇帝陛下に納める額は約三億オールとなる。これは今年の国家予算の一割強に相当する。

 これらの税収は、アズラ卿による統治、二年間の免税、ヤマトワとの交流、白蓮隊による技術提供など、様々な要因が複雑に絡み合い、互いに良い方向に作用したために生じたものだそうだ。簡単な例を挙げれば、他の領主が持て余した解放奴隷を受け入れて労働力を確保し、ヤマトワや白蓮隊による新技術の開発やそれらを用いた製品の生産、開墾による農地拡大などを、解放奴隷の支援に関する補助金や免税され手元に残った予算を用い、大規模に行ったそうだ。この他、商業連合による経済活性化なども要因として挙げられる。

 これら税収増を受け、領主府主導の大規模な領地開発を進めるそうで、それらによって数年後には税収は今の倍となる試算があるそうだ。俺としては、アレクやテリハの教育に良さそうな施設や教師陣の用意に割ける額が増えそうでありがたい。

 ちなみに、俺やアシル、ルイス卿やアズラ卿など、モレンク血閥構成員の生活費は、使用人の人件費や屋敷の維持費などを除き、それぞれが稼いだ金銭で賄っているので、領地の税収が増えたからといって生活が変わるわけではない。まあ家臣らに対する報酬は領地収入から支払われているので、昇給による士気の向上などによる間接的に生活が良くなる可能性などは充分あるが、それは別に今回の本題ではないのでどうでも良い。


 その後、俺とレリアは雑談をしながらも、睦み合いそれ自体は我慢しながら家政の処理に励んだ。まあアズラ卿達によって完璧に限りなく近く完成された施策の承認をするだけであったので、大して難しいものでもなかった。

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