表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

539/560

第538話

 コンツェン王国遠征計画や帝都支城網などについて処理を進め、八月二十七日となった。あくまで表向きのものではあるが、レリアと決めた俺の誕生日である。

 本来の誕生日である一月一日は年始ということもあって忙しいので、ちゃんと祝えるように、と決めた誕生日であるが、去年はレリアが慶事休養中であったし、その前は確かクラヴジック城で何かやっていたような気がする。それゆえレリアには祝ってもらっておらぬのだ。誕生日は当日以外は祝わぬという、サヌスト人かヴォクラー教徒かの慣習であるから、俺に文句はないし、俺も当日に会えねばレリアの誕生日は祝わぬ。


 そういう訳で、俺は結構楽しみにして起き、レリアを起こさぬよう寝室を出て、一応軍服に着替えた。正装をしていた方が、普段着でいるより格好がつくはずだ。

 食堂で朝食を食べていると、レリアが屋敷から出ていく気配があった。俺の勘違いかもしれぬが、だが、確かに出ていく気配があった。いや、確かめるまでは分からぬし、かといって自分で確かめるのは怖いので、誰かに確かめさせるか。


「レリアはどうしている?」


「確認してきます」


 給仕に来ていたアメリーにそう言うと、何かを察したような顔をして確認に行った。察する必要がないときに限って、俺の意図を察するな。

 しばらくして戻ってきたアメリーの表情から察するに、レリアは出掛けてしまったようだ。いや、そうと聞くまではレリアが出掛けているとは限らぬのだ。


「その…出掛けてらっしゃいます。つい先ほど出たばかりなので、追いかければ間に合いそうとの事ですが…」


「…そう、か。承知した…」


 どうやらレリアは出掛けてしまったようだ。昨日のうちに騎士団で今日は俺が必要ないよう手配をしてきたが、無駄足になったな。まあレリアもアレクの面倒を見て疲れているだろうし、レリアを責められぬ。


「おはようございます、ロード様」


「ああ」


「なんだか落ち込んでらっしゃいますね。このカイラ・リン・トゥイードが慰めて差し上げますよ」


「リン、別に何かがあった訳ではない。行くぞ」


「あ、私まだ朝ご飯…」


「知らぬ。アメリー、アキには先に行くと伝えてくれ。では」


 俺の表情を見て察したらしいリンに揶揄われたが、俺はリンより立場が上なのだ。多少強引な事もできる。

 俺はリンを連れてリンの部屋の前まで行き、リンの準備を待った。リンは色々と文句は言うが、将官府や秘書課を通じて俺に提出される書類を持ち帰り、夜の間に整理してくれているのだ。


「お待たせしました。行きましょうか」


「ああ。朝食は騎士団の食堂で食べる時間を取ろう」


「それなら今食べる時間をくださいよ」


「ならぬ。行くぞ」


 俺はリンを伴い、屋敷を出て騎士団庁舎に来た。

 今日が俺の誕生日であり、俺が昨日のうちに色々と片付けていたため、今日は俺が来ぬと思われていたようで、すれ違う者は驚いたような顔をしたが、リンの表情を見て事情を察したようである。こう気遣われるのであれば誕生日の公表もせず、昨日もいつも通りに過ごせば良かったな。


 執務室に着き、リンを朝食に行かせた俺は、机に置いてあったそれらしい書類を手に取り読み始めた。

 軍馬局からの上申書で、騎士団の軍馬の全てを一角獣ユニコーン化し、騎兵戦力の増強に努めてはどうか、というものであった。

 魔法陣の改良さえすれば、馬の一角獣ユニコーン化はそう難しいことではない。維持費については多少増えるかもしれぬが、他の分野に同額を費やすより大きな効果が得られるだろう。いや、一角獣ユニコーン化すれば寿命も延びるし、調達の費用が抑えられ、軍馬に費やす予算自体は減るかもしれぬな。


「失礼します。然るやんごとなき御方がおいでになりました。応接室でお待ちです」


「然るやんごとなき御方? 誰であろうか」


「内密に、との事です」


「そうか。すぐに行こう」


 全軍馬一角獣(ユニコーン)化計画について読んでいると、秘書課員が訪ねてきてそう言ったので、俺は承認する旨の手控えを走り書き、秘書課員の言うやんごとなき御方とやらの待つ応接室に向かった。

 やんごとなき御方がやんごとないと自称しているのかは知らぬが、秘書課員にそう言わしめるとは皇族か貴族であろうか。だが、そのような人物と会う予定はないはずである。


「帝国騎士団長モレンクロード大将軍、入ります」


 応接室前に着いた俺は、扉を叩き、そう言ってから扉を開けた。すると、中にはドレスを着て麻袋を被った、いかにも怪しい女がいた。やんごとなき御方がする格好であろうか。


「…お顔を拝見できませぬか」


 やんごとなき御方の正面に座り、しばらく話し始めるのを待っていたが、何も話さぬどころか一切動かぬので、俺はそう尋ねた。こういう場合はどう対応するのが正解なのであろうか。


「…お話しいただけるまでお待ちします。その気になればお話しください」


 俺はそう言い、立ち上がって窓から外を、訓練のため練兵場を走る兵士らを見た。応接室は採光のため、他の部屋に比して窓が大きいので、外が良く見える。まあ外が見えたところで、この気まずさは解消されぬのだが。

 昨日の手配のおかげで、俺は今日に限っては暇なのだ。いや、正確には暇にもなれるのだ。それゆえ、一日中でもやんごとなき御方の相手をできる。気長に待とう。


「あの…」


 窓の外で走る兵士らが五周目の半ばまで達した頃、やんごとなき御方は口を開いた。俺が多少驚きつつも振り返ると、やんごとなき御方は掌をこちらに向けていた。

 その掌には『間違いでございました。お付き合いいただき感謝します』と書かれていた。やんごとなき御方は俺が部屋にいる間は一切動かなかったので、事前に書いていたものであろう。とすると、俺の足止めが目的…


「失礼。ごゆるりと。では」


 俺はそう言い、返事も聞かずに応接室を出て、舎内警備の兵士にやんごとなき御方を見張るよう命じ、執務室に急いだ。

 俺が蔑ろにできぬ身分を称して俺を執務室から誘い出し、俺を応接室に釘付けにする目的といえば、執務室への侵入ではなかろうか。執務室には外に出せぬ情報も多いし、まずいかもしれぬな。


「何奴かっ!」


 抜剣して執務室に入ると、レリアとアキが並んで座っていた。侵入者を怯ませるために勢い良く扉を開けたせいか、驚かせてしまったようだ。落ち着いてゆっくり近づけばレリアの気配に気づけぬ俺ではないが、レリアがいるわけがないという先入観と侵入者の可能性に焦って、レリアの気配に気づけなかった。


「すまぬ。二人とは思わず…」


「ううん、こっちこそ驚かせてごめんね」


「旦那様、アーウィン将軍に言って半休を貰った。もちろん、ワタシと旦那様の分だ」


「あたしが言うのも何だけど、まずは剣をしまって座って?」


「ああ」


 俺は剣を収め、二人の前に座った。俺は休暇を取るのに別にアーウィン将軍の許可はいらぬが、まあアキの好意に口出しはすまい。

 今日は俺の誕生日であるし、これは期待しても良いのではなかろうか。いや、期待すべきではなかろうか。だが、万が一という事もある。今朝もそれで落ち込んだし、期待はしすぎぬ方が良いだろう。


「それで、わざわざ何用であったろうか」


「ジル、お誕生日おめでとう」


「旦那様、おめでとう」


「これ、あたしとアキから誕生日プレゼント。開けてみて」


「良いのか? ありがたく受け取らせてもらおう」


 俺はそう言い、レリアから包みを受け取った。受け取った包みを開けると、剣帯らしき二本の革帯が入っていた。一本は質素な作りで、もう一本は刺繍などが入り豪華な作りである。


「これは…剣帯か?」


「うん。アキが獲ってきてくれた革で作ったの」


「ナントカという魔物だ。これだけで鎧に使えるくらい頑丈だし、火にも強い。とにかく丈夫なのだ。それを姫が剣帯にして、刺繍してくれたのだ」


「こっちのいっぱい刺繍してある方は、軍服を着てる時に護拳湾刀サーベルを帯びるのに使ってね。あ、ちゃんとアシルにも相談して、軍服を着る時に着けても大丈夫って確認を取ったからね。ほら、着けてみてよ」


 レリアはそう言い、全面に薔薇の花や蔦の刺繍が入った剣帯を手に取り、アキは俺の腰に手を回して今着けている剣帯を取った。そして、レリアが着けてくれた剣帯に、アキが護拳湾刀サーベルを取り付けてくれた。


「うん、良かった。ジルは何でも似合うね」


「だな」


「ありがとう、二人とも。未来永劫、大切に使わせてもらおう」


「ちょっとジル、泣かないでよ」


「泣いておらぬ」


「嘘をつくな。ほら、見ろ」


 アキが俺の頬を拭うと、確かに濡れていた。どうやら嬉しすぎて自分でも気づかぬうちに涙が溢れ出てしまったようだ。肉体の制御には自信があったのだが…ままならぬな。


「じゃあ、涙で前が見えなくなる前に、次のを紹介するね。こっちは鎧の上に着けてね」


「さっき抜いてた剣とラスイドと、短剣二本をつけれるぞ」


「あ、それは内側にだけ刺繍してあるからね。あたしとジル、アキの名前と今日の日付が入ってるの。さっきのにも入れてあるからね」


「外側に刺繍を入れてあったら、戦場で汚れた時に落ち込むだろ? ま、とりあえずさっき言った剣を貸せ。つけてやる」


「ああ」


 俺が剣とラスイド、短剣二本を差し出すと、アキは手際よく剣帯に取り付けてくれた。

 鎧の上から着けるための剣帯であるから、今着けているものより一回り程度大きい。目測ではあるが、鎧を纏った時の腰回りにちょうど良い大きさであるように思える。軍服用の時も思ったが、いつの間に測ったのであろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ