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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章
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第537話

 リード銀士らに魔導砲(マヒー・カノン)の審査を、クレーヴ大尉らにはその手伝いを命じる事で、騎士団庁舎の正門爆散に関する件は終わった。門の修理が終わるまでは警衛の人数を増やさねばならぬが、半月もあれば直るだろうから、まあ良い。


 翌日。正門爆散の際に駆け付けた帝都防衛隊の衛兵隊から説明を求められたが、騎士団の憲兵隊が追い返していたようであると、徹夜で対応したらしい兵器局長と兵務局長から報告があった。それを基に、詫びと報告のための書状を、軍令部と帝都防衛隊に向けて書いていると、執務室に秘書課員が入室してきた。


「大将軍閣下、グローブス将軍閣下がいらっしゃっております。予定はありませんが、いかがなさいますか?」


「何用と?」


「は。麾下部隊再編に関する相談を、と仰せです。それ以上は大将軍閣下にしか話さないとの事です」


「そうか。では通してくれ」


「承知いたしました」


 秘書課員がそう言って退室すると、扉の前で待っていたのか、グローブス将軍はすぐに入室してきた。

 イヴェール隊は特殊補充隊によって完全に充足が完了しているはずであるが、今さら再編を言い出すとは、何かあったのであろうか。


「閣下、突然申し訳ございません」


「いや、良い。部隊再編に関する相談と聞いたが?」


「はい。まずはこちらを」


 グローブス将軍はそう言い、それなりに厚い資料を机の上に差し出した。工兵金隊構想と題されたそれは、グローブス将軍の自信作であるようで、自信満々に説明を始めた。


 工兵金隊構想とは、イヴェール隊の十個金隊のうち半数の五個金隊を工兵部隊として運用するものであった。二個金隊で構成される各名称部隊を、歩兵金隊と工兵金隊で構成しようというのだ。

 工兵金隊は、純粋な工兵のみで構成される三個工兵銀隊、それらの警護を担当する警護銀隊によって構成される。三個工兵銀隊の内訳は、戦闘工兵銀隊、建設工兵銀隊、混成工兵銀隊であり、混成工兵銀隊は、船舶工兵や消防工兵など戦闘工兵や建設工兵以外を銅隊以下の規模で適宜編成する。

 工兵金隊の任務としては、戦場における歩兵金隊の支援、渡河作戦などが挙げられるが、平時には訓練も兼ねて要塞の建築や修繕なども担当するとの事だ。


「と、このような構想を閣下にお話ししようと思っていたのですが…」


「お話ししたではないか」


「閣下、正門を破壊したという兵器、ご紹介いただけませんか?」


「構わぬぞ。兵器局次長に審査を命じた。見学するか?」


「よろしいのですか?」


「ああ。この工兵金隊構想はどうする?」


「提出いたします。色々と応用できるかと思いますので、ご活用いただければ、と」


「そうか、承知した」


「それでは兵器局を訪ねてみようかと。次長の名は確か…」


「イーサン・リード筆頭銀級徒士だ」


「そうでした、リード筆頭銀士。ありがとうございます。それでは失礼いたします」


 グローブス将軍はそう言うと満足げに退室していった。魔導砲マヒー・カノンを導入するとなれば、グローブス将軍に任せられそうで良かった。まあグローブス将軍が気に入らず、工兵金隊の実現に動くかもしれぬが、それなら別の部隊に導入すれば良い。


「失礼します。枢密院からルホターク金士相当官がいらっしゃっています。お通ししますか?」


「ルホターク金士相当官? 何用であろうか。とりあえず通してくれ」


「承知いたしました」


 グローブス将軍が出ていってしばらくせぬうちに、再び秘書課員が訪ねてきてルホターク副長の来訪を告げた。今日は来客が多いな。

 しばらくすると、ルホターク副長が入室してきた。どうやら然るべき場所で待たされていたようだな。


「枢密院議長附特別軍事顧問グスタフ・ルホターク金士相当官、入室いたします」


「ああ。何用であったか」


「コンツェン遠征軍について、枢密院正副議長の命を受け、閣下のご支援に。文官との調整はお任せを」


「そうか。まだ何も決まっておらぬぞ」


「ええ。決まってからでは変更が大変でしょうから」


 将官と将官府属員、侍従武官、近衛兵のみが着用を許された赤い軍服を纏ったルホターク副長はそう言いながら、勧められてもおらぬのにソファーに座った。ジェローム卿やヴァーノン卿の指示であれば追い返せぬな。


「閣下、これは食糧庁が算出した、帝国暦五年四月の主要食品の貯蔵状況の予想です。そのうち、兵糧として提供が可能なのは、こちらに纏めてあります」


「それがどうした?」


「これを基に遠征計画を進めてください。大軍で短期決戦を狙うのか、小規模部隊で長期戦を狙うのか。トゥイード銀士相当官、これは計算式です。閣下が仰った兵数が活動可能な期間を計算しなさい」


 ルホターク副長は計算式が書かれた紙片を、リンの机に投げ置いた。階級的に上回っているとはいえ、この二人に直接的な上下関係はない。少々礼を失しているのではなかろうか。


「…は?」


「全ての生物にとって、食の欠乏は大敵である。これを克服してこそ、軍隊は全力を発揮でき、敵を討ち滅ぼす事が叶う。分かるかね?」


「それは分かりますが…」


「何が不服かね。農村出身の君なら飢餓の恐ろしさは知っているだろう?」


「残念ながら私の村が不作だった事はないので、直接的には知りません。クィーズスの肥沃な大地では飢饉とは無縁ですよ。勉強なさったらどうです?」


「私は農政の話などしていない。よろしい。閣下、この小娘を十日間、いえ、五日で構いません。枢密院に出向させてください。飢餓の恐ろしさを味わわせてやります」


「ルホターク金士相当官。おぬしは何の用があって俺を訪ねたのだ。それに、トゥイード銀士相当官が所管するは、帝国騎士団の軍政に関する我が補佐であり、軍令には無関係だ。トゥイード銀士、すまぬが外してくれ」


「はい」


 ルホターク副長がリンに食って掛かり、リンもそれに応じ始めたので、俺はリンに退室を命じた。リンとルホターク副長が揉めて実力行使に出れば、おそらくリンは魔短銃マヒー・ピストーラを使い、おそらくルホターク副長は護拳湾刀サーベルを使い、お互いが死傷しかねぬ。そうなっては誰も得をせぬし、生き残った方を罰さねばならぬ。

 リンは不服そうに立ち上がり、何も持たずに執務室を出て政策事務室の扉を閉めた。


「では閣下、改めて話を進めましょう。閣下、確か亡命したコンツェン人を保護していていますね?」


「ああ。今はコンツェン王国内で戦象の保有者のうち、王弟リヒャルドに叛意ある者を探しているところだ。魔物の調教に活かせぬかと思ってな」


「そうですか。それなら、彼女を軍属にして、遠征軍司令部に地理案内人として雇い入れましょう。それから、諸種兵団に戦象部隊を編成させてください。野戦軍総司令官ならできるでしょう? あと、騎士団情報部を使って、コンツェン貴族を促し、内乱を起こさせてください」


「いや、すまぬが計画はまだその段階ではない。その段階になったら呼ぼう。帰ってくれ」


「普通、次の段階に向けて動き始めるものでしょう。ですがよろしい。遠征軍の編成について、お手伝いいたしましょう。外部に漏れないよう進めねばなりませんが…誰に知らせました?」


「部局長らだ。それから、各戦術単位の指揮官に通達した。騎士団は全部隊が参加する予定であるから、司令部要員の選定に掛かっている」


「そうですか。所属や戦力、占領政策など様々な事情を勘案し、私なりに参加部隊を挙げてみました。ですが、正門を見て事情が変わりました。あれをやったのはアガフォノワの部下ですね? 帝国軍に砲兵隊が創設されるなら、大幅に部隊規模の縮小が可能になります」


「そうか。ではそれを見込んで、とりあえず帰ってくれ」


「ええ、そうします。三年後の侵略開始時の技術力についてアガフォノワ達と相談し…とりあえず、近日中にまた来ます」


「そうか。では」


 ルホターク副長はそう言い、足早に帰っていった。久しぶりに直接話したが、なかなかに面倒な性格であったな。最初からあのような感じであったろうか。

 俺としては、リンが委縮して能力を発揮できぬようでは困るので、早く帰ってもらえて助かった。だが、ルホターク副長、いや、ルホターク金士はこれからもコンツェン遠征に関して口を出しに来そうであるから、遠征軍司令部を別の建物に設置してリンと接触せぬようにした方が良いだろうか。


「情報部です。よろしいですか?」


「ああ、良いぞ」


「失礼します」


 ルホターク金士が出ていくのを待っていたのか、入れ替わるように情報部副長コート銀士が入ってきた。

 部下からの大事な用件があるのに、ルホターク金士の長話に付き合わされていたのか。


「閣下、情報部と測量部の合同でコンツェン王国内を調査する件ですが、参加者を挙げました。それから、潜入のため身分を偽装する許可をいただきたいのですが」


「身分を偽る?」


「はい。何の目的もない集団が複数あれば、さすがのコンツェン人も我々を疑うかもしれません。ですので、商人などに身分を偽装し、商売など別の目的をもった集団に偽装すれば、コンツェン人側に気付かれる可能性も低くなります」


「なるほど。それで、何に偽装するつもりだ?」


「はい。まずは商会をいくつか立ち上げ、騎士団に納入する商人との間に入って実績を積ませます。実態がなければ怪しまれますから。さらに、宗教省の協力を仰がねばなりませんが、巡礼者に偽装するのも良いかもしれません」


「そうか。だが、商会が騎士団と繋がるものばかりでは、実態がないより怪しかろう。幾人か貴族に協力を仰ぎ、それぞれの御用商人にしてもらおう。それから、歴史の浅いものばかりでは怪しまれるかもしれぬし、廃業間近の商会を探し、買い取るのも良かろう」


「はい。ですが、外部の協力があると、情報が漏れやすくなります」


「確かにそうだ。だが、具体的に何のため、という事を説明せぬなら大した影響はないのではないか?」


「はい、仰る通りです。それでは閣下、我々の調査で判明した、信頼のおける貴族の一覧です。何かあったら協力を要請しようかと、前々から情報を集めておりました。廃業間近の商会は、探せばいくつか見つかるかと思われますので、すぐに探します」


「ああ。ちなみに、コンツェン王国内での作戦は決まっているのか?」


「はい、こちらに」


 コート銀士はそう言い、情報収集の説明を始めた。つい数日前に命じた事であるのに、もう具体的な作戦が決まっているのか。事前に準備していたのかもしれぬな。


 その後、リンも加わって色々と決め、情報部の言う信頼のおける貴族に協力を要請する書状を認め、宮内省華冑院を通じた送達を頼み、宗教大臣に向けて協力を要請する書状を認めた。

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