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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章
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第535話

 アズラ卿の金儲けの話を聞きながら夕食を終えると、別の話があると言われ、談話室に場所を移した。俺の話もできておらぬので、付き合わざるを得ぬ。


「さてさて、ジルさん。税収増に向けて、領内の発展が急務だと思うのですが…これ、見てください」


 アズラ卿がそう言うと、奥から車輪のついた大きな机を押すアガフォノワとアウストリアが出てきた。わざわざ薄暗い所で待機していたのか。机には布が掛けられており、何が載っているのか分からぬ。


「じゃ、どうぞ」


「俺が捲るので?」


「はい、アキさんと開けてみてください」


「では」


「やっと出番か。旦那様、そっちを持て」


 俺がアガフォノワと、アキがアウストリアと場所を代わり、目配せし合って布を捲った。

 机の上には、細長く平行に敷かれた二本の鉄の道と、それに車輪が噛み合うように置かれた、繋げられた複数の車両の、その模型があった。まあこれらは見た目からの推察であるから、まったく別のものである可能性もある。


「…これは?」


魔導列車ソルセルリー・ルトランと言いまして、魔力を動力に大型車両によって人員や貨物の大量かつ高速の輸送が可能な魔導具です。正確には魔導機関車と軌条だけが魔導具で、他の車両はただの車両ですが」


「なるほど…どうやって動かすのです?」


「あ、これは模型ですから、こうやって、スーッと」


 アズラ卿はそう言い、先頭の車両を手で押した。すると、後続の車両がそれに続き、曲線では軌道に沿って曲がった。魔法的な部分の小型化は無理であったようだが、それ以外の機構は再現できているのだろう。


「既に技術は完成しているので、ジルさんの許可さえあれば大量生産と法整備を進めて…そうですね、再来年には運用を開始できると思います」


「運用と言いますが、大量の人員や貨物をどこからどこに運ぶのです?」


「まずは領内の主要都市、各種の生産拠点、その他必要と思われる地点を結び、鉄道網を構築します。その後は必要に応じて発展させていきます。あ、皇帝陛下や他の諸侯から要請があれば、それに応じるつもりです」


「なるほど。では進めてください」


「分かりました。それじゃあ、ジルさんの話を聞かせてください。領主府に頼みたい事があるって」


「はい。実は新都の建設費用負担に対する礼として、新都建設に関する要望を集めているようでして」


 俺はそう言いながら建設省で貰ってきた資料を机の上に広げた。既にヴェンダール夫人なり国策局なりが入手した情報かもしれぬが、まあ別に良かろう。


「それなら、この魔導列車ソルセルリー・ルトラン用の軌条を後からでも敷設できるように、道幅を広く取ってもらいましょう」


「街中に敷設できるので?」


「技術的には可能です。ただ、法整備が追い付いていないでしょうから、その辺りは分かりません」


「そうですか。では数日中に纏めて建設省に提出してください」


「分かりました。要望はそれだけで大丈夫ですか?」


「ええ。アズラ卿こそ他にないですか? 何かあればご自由に要望を出していただいて構いませぬぞ」


「一応考えておきます。建設省に提出した要望書は、参事官に副書を渡しておきますから、確認しておいてくださいね」


「分かりました」


「それでは、話は以上ですね。レリアさんとの時間を邪魔してすみませんでした。私は休みます、おやすみなさい」


「いえ。ごゆっくりどうぞ」


 アズラ卿はそう言うと、荷物をまとめて部屋を出ていった。アズラ卿には世話になっているし、悪い評価をするつもりはないが、俺とレリアが久しぶりに会ったという時に長話はやめてほしいものだな。せめてレリアと話した後ならば、アズラ卿の長話も苦痛に感じぬだろうに。


「では改めて。レリア、おかえり」


「ただいま、ジル」


 俺は立ち上がる時間も惜しみ、座ったまま両手を広げ、レリアを抱き締めた。やはり睡眠や食事などより、レリアを抱き、レリアを嗅ぎ、レリアを感じた方が、俺は癒される。


「大旦那様、大奥様。申し訳ありませんが、我々からも一点よろしいですか?」


「おい、申し訳ないと思っているなら明日にしろ。許可を請いに来たなら、ワタシが許可してやる」


「いえ、我々は…」


「大体だな、お前達はどうせ血閥軍の事だろ。ワタシを通せ」


「ですから、お二人が揃っている今こそ、お話しする機会かと思い参上した次第です」


 話があると言うアウストリアであったが、アキが制止してくれた。俺はレリアと久しぶりに睦み合う時間を邪魔されたくなかったのでありがたいが、アキとしては良いのであろうか。まあ良いから制止してくれているのだろうが。


「ジル、話を聞くだけなら、使うのは耳だけでしょ? 聞いてあげたら?」


「レリアがそう言うなら話を聞こう」


 確かにレリアの言う通り、話を聞くだけなら使うのは聴覚だけであるから、他の感覚でレリアを感じられる。レリアの頼みであるから、話は集中して聞かねばならぬが、レリアと睦みながら集中できるであろうか。


「長官殿からお話があったかと思いますが、魔導砲マヒー・カノンについてです。魔導砲マヒー・カノンを多数備え、その攻撃に耐え得る装甲を持った戦艦を旗艦とし、その他複数の艦種からなる艦隊を編成し、モレンク血閥軍海上戦力の強化に努めます」


「モレンク領内に海はないが?」


「はい。ですが、ヤマトワの三龍同盟に戦力を提供するならば、兵員輸送のためにも、海戦のためにも、海上戦力は必要です」


「アウストリア、旦那様と三龍同盟は軍事同盟を結んでいない。あくまで、民の保護をしているだけだ」


「ええ、その通りです、アキ様。ですが、何も我々は三龍同盟のためだけに海上戦力の拡充を進めるのではありません。モレンク血閥の支配下にある商船団の護衛など海上戦力の使い道はいくらでもあります」


「なるほどな。だが、その場合は艦隊の母港はどうする? 他の領主に借りを作るのか?」


「そうなります。ですが、例えば皇帝陛下に最新鋭の軍艦を献上し、帝国軍の軍港に間借りさせてもらえるなら、少なくとも他家に借りを作ることにはなりません」


「よし、その方向で進めろ。いいな、旦那様?」


「ああ。全ての艦種を一隻ずつ献上し、二隻目以降は軍務省から依頼を受けて建造費を受け取り、あくまで事業として建造せよ」


「御意。それでは設計図と共に計画書を、参事官殿を通じて提出いたします」


「ああ、頼んだ」


 アウストリアはそう言うと、部屋を出ていった。

 モレンク血閥軍に関する事は、俺とアキの意志が概ね一致しているので、アキに任せておいて良いかもしれぬな。少なくとも、受け答えは任せても良さそうだ。俺がアキに目配せすると、アキはその旨を了承したように頷いた。やはり夫と妻として、上官と部下として、常に一緒に行動していると、目配せである程度の意志疎通はできるな。


「次は私から。戦車を作ります」


「それは、わざわざ旦那様に許可を取ることか? 馬車なら勝手に…」


白甲軍団ブランシュ・ラ・モールの艦隊が軍船から軍艦へ、その主力となる兵器を刷新するように、我ら黒甲軍団ノワール・ラ・モールも機動戦力を刷新します」


「それで、その戦車は何だ? さっきの戦艦の真似か?」


「ある意味ではそうなります。我が祖国フォルモーントの話になりますが、戦車とは陸軍が造船家に依頼して作らせた陸戦兵器です。戦艦と同じく魔導砲と装甲を持ち、歩兵の盾として共に戦います」


「なるほど。で、どう動く? 陸上では帆も櫂も使えんぞ」


「それは先ほどご紹介しました、魔導列車ソルセルリー・ルトランと同類のものを。ちなみに申し上げますが、おそらく軍艦も同様の機関を備え、帆や櫂は使わないものと思われます」


 俺やアキとアガフォノワ達とでは、前提とする技術が異なりすぎて、時折話が噛み合わぬな。造船家の作った陸戦兵器などと言われたら、アキのように帆や櫂で動くと勘違いしても無理はない。


「で、数はどうだ?」


「百両ほど。それに加え、随伴歩兵の機動力確保のため、兵員輸送車を同数程度」


「随伴歩兵?」


「はい。戦車の弱点を補うため、戦車に随伴し脅威を排除します」


「なるほど。旦那様、好きにさせていいな?」


「ああ。だが、軍種対立などしてアズラ卿に迷惑をかけるでないぞ」


「御意。近日中に各種の設計書、計画書、それから新兵器を用いた兵法書を、参事官殿に提出します」


「ああ、頼んだ」


 アガフォノワはそう言うと、一礼して部屋を出ていった。

 アズラ卿もアウストリアもアガフォノワも、俺への報告にリンを挟んだためか、リンが少々嫌そうな顔をしている。一言詫びておくか。


「リン、すまぬが頼んだぞ」


「文句は言いませんよ。年齢で考えても身分で考えても、私と同じ境遇で私ほどの厚遇を受ける人はいませんからね。ロード様のおかげで、毎年二千万リロイ以上も頂いてるんですから、文句は言いません。二千万ですからね、文句は言いませんよ。じゃ、お先に失礼します」


「…ああ」


 リンは自分に言い聞かせるようにそう言いながら部屋を出ていった。リンは忙しいからといってすべき事を疎かにするような性格ではないから、その点に関しては心配しておらぬ。

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