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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第52話

 俺が部屋に入ると部屋の隅にレリアとアルテミシアが固まっていた。


「どうしたんだ?」


「ジルが無事でよかった」


「どういうことだ?」


「さっき外で爆発が起きて結界?が砕けたってメディさんが言ってたから心配してたんだよ」


 ちなみにメディには魔法陣の管理を任せている。もちろん魔法の知識など一切ないので補佐役として引退した魔法エルフを付けている。魔法陣操作室長だ。


「驚かせてすまぬ。実は俺が撃った魔法だ」


「ジルが出るほど強い敵だったの?」


「いや、雑兵の集まりだ」


「それならなんで?」


「実は誰かの指示ミスで本来は死ななくて良い者が五人、死んでしまったから俺を怒らせたらこうなるぞってことで俺が撃った」


「…え?」


「冗談だ。大切な部下が殺られて黙っている俺ではない」


「だよね。よかった。ジルがすごい短気なのかと思った」


「そんなわけないだろう?」


 俺とレリアは話しながら机の方に移動する。アルテミシアが畏まるように歩いてきた。


「ジル様、レリアさん。私はこれで失礼します」


「何か用があるのか?」


「ないならここにいなよ」


「ですが…」


「「ですが?」」


「お二人の邪魔になるのでは?」


「レリアの友人を邪魔とは思わぬ」


「そうだよ」


「ではお言葉に甘えて…」


 俺達は椅子に座る。レリアとアルテミシアが向かい合って座り、俺がお誕生日席に座る。


「ジル様、妾も交ぜてちょうだい」


 いつの間にかキアラが俺の背後にいた。


「断っても交ざるのだろう?」


「ええ、そうよ」

 

 キアラが俺の正面に座った。すると扉が開いてレンカとキトリーが入ってきた。三人とも戦闘直後なのに服が乱れていない。俺も乱れていないが。ちなみに俺は戦闘が終わると水魔法で体を一旦洗い、服も別のを着る。


「突然だが、アルテミシア。ここでの暮らしはどうだ?」


「はい。私は七階で父と暮らしているのですが、はっきり言いますと最高です。行動の制限もございませんので景色を楽しむこともできます」


「ラポーニヤ山でも景色は楽しめただろう?」


「いえ、ラポーニヤ山では常に嵐が吹き荒れていたので外出はほとんどできませんでした。それにここに来るまで夜空があんなに綺麗だとは思ってもみませんでした」


「そうか。人間とは上手くいっているか?」


「人間の方とお話しする機会があまりございませんのでわかりませんがすれ違うとお辞儀くらいはします」


「お辞儀か。どうすれば人間と魔族の距離が縮まると思う?」


「もう少し交流の機会がありましたら縮まると思います」


「考えておこう」


 俺はそう答えながらキトリーが出してくれたお菓子を食べる。


「これ美味しいな」


「ありがとうございます。おかわりもございますがどう致しますか?」


「本当か?では同じ物をもらおう」


「かしこまりました」


 キトリーが部屋から出ていくのを見ながらレンカが入れてくれたお茶を飲む。


「これも美味しい」


「ありがとうございます」


「あのお菓子と合うな」


「あれはマカロンと言うお菓子です」


「マカロンか。覚えておこう」


 レンカがお辞儀をした。なるほど、人間と魔族がすれ違うとこんな感じなのか。

 その後、キトリーが大量のマカロンをバーカートに載せて来て俺が急いで食べるのを見て皆が笑ったりしながら楽しい時を過ごしているときだった。


「ジル様、エヴラールが部屋の前で行ったり来たりしているのですがどう致しましょう?」


 レンカがそう伝えてきた。


「エヴラールが?」


「はい。知らない男を連れています」


「すぐ行こう」


 俺は立ち上がり扉の前まで来た。天眼を使うとエヴラールがウロウロしているのが分かる。

 扉を開けるとエヴラールと目が合った。


「…俺の部屋の前で何をしているんだ?」


「あ、いや、ノックをして良いものか、と考えておりました」


「したら良いものを。で、何の用だ?」


「例の隊長を連れて参りました」


「この男が?」


 俺はそう言って正座をしている男を見る。


「はい」


「会議室は空いているか?」


「今は空いています」


「分かった。こいつを連れてこい」


 俺は会議室へ入る。


「エヴラールは外で待っていろ」


「…は」


「お前はこっちだ」


 俺は例の隊長の手を引いて会議室に入らせる。そして扉を閉める。


「まず所属部隊と名を聞いておこう」


「人魔混成団左翼騎士隊百騎長デフロットです」


「左翼騎士隊と言うとアルフォンスの部下か。で、なぜ俺に呼ばれたか分かっているな?」


「はい。私の独断で任務を変更し、死ぬべきでない兵士を死なせてしまったからです」


「ああ。では変更前の任務は?」


「本日の夜明けから明日の夜明け前まで辺りを警戒することです」


「なぜ変更した?」


「南から来た部隊の援軍であれば南から来る。そう思い込んでおりました。なので南を重点的に警戒していました」


 俺は分かりやすくため息をつく。


「何か言いたいことはあるか?」


「私の指示に従って無駄死にをした部下が五人もおります。どのような罰であろうと甘んじて受け入れます」


「そうか。では一発殴る」


 俺はそう言ってデフロットの鼻と右頬の間を殴る。デフロットは宣言通り避けたりせず正面から受けた。いや、避けられなかったのか?

 入口付近で話していたのだが一番奥にある俺の席を超えてその後ろの壁にぶつかって止まった。

 俺はデフロットの所まで行く。デフロットが机や椅子などをなぎ倒しながら飛んで行ったので真っ直ぐ歩ける。

 デフロットの顔を見ると殴った所が少し凹んでいる。骨までいったか?


「デフロットへの罰はこれで終わりだ」


「あ…ありが…とう…ご…ざい…ま…す…」


 立ち上がろうとしたデフロットが倒れる。俺はデフロットに回復魔法をかけておいた。回復魔法を使うとどこが負傷しているのか分かるのだが、顔の骨が凹み、歯も数本砕けていた。体は鎧を着ていたおかげかほぼ無傷だった。


「もう痛む所はないか?」


「はい。ありがとうございます。この部屋は私が片付けておきますので団長はお部屋にお戻りください」


「お前が俺に指図するな」


 俺はそう言ってフィンガースナップをする。それに合わせて時空間魔法でこの部屋の時間を俺達が部屋に入る前まで遡らせる。これで元通りだ。


「これで良い」


「おぉ…流石です」


「当たり前だ」


 俺はデフロットの顔を見てあの事を思い出す。


「そう言えば、皆の前で殴っておくと言ってしまったんだった。どうする?痣でも作っておこうか?」


「いえ、遠慮しておきます。どのような批難であろうとも受け入れます」


「そうか。もう失敗するなよ」


「はは」


 俺はデフロットにそう言って会議室を出る。デフロットと別れようとした時、アシルが人魔混成団の幹部を引き連れて歩いてきた。


「ちょっど良かった。ジル殿、今から会議だ。参加してくれ」


「俺が?」


「ああ。長が参加しなくてどうする?」


「それもそうだな」


 俺は再び、会議室に入る。デフロットはエヴラールにお辞儀をして帰っていった。そのエヴラールは俺についてきた。

 俺達は席に座る。いつもの席だ。


「では始めよう」


 皆が席に着いたのを確認したアシルがそう言った。今回はアシルが仕切るみたいだ。


「ドニス、改めて今回の戦を説明してくれ」


「はい。敵は国王親衛隊の部隊長オクタヴァイアンが率いる騎兵一万、歩兵一万五千。騎兵一万は正面から打ち破り、歩兵一万五千はジル団長が魔法で打ち破りました。以上です」


 ドニスが言い終わるとアルフォンスが手を挙げていた。


「アルフォンス」


「はい。国王親衛隊は騎兵二万で構成されているのではなかったのですか?」


 ラミーヌが手を挙げた。


「それについては報告を受けております。歩兵一万五千は国王が集めた奴隷兵です。訓練の為に七千人の兵が籠るラポーニヤ魔砦を攻めた、と」


「それは確かか?」


 俺は思わず聞いてしまった。


「はい。ジル団長が捕らえたオクタヴァイアンを尋問したところ、そう申しておりました」


「そうか。続けてくれ」


「はい。当初、国王親衛隊は南と西、両方から同時に攻めることで落とせるだろう、と考えていましたが騎兵と歩兵では進軍速度が違いますので騎兵隊は歩兵隊を置いて先に進み、先に攻撃してきたようです」


「そんなことあるのか?」


「『奴隷だからどうせ死んでも構わない。新しく買えば良いだけだ』と考えていたようです。通常は歩兵の速度に合わせます」


「なるほどな」


 なぜか俺とラミーヌだけしか喋らない。

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