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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第527話

 翌日。俺はアキとエヴラール、リンを連れて屋敷を出て、騎士団に寄ってヴァロワ大司教を伴い、皇宮に来た。西方教会対策会議に出席するためである。

 この西方教会対策会議は、西方教会の残党に対する処遇を決めるだけでなく、似たような宗教集団が現れた際の対策など諸々を決める事となる。サヌスト帝国としては、ヴォクラー教会側と協調せねばならぬが、それは全面的に従うという事ではない。良い落としどころを見つけねばならぬのだ。


 待機室で待っていると、ローラン殿が訪ねてきた。ちなみに、ディミオスは法皇征伐に参加したが、その間アデレイドは俺が預かっていたため、アデレイドは法皇征伐には参加しておらぬ。ちょうど魔物討伐作戦に参加していた頃である。


「モレンクロード大将軍、良くぞ法皇を征伐なされた。さすが、お見事ですな」


「ヴァーグ将軍、何かご用ですか?」


「上官殿にご挨拶申し上げるのは部下として当然の事でしょう」


「左様ですか」


 ローラン殿は俺が上官である事に不満があるのか、あるいは仕官自体に不満があるのか、互いに武官として接する時は嫌味であるかのように過度な敬語を用いる。

 俺としては、ローラン殿に直接命令するのは気が引けるが、かといって指揮系統を乱すような事もできぬから、指示がある時は間にアルヴェーン将軍に入ってもらっているのだ。だが、アルヴェーン将軍は法皇征伐には参加しておらぬから、今回の西方教会対策会議には出席せぬのだ。


「ところで、奥方が領地に帰られたそうで、ついに離婚の危機ですかな?」


「そちらこそ、姪御が領地に帰ったそうで。絶縁状が送られてきたら、相談に乗りましょう」


「俺のレリアたんがそんな事をする訳ないだろ! ジル君こそ、我が次兄のためにも離婚するなら早く相談しろ」


「俺とレリアが離縁などするはずがありませぬ。面白くもない冗談は止めていただきたい」


 レリアと離婚などと、考えるだけでも恐ろしい事を、ローラン殿は無遠慮に何度も言った。会議の前であるから揉めるべきではないのだが、俺にも譲れぬ点はある。それを蔑ろにして、表面上だけの友好関係を築いたところで、軍務に影響がないともいえぬ。


「ヴァーグ将軍! ワタシは帝国騎士団高級副官だ。上官に対する無礼の発言、見逃せんぞ。軍事法廷にかけて死を命じてやる」


「フラウ金士、上官に対する無礼はおぬしだ」


「そんなつもりはない」


「俺にもそんなつもりはなかったさ。だがまあいい。ジル君、相談なら乗ってやるから、レリアたんを幸せにしてやれよ」


「…は」


 ローラン殿はそう言うと部下と合流してどこかに行った。要職について一年以上経ち、何か思うところがあるのかもしれぬな。


 その後、西方教会対策会議と書かれた部屋に通された。

 室内には、ジェローム卿やアシルなど軍令部の要職者、法皇マーレイ征伐に参加した近衛兵団の幹部などの武官、宮内省や農商省、文化省、宗教省の高級官僚などの文官、組織を率いておらぬ枢密院議官、ヴォクラー教中央教会の枢機卿に加え、他教派や異教の高位聖職者など、関係する各部門の要人数十名が、それぞれ副官や秘書官など従者を連れて集まっていた。


「サヌスト帝国皇帝エジット・フォン・ドーヴェルニュ陛下、ヴォクラー教教皇ジルデシア・シャンクロード猊下、ご入室です」


 出席者が集まった頃、宗教大臣タカム大司教がそう言うと、仰々しく開いた扉からエジット陛下と教皇ジルデシアが入室してきた。エジット陛下は枢密院議長のヴァーノン卿を、教皇ジルデシアは首席枢機卿オーリー大司教を、それぞれ伴っている。

 出席者は皆立ちあがり、それぞれの儀礼に従い、二人の指導者を迎えた。今回の会議に限らず、少なくともサヌスト帝国内においては、サヌスト皇帝とヴォクラー教教皇は同格であるとされており、二人が同席する場合はいずれかに対する儀礼を以て接すれば、もう一方に対する儀礼も果たされるものと解釈されるそうだ。


「席についてくれたまえ」


 エジット陛下がそう言い、教皇ジルデシアが頷くと、出席者は着席した。

 教皇ジルデシアが頷いたのは、聖職者はヴォクラー神に仕える身であり、サヌスト皇帝の臣ではないので、サヌスト皇帝たるエジット陛下は要請しかできず、それに従うには神の代理人たる教皇による承認を経ねばならぬためである。帝国と教会、双方に記録の残る公式の会議であるから、その辺りを厳密にしているのだろう。


 タカム大司教による挨拶が一通り終わると、法皇マーレイ征伐を指揮した聖堂騎士団長デトレフ・ド・エルター大司教から報告があった。

 俺は教会では宗教騎士団総帥として聖堂騎士団長を指揮監督する立場にあり本来ならば俺が報告すべきだが、そもそも宗教騎士団総帥などという役職は俺のために歴史から強引に引っ張った名誉職であるため、大した報告もできぬ。


 エルター大司教の報告が終わると、今度は法皇マッコーコデール征伐を指揮した俺が、帝国騎士団長として報告する事となった。

 事前にエヴラールが報告書を作り、それをラヴィニアが覚えているため、俺の役目は前に出てラヴィニアに体を預けるだけである。


 俺の報告が終わると、情報本部長であるアシルから、マッコーコデールに従わなかった西方教会信者について報告した。ちなみに、情報本部は正式名称をサヌスト帝国軍情報本部といい、軍令部所属であるのに軍令部を冠さぬ。これは軍令部に属する他の部も同様であるが、州兵局など局は軍令部を冠する。


 マッコーコデールに従わなかった西方教会信者についてであるが、総数は二万三千を少し下回る程度である。これが、サヌスト帝国内外の各地に概ね三百名未満の小さな集団を形成し、周囲に気を遣いながら生きているそうだ。

 好戦的な西方教会信者はマーレイやマッコーコデールに従い、そのほとんどが討たれたため、残っている信者は穏健な者が多い。だが、あくまで過激といわれる西方教会内での穏健派であるため、きっかけさえあれば再び戦となる可能性もある。その場合、今までの二度の征伐と異なり、各地に点在する信者が、それぞれの地域に対して攻撃を仕掛ける可能性があり、一度に纏めて討伐する事が困難となる。


「さて、西方教会に対する処分について、案がある者は遠慮なく申し出よ」


 アシルの報告が終わると、エジット陛下は全体に対してそう呼びかけた。すると、間を置かず教皇ジルデシアが手を挙げた。予定になかった行動のようで、聖職者が響めいた。


「我々中央教会が西方教会を吸収し、その教義、思想をこの世から一掃します。間違った信仰は、正しい信仰の邪魔になるだけです」


「教皇猊下、お申し出はありがたいですが、サヌスト帝国では信教の自由を認めております。害悪が生じ得るという理由だけでは、弾圧いたしかねます」


「あくまで提案です。より良き案があればそちらを採用なさいませ」


「そうさせていただこう」


 教皇ジルデシアの提案は、議論するまでもなくエジット陛下に否定された。


 サヌスト帝国では、ノヴァークレクス大公の提言もあり、信教の自由をサヌスト皇帝が保障している。

 法皇マーレイのようにヴォクラー神のお告げがあったり、マッコーコデールのような軍事行動を起こしたり、宗教以外での理由がない限り、サヌスト帝国の民としての権利を失うことはなく、サヌスト皇帝の保護を受けられるのである。であるのに、特定の宗教の信者であるを理由に、サヌスト皇帝がこれを迫害しては、その名に大きな傷をつける事となる。

 ちなみに、ヴォクラー神のお告げの法的な位置付けは、サヌスト帝国の最高法規として扱われ、信教の自由より優先される。


 その後、十を越える提案がなされたが、それぞれに利点と欠点があったため、出席者それぞれが持ち帰って協議し、最終的な決定は数日後に持ち越される事となった。

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