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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第526話

 ヴェンダール夫人の説明が終わると、ミルデンバーガーが説明を始めた。ミルデンバーガーは魔物討伐庁の設置について、進捗を報告した。


 魔物討伐庁は部門ごとに責任者を置き、それぞれの部門の指揮を執らせる。現状、設置が予定されているのは討伐部門、調査部門、管理部門、装備部門、支援部門である。

 討伐部門は魔物の討伐を担当する、魔物討伐庁の基幹となる部門である。魔物討伐庁が認定する魔物討伐者、正式名称を冒険者と定めたが、これを実際に指揮し、魔物による脅威の排除を行う。

 調査部門は魔物を調査し、討伐に役立てる部門である。魔物の調査とは、生態の調査は当然として、その脅威度や討伐優先度などを調査し、魔物の討伐をより効率的なものとする。騎士団魔物調査局が母体となる。

 管理部門は冒険者の管理を行う部門である。冒険者には戦力や戦果などに応じて階級が付与されるが、その昇格や降格に役立てるため、試験を実施したり、これまでの戦果を記録したり、冒険者の人事的な管理を行う、いわゆる役所的な部門である。

 装備部門は魔物から得られた素材を利用し、対魔物専用の武器などを製造する部門である。魔物の死骸は、魔力を多く含んでおり、適切な加工を施せば対魔物戦における強力な武器となる。その製造のため、魔物の死骸の解体、評価などを行い、冒険者に支払われる報酬の一部を負担する。

 支援部門は冒険者の支援のための部門である。魔物討伐庁設置会議の想定では、冒険者の多くは解放奴隷が占める事になる。そうでなくとも、魔物討伐庁が儀範とする魔王時代の冒険者ギルドが管理していた冒険者の多くは、故郷を旅立ち定住せぬ者が大半であった。そこで、冒険者の生活面に関する支援、具体的には冒険者向けの宿屋の運営、移動手段の確保などの各種の支援を実施する予定であるが、その詳細は決まっておらぬようだ。


 魔物討伐の技術に関してであるが、ミルデンバーガーを筆頭とするダークエルフの未亡人らが、騎士団の武官にその概要を伝え、騎士団の武官がそれを形にした上、魔物討伐庁に教官として出向する方向で調整しているようだ。

 ダークエルフを含む魔族は、基本的に男が戦闘全般を担当する。これは魔王ジャビラの影響である。それゆえ、未亡人らは自らの父や夫、息子が習得した技術を、自らは習得しておらず、何となくでしか伝えられぬそうだ。だが、例え何となくであっても完成形が分かっているのであれば、最初から技術を蓄積するより早く実戦投入が可能となろう。


 ミルデンバーガーは自らの報告が終わると、ヴェンダール夫人と執務室を出ていった。もう既に入眠すべき頃合いであるから、当然であろう。

 残ったリンは、持っていた資料を机の上に投げ置き、これまで二人が座っていたソファーに勢い良く座り、腕を組んで俺を睨んだ。


「ロード様、本来ならこういう態度で文句を言いたいですが、失礼なので態度だけ示します」


「…すまぬな」


「いえ、気が済みました。気を取り直しましょう」


 リンはそう言うと立ち上がり、何事もなかったかのように投げ置いた資料を手に取り、ソファーに座り直した。相当荒んでいるな。周囲のためにも休暇を与えて機嫌を取るか。


「私からはいっぱいあります。朝までお付き合い願いますよ」


「俺は構わぬ。始めてくれ」


「はい。それでは報告します」


 リンはそう言い、報告を始めた。


 まずは騎士団の各部局から提出された報告書の概要である。大半の部局は、リンによれば概ね異常無しとの事で、リンの勧めもあり聞き流した。


 注目すべきは総務局から提出された、騎士団病院についての報告書である。病院長から、民間の医者を従軍せぬ軍医として雇い、人員の補充をして欲しいとの事である。これは、民間の患者が多くいる時に、騎士団実戦部隊に帯同して軍医が出陣すると、残された患者が死んでしまうためとの事で、許可しておいた。

 そもそも騎士団病院は、軍医や看護兵の技術向上を目的に設置された機関であり、病人を救済する機関ではない。とはいえ、一度担当した患者を見捨てるのは医者としての矜持が許さず、そのうえ兵員の補充を志願に頼る騎士団にとって騎士団病院の悪評は組織存続に関わるので、軍医の出陣後も残留して患者を診る医者が必要となる。

 それに、軍医の出陣後も騎士団病院に医者が常駐するのは、騎士団にとっても利点がある。長距離の搬送に耐えられる者に限られるが、後送した負傷兵の治療を騎士団病院で行えば、戦場で限りある医療資源の有効活用が可能となる。


 騎士団病院に関して人事局長から一点、騎士団病院での軍医育成について提言があった。自ら志願する騎士団武官に対し、騎士団病院で医術に関する教育を施し、軍医を増員すべきとの事である。

 これに対し軍医部からは、確かな技術を持った者のみが軍医を名乗れるよう、少なくとも騎士団内で共通する軍医資格を制定するよう求められた。

 俺は軍医職には、既に軍医を名乗っている者を任じてきたが、確かにその能力は保証されておらぬ。俺自身が軍医による治療を受けた事がないので分からぬが、拙い医術によって助かるはずの兵士が落命するのは、上官として見逃せぬ。

 俺は軍医部に対し、軍医資格の制定と看護兵に対する定期的な医術訓練を命じる事にした。いずれは回復魔法使いも軍医資格を得られるよう制度を整えねばならぬが、今は兵士の命を任せられる程の回復魔法使いはおらぬ。


 枢密院での会議には、コボン将監が代理出席してくれたようで、その報告も受けた。

 色々と報告があったが、騎士団に関係するものは一点のみである。新都における騎士団の庁舎や兵舎などの施設の規模や所在地などを決め、建設に関する手配をするよう求められたそうだ。

 既に宮殿や宮城、都市の管理施設など重要な機関は新都内に建設予定地を決めており、それらを繋げるように街路なども決まり始めているそうだ。


 魔法技術庁設置会議から、いくつか質問が来ていたそうであるから、返答を認めた。

 今まで空想上の存在とされていた魔法であるが、それでも魔法に関する用語はいくつかある。例えば、魔術や魔力などがその筆頭に挙げられるだろう。それぞれの定義を、魔法技術庁として法的に定めるそうだ。


 説明が終わると、リンは置いてあった茶を飲み、俺を見た。


「リン、おぬしにとって良い話とそうでない話がある。どちらから聞きたい?」


「そうじゃない話からお願いします」


「そうか。ではリンよ、モレンク血閥の臣として、その家政に貢献せよ。むろん、報酬は充分に払おう。何が欲しい?」


「決定事項ですか?」


「断ってくれても構わぬが…断るつもりか?」


「いえ、お引き受けします。その上で、報酬をしっかり貰います」


「そうか。では領主府に長官直属の適当な職を置き、それに任ずる。その上で、第一の任務だ。近いうちに領主府から報せが届く。それを纏めてくれ」


「はい、承知しました」


 リンにとってはこれまで以上に多忙になりそうな話だが、引き受けてくれて助かった。とりあえず、レリアと接見した者の一覧を纏めてもらえば、しばらく頼む事はないだろう。だが、騎士団に関しない事も頼めるとなると、俺も気が楽になるので、それだけでもありがたい。


「それじゃあ報酬の話を」


「ああ。何が欲しい?」


「まずはお給金を…年に百オールください」


「いや、百二十オールにしよう。一か月十オールで分かりやすかろう?」


「ありがとうございます。それで次ですが、モレンク血閥の手厚い保護を。私が困った時に助けてください」


「具体的には?」


「お金に困ったらお金を貸してください。危険な地域に行く時は護衛を付けてください」


「なるほど。だが、それは今まででも言えば助けてやったぞ。次は?」


「はい、最後です。領地をください。フォルミード村を、モレンク血閥領内に再興します」


「それは否だ」


「…やっぱり無理ですか」


「俺に忠義を尽くすフォルミードの村人は、おぬしだけではないのだ。それゆえ、その者らに対して報いるため、既にフォルミード村再興計画は動き始めている。フォルミード村は二つもいらぬだろう?」


「…! ありがとうございます! ですが、あの、男手は…」


「希望者を募り、領主府が選抜した者のうちから、おぬしの義姉らが選んでいる」


「ありがとうございます!」


 リンは嬉しそうにそう言い、上を見ながら考え事を始めた。俺としても領内に農地が増えれば、その分税収が増えるのだ。リンやフォルミード村の者だけに益がある話ではない。


「それはそうと、リン。おぬしにとって良い話をしよう」


「え、フォルミード村の再興じゃないんですか?」


「ああ。おぬし、休暇を取っておらぬな?」


「ロード様がいない間に問題があったらいけませんし、ロード様がいるならお手伝いをしなくちゃいけませんから」


「そうか。では、休暇の手筈を整えたら、しばらく騎士団を休んで良いぞ」


「…あの、騎士団から追い出そうとしてますか? 悪い所があったら直しますから…」


「悪い所はあるが、追い出さぬ。俺が困るではないか」


「悪い所って…?」


「忙しいと機嫌が悪くなる所だ。それゆえ、俺が呼び出すまで騎士団は休んで良いぞ。フォルミード村再興計画を手伝っても良いし、観光旅行をしても良いし、恋をしても良いぞ」


「分かり…ました。ロード様を信じて、休暇を取ります」


「ああ、そうせよ」


 これでしばらくはリンの機嫌も良かろう。それに騎士団の秘書課が、リン個人に頼らず組織として確実に運用されているのか確認もできる。秘書課までもがリンに頼っていたら、コボン将監に言って組織を改めさせねばならぬな。


「このご恩は一生かけても、いえ、何度生まれ変わってでも返します」


「俺がおぬしらに受けた恩を返しただけだ。現状、恩の貸借はないはずだ」


「それでも、です」


「そうか。では期待していよう」


「はい!」


 リンは嬉しそうにそう頷いた。

 打算的な事をいえば、これでリンが俺以外を主君とする可能性は限りなく低くなったはずだ。既に俺が抱える軍務や政務は、リンがおらねばどうにもならぬ程の量と質であるから、帝国のためにも俺のためにも、リンには俺に尽くしてもらわねば困るのだ。

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