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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第522話

 今回、俺は騎士団神官長ヴァロワ大司教に言って、行軍途中の休憩ごとに各部隊を巡り、参戦する全将兵に伝わるよう演説してもらった。西方教会法皇征伐は神が信徒に望んだ事であり、これに参加すれば魂が救われ、たとえ死んだとしても、天上においては永遠の救済が与えられ、地上においては殉教者として崇敬されるだろう、と。

 少数ながら属する異教徒には響かなかったようだが、そうでない大多数の者には大変な効果があり、これまでにないほど士気が高いと諸将から報告を受けた。聖戦であると断言こそしておらぬものの、そう捉えられても誤解ではない。


 今回の作戦であるが、これは単純なものである。

 まず、東と西から歩兵二万ずつ、南から騎兵三万が同時に攻撃を仕掛ける。この際、それぞれの背後に歩兵二万ずつを配置し、討ち漏らしを防ぐ。部隊配置としては、東をイヴェール隊、西をエテ隊、南をジャッド隊、アンブル隊、カフ隊が担当し、南から攻め入る隊の背後にはイヴェール隊とエテ隊から一万ずつ抽出して配置した。

 北に逃げるであろう西方教会軍は、コルネイユ隊が受け流し、複数に分散させる。これはポッカー将軍の腕次第だが、なるべく細かく分散させたい。

 コルネイユ隊の背後に控えるテール隊が、分散した西方教会軍を各個撃破する。さらにその背後にはラメール隊が控えており、テール隊の討ち漏らしを討つ。

 俺とアーウィン将軍、デュポール参謀長の配置であるが、俺は最初に攻撃する部隊とその背後に控える部隊全体を統制しつつ南から攻める隊を直率し、アーウィン将軍はコルネイユ隊とテール隊、ラメール隊で構成される北に控える隊を指揮し、デュポール参謀長は俺の指揮下で南から攻め入る隊の背後に控える隊を担当する。

 俺が率いる歩兵十万と騎兵三万を第一軍、そのうち直率する騎兵三万を第一軍第一隊と便宜上称する。東から攻める隊を第二隊、西から攻める隊を第三隊、第一隊後方の隊を第四隊、第二隊後方の隊を第五隊、第三隊後方の隊を第六隊と称する。これに対し、アーウィン将軍の隊は第二軍と称する。


 四月十五日。我が軍は西方教会が不当に占拠する一帯を完全に包囲した。

 包囲網の内側にある村々に対しては、後日の補償を約束した上で村民を保護し、我が軍の後方に移した。これにより、包囲網の内側には西方教会信者とその協力者しかおらぬはずである。

 今回の作戦では、サヌスト帝国と中央教会に従わぬ西方教会信者を生かしておく必要がない上、情報部の調査により捕らわれている者がおらぬ事が分かっているので、手加減は一切不要である。つまり、言外に皆殺しを命ぜられているようなものである。


 俺は第一軍第一隊中央に配置したカフ隊の先頭に立ち、敵である西方教会軍を見た。西方教会軍もヤファイの報告を受けてか、我が軍を迎え撃つ用意を整えつつあるようだ。


「こんな会戦は久しぶりだな」


「ああ。魔物やら魔法やらに気を遣う必要がないのはありがたい」


「そうじゃない。両軍合わせて四十万弱が、一か所でぶつかる。興奮するな」


 部隊の出撃用意が整うのを待つ間、隣に並ぶアキはそう言い、刀身に映る自分の顔を見て笑みを浮かべた。

 直前の報告では、聖教会済世軍を自称する西方教会軍は非戦闘員を含めて十万を少し超える程度であるそうだ。戦闘員か否かの判断は武装の有無によって下されるが、全ての構成員が高い信仰心から生じる戦意を有し、さらに一部で怪しげな薬物が流行り、死を恐れぬ集団となっていると、情報部長メイクス金士から報告を受けた。


「閣下、全軍の突撃用意が整いました。いつでもどうぞ」


「承知した」


 ラフィット副将軍は自らそう報告すると、一礼して俺の数十メルタ後方に下がった。

 俺は抜剣し、これを掲げた。それを見て旗手として伴う本陣付きの騎士らが、帝国軍旗、騎士団旗、帝国旗、ヴォクラー教神旗を掲げた。


「ヴォクラー教聖教会法皇を自称し、我ら正統なるヴォクラー教徒に対する不当な攻撃を繰り返す、クラレンス・グラハム・マッコーコデールとその軍隊を征伐し、正統にして真なる神威を再び地上に齎すは、神の戦士たる我らの責務である! 背教者どもを殲滅し、我らの信仰を証明せよ! 突撃だ、突撃せよ!」


 俺はそう叫び、ヌーヴェルを棹立てて剣を振り下ろし、西方教会軍を目掛けて駆け出した。第一軍第一隊は西方教会軍に向けて突撃し、それに呼応して第二隊、第三隊も突撃を開始した。


 対する西方教会軍は、第一隊三万騎の突撃を止めるためか、比較的重武装の歩兵を南側に配置し、東西には軽武装の歩兵を置き、中心部から北側にかけて騎兵隊を配置している。

 西方教会軍の騎馬兵が乗る馬の大半は、周辺の農村や通りかかった隊商などから略奪した、農耕馬や輓馬であり、軍馬としての調教をしておらぬ上、乗用馬ですらない。それゆえ、兵士は騎兵としての能力を完全には発揮できぬはずである。それどころか、馬の制御ができずに勝手に壊滅する可能性すらあるのだ。


 俺は西方教会軍重装歩兵隊の隊列に切り込み、ヌーヴェルはその蹄で西方教会軍兵士を踏み荒らした。傍らのアキは、先ほどまで見つめていた刀を鞘に納め、副官部の部下に持たせていた薙刀で戦っている。


「突撃を止めるでないぞ!」


 俺は近くの西方教会軍兵士の頭をかち割りながらそう叫んだ。第一隊は西方教会軍を追いやるのが任務であり、殲滅を目的とはしておらぬのだ。それに、第四隊にも戦果を挙げさせてやりたい。


 西方教会軍は想定外の抵抗を見せ、なかなかアーウィン将軍の第二軍の方に逃げていかぬ。このままでは遊兵が予定の倍以上となってしまうな。

 まあ第一軍だけで、西方教会軍の全兵力を上回る戦力を有するので、西方教会軍が逃げぬなら我が第一軍だけで殲滅してしまっても良いかもしれぬな。


「バンシロン銀士、デュポール副将軍に言って、後方戦力を前進させよ」


「よろしいのですか?」


「ああ。だが、包囲網に穴が開かぬよう注意させよ」


「御意。伝令を出します」


 エヴラールはそう言うと、本陣付きの騎士を数名集めて指示を出し始めた。ちなみに、今回は軍令部との連絡手段として運用するため、指令伝達部は法皇征伐に参加しておらぬ。

 重装歩兵隊の一帯を抜け、西方教会軍の本陣らしき場所に来た。


「クラレンス・グラハム・マッコーコデールの首を差し出せ!」


 俺はそう言いながら西方教会軍本陣を荒らし、信者を見つけ次第斬り殺した。高位の聖職者は武装しておらず、命乞いをする者もいたが、だからといって助けてやる義理はないのだ。

 本陣を荒らしまわったが、クラレンス・グラハム・マッコーコデールの姿はなかった。


「団長様、法皇の居場所が分かった。あっちで騎馬隊と一緒にいるらしい」


「誰に聞いた?」


「その辺の()()()だ。見逃してやる代わりに居場所を聞いた」


 返り血を拭い、北を指したアキは、リンに毒されつつある言葉でそう報告した。大人のアキですら影響を受けるのであるから、幼い我が子らにはリンは会わせられぬな。まあ今考えることでもない。


「…殲滅を命じたはずだ」


「ワタシは見逃してやった。だがまあ、ワタシは誰にも命令できんからな。誰かが殺してるだろ」


「そうか。では我らはマッコーコデールの首を求めて北進しよう」


「だな。他の隊の奴らと合流できるかもしれんな」


 アキはそう言い、西の方を見た。第三隊、つまりエテ隊隷下のラヴァンド隊かオルタンシア隊に友でもいるのかもしれぬな。

 第二隊や第三隊も、それぞれ歩兵の速度で突撃し、遠目でも確認できるほどの戦果を挙げているように思える。それぞれグローブス将軍とファラー将軍が直率しているので、当然と言えば当然である。


 アーウィン将軍と第二軍には悪いが、このまま第一軍のみで西方教会軍の殲滅と法皇マッコーコデールの征伐を成し遂げてしまうかもしれぬな。

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