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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第517話

 騎士団本部庁舎でリンと合流した俺は、ミルデンバーガーを交えて最後の打ち合わせをして三人で枢密院に向かった。ちなみに、ケールスティン・ミルデンバーガーは夫の名を家名にしているようで、それゆえに俺はケールスティンと呼んでいたが、家名制がサヌストより早く導入されたクィーズス出身のリンによれば、由来が何であっても家名で呼ぶか個人名で呼ぶかは、関係性に依るそうだ。それゆえ、夫の名であると承知した上で、俺は家名で呼ぶ事にしたのだ。

 枢密院庁舎に着き、執務室内で寛いでいると、ジェローム卿が州兵局長スーラ上級副将軍を伴って来た。


「大将軍、時間もないし、さっそく魔物討伐について聞かせてもらおう。まず、魔物は永続的に現れるのか、今いる魔物を掃滅すれば二度と現れないのか、いずれかによって我々の採るべき策も変わる」


 ジェローム卿はそう言いながら応対用のソファーに座った。労いの言葉を多少は貰えるかと思っていたが、それを惜しむほど時間がないのか。


「結論から言えば、掃滅すれば二度と現れぬが、掃滅はほぼ不可能だ。単なる害獣でさえ未だ存在するのに、それより遥かに強力な魔物を掃滅はできまい」


「確かに獣害は農民にとって永遠の悩みだ。それは分かった。次だ。これまで魔物討伐は魔王軍残党が密かにやっていたが、アルフレッド魔将王(マージ・モナルク)による召集を受け、魔王軍残党が撤収、魔王軍残党によって抑えられていた魔物が溢れ出ているとの認識だが、これを我が軍が引き継ぐとして、どの程度の戦力がそちらに割かれる?」


「それは当事者から聞いた方が…ミルデンバーガー、どうだ?」


 俺はそう言い、ミルデンバーガーを振り向いた。ミルデンバーガーの怪我は、潰された目や切り落とされた指など二度と戻らぬ箇所を除けば全快しているので、多少の応対ならば可能である。


「サヌスト帝国軍将兵の練度、サヌスト帝国領の地理、各地の特産種など、詳細な情報がなければ確かな事は申し上げられません。ですが、ツィー隊を平均的なサヌスト兵と考え、さらに我々の担当区域から面積のみ考慮し、特産種はいないものとすれば、五十万から百万程度でしょうか。ですが、ツィー隊が帝国軍屈指の精鋭部隊なら、その数倍は必要かと」


「だそうだ、元帥。あまり言うべきでないかもしれぬが、ツィー隊は特に精鋭部隊という訳ではない」


「なるほど。大将軍、念のために言っておくが、ギルド庁にそれほどの兵力は出せんぞ。対策はあるのか?」


「ある。ギルド庁では魔物の情報収集、討伐者の管理や支援など事務作業のみを行い、討伐は外部に委託する」


「討伐者、いや、確か以前は冒険者と言っていたな。五十万もの成り手はいるのか?」


「正直に言えば分からぬ。だが、サヌスト帝国には五十の州がある。スーラ副将軍、足らぬ分は州兵で補えぬか?」


「各州で最大二万ですか。それ未満の、人口が少ない州などもありますし、不可能な州もあるでしょう。それに、州によって面積なども違いますし、魔物も生き物である以上は生息地域に多少の偏りはあるでしょうし、詳しく調べてみない事には何とも申し上げられません」


「そうか」


「大将軍、ギルド庁は軍務省の外局として設置する想定だが、そうなると分類上は文官組織となり、枢密院の統制下に入る。我々で強引に推し進める事も不可能ではないが、今後のためにも文官との協力は得られた方がいい。もしかしたら人員を融通してくれるかもしれない。だから、とりあえず人員については置いておこう」


「なるほど。元帥の言う通りだ」


 ジェローム卿はそう言い、とりあえず話を終わった。

 ちなみに、軍務省は省と名付けられている通り、文官組織であり、それゆえに枢密院の統制を受ける。だが、軍務省は軍令部の一機関であり、枢密院から独立している軍令部の指示によって軍政を掌る。この辺りの指揮系統は複雑かつ面倒な事になっており、その解消のために軍令部総長が枢密院副議長を兼任しているのだが、とはいえ副議長であるからには議長の決定は覆せず、対立があれば面倒の一言では言い表せぬほど大変な事になるだろう。そもそも、俺は現状すら正しく理解できておらぬだろう。


 その後、戦力的な部分を少々話し、ジェローム卿とスーラ副将軍は帰っていった。


 しばらくして書記官が迎えに来たので、議場に来た。

 今回の枢密院は、今年度の予算配分を決めるものであり、ある意味では枢密院議官は互いが競争者であり、大臣らはいつもに比べたら険悪な雰囲気である。ちなみに、最初に軍事費とそれ以外とで分け、枢密院閉院後に軍部予算会議によって各戦略単位が分け合うため、武官たる枢密院議官は普段通りである。


「皇帝陛下のご入来です」


 ガロー書記官長がそう言うと、ヴァーノン卿とジェローム卿を伴ったエジット陛下が入室してきた。

 俺を含めた枢密院議官とその随行者は自席で立ち上がり、陛下を出迎えた。


「掛けてくれたまえ」


 エジット陛下がそう言うと全員が着席し、ガロー書記官長が開院の挨拶を代読し、枢密院が始まった。


 ホワイティング財務大臣による徴税や税収などの説明があったが、専門用語などが多くあまり理解できなかった。

 リンの要約によれば、帝国暦一年、つまり昨年の税収は約二十六億オールであったそうだ。これは金貨に換算すれば二億六千万枚となる。これはあくまで現金で納められた合計であり、財務省の規定に従えば農作物や宝石、金銀など土地の特産品を納めても良いので、それらを現金化すれば倍程度にはなるそうだ。

 これは余談であるが、今年中は免税されているモレンク領が納税していた場合、三州合わせて二・五億オール程度にはなったそうだ。最も多いのはハイリガー州の約一・三億オールであり、もし納税していれば納税額は五十州のうち一位である。


 税収は全て国家予算として使われるので、今年度の予算は二十六億オールである。これは別に国庫を完全に空にするのではなく、財務省の予算に予備費が含まれているので、その分は残る。

 ホワイティング財務大臣は軍部と各省、枢密院事務局から提出された予算要求を説明した。

 軍部としては、アレストリュプ動乱による損害の補充、魔物討伐作戦や国土平定令など、何かと入用でるので、その点を主に主張していた。さらに、魔法など新技術の開発などのための予算も要求していたようだ。

 他の省では、内務省はウェネーヌム州の復興のため、国務省は解放奴隷のその後の対応のため、等々様々な理由をつけて僅かでも多く配分してもらおうという魂胆が丸見えである。


 ホワイティング財務大臣の説明が終わると、一度昼食休憩となり、議場を後にした。

 執務室に戻ると、昼食が用意されていたが、書記官が執務室から出ていこうとせず、何となく急かされたので、俺達は急いで食べ終え、議場に戻った。すると、他の議官も同様であったのか、すでに半数以上が戻ってきていた。


 議官が全員戻ってしばらくすると、エジット陛下が近衛兵を連れて戻ってきた。近衛兵は、議官とその随行者の人数と同じである事から察するに、乱闘にでもなった場合に備えているのだろう。


 結局、議論は深夜まで続いたが、近衛兵の出番はなく少なくとも表面上は平和的に解決した。

 軍部は国家予算全体の四割弱に相当する十億オールが割り振られた。ここからさらに、省部、騎士団、第一防衛軍、第二防衛軍、第三防衛軍、諸種兵団、近衛兵団、序数船団、防衛船団、帝都防衛隊で分けねばならぬ。戦略単位が十であるからといって、単純に一億オールずつ分ける訳にはいかぬから、また大変そうである。

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