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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第509話

 シンラシオン軍のレーグル将軍は、サヌスト帝国とシンラシオンの国境となっているフルフィウス川の派川フルーメン川に唯一架かるプリームス橋の中央で、槍騎兵二騎を伴い、自身も白馬に騎乗して待っていた。


「閣下、お待ちしておりました」


「ああ。レーグル将軍とやらは何と?」


「オークの発生源と思しき洞穴への突入を、シンラシオン軍将校の帯同、そして閣下との面会を条件に許可すると、そう言っております」


「そうか。では会おう」


「お供します」


「ああ。フラウ金士も同行せよ」


 橋の袂で待つロール銀士から話を聞いた俺はそう言い、アキとロール銀士を伴ってプリームス橋を進み始めた。レーグル将軍も二人の供を連れているし、俺もそれに倣うべきだろう。

 橋の中央まで来ると、レーグル将軍と思しき男は手綱から手を放して腕を組んだ。


「レーグル将軍か」


「いかにも。私が小国家同盟シンマヒア・フェデラシオン南方合同軍特務戦隊副司令官ハビエル・レーグルだ。貴殿は?」


「サヌスト帝国軍帝国騎士団長ヴィルジール・デシャン・トラヴィス・プリュンダラー・エクエス・フォン・モレンク=ロード大将軍だ」


 サヌスト語で話しかけると、レーグル将軍もサヌスト語で返答した。

 シンラシオンは複数の国や民族の連合体であるから、その構成員の母語は十を優に超えると聞く。それゆえ、魔王語をシンラシオン公用語として定め、さらにある程度の身分になれば、必要に応じて近隣国の公用語も習得するそうだ。


「それで、何用か」


「我らが小国家同盟シンマヒア・フェデラシオン領内に発生した新生物の巣窟に対し、貴軍が攻撃を仕掛ける許可を、私が発行する」


「許可? 討伐要請の間違いでは?」


「私のサヌスト語が拙いのでしょうか。貴軍からの要請に応じたまでですが、なぜ我々が貴軍に討伐要請を出さなければ?」


「ヴェンダース軍如きに手古摺る貴殿らであるからこそ、俺はそう思ったのだが」


「…よろしい。そこまで言うなら貴軍に任せよう。私自ら、貴軍の実力を確かめる」


「そうか」


 どうやら、総大将のレーグル将軍自ら、我が軍に帯同し、我が軍の様子を見るようだ。ある種の人質であるのに、なかなかの自信があるようだ。


「ではロール銀士、全部隊に対して攻撃用意を命じよ」


「御意」


「おい、待て! こちらにも受け入れの限度がある。三十騎まで減らせ」


「…ロール銀士、バンシロン銀士に言って巡察隊を中心に討伐隊を編成させよ。ただし、おぬしは部隊の統制のため、討伐隊に参加するでないぞ」


「御意」


 俺としては全部隊千名で挑むつもりであったが、レーグル将軍の指示に従ってやるために三十騎のみで挑むことになった。巡察隊で半数以上が埋まるはずであるから、現地部隊の士官なり下士官なりを十名程度連れていくことになるだろう。


 しばらくレーグル将軍らと睨み合いながら待っていると、エヴラールを先頭に討伐隊と思しき三十騎弱が橋を渡り始めた。討伐隊には、当然ながら俺とアキも参加するので、今は三十騎揃っている必要はない。


「さて、レーグル将軍よ。我らを案内してもらおうか」


「うむ。橋を渡って半メルタルほど行った所にある。言っておくが、私の指示に従わない場合、貴殿らは異国の地で屍を晒す事になる」


「そうか。おぬしこそ気をつけよ。我らもおぬし程度なら道連れにできる」


「ふん。祖国のため、この命を捧げる覚悟はとうにできている」


 レーグル将軍とは、どうやら友好関係は結べそうにないので、妙な事をせぬようエヴラールに見張っていてもらおう。

 レーグル将軍の案内に従い、シンラシオン兵の多くいるシンラシオン領内をしばらく進んだが、装備を見る限りでは、シンラシオン軍が暴走しても討伐隊の生還程度は叶うだろう。


 今回、討伐隊にはマフムード金士と宮廷魔術師二人を除く巡察隊十七名、現地の防衛軍から銅士が一名、下士官が十二名参加する。だが、あくまで防衛軍から借りた兵力は、戦闘に参加させず、巡察隊十七名の戦力が中心となって戦うことになる。あくまで、俺達の目的は現地部隊に対する教導であり、その手に負えぬ敵の排除である。防衛軍の十二名には討伐法の習得に加え、退路の確保を命じる事になっている。

 レーグル将軍の対応と監視は、既にエヴラールに一任してあるので、これ以上俺と揉めることはなかろう。


 レーグル将軍の案内で、オークの巣窟と思しき洞穴に着いた俺達は、下馬しつつ装備や陣形などの最終確認をし、近くに馬を繋いで洞穴に入った。ヌーヴェルもいるし、シンラシオン兵も見ているので、馬に逃げられる心配はない。

 俺とアキ、アデレイドを中心に、巡察隊が先に、防衛軍の十二名が後に続く。レーグル将軍はエヴラールと共に俺のすぐ後ろにいる。


 洞穴内は、見た事もないような光源があり、満月の夜程度の明るさはある。この光源は魔力によって青白く発光しているようで、苔のような見た目をしている。シンラシオンの土地性によるものなのか、オークが持ち込んだ物なのか、どういう物か知らぬが、これを調べれば我が軍にも利がありそうである。


 曲がりくねってはいるが一本道の洞穴内を、角度的には地下に向けてしばらく進んでいくと、食べ残しと思しき骨や皮などの山の傍らに見張りらしき二体のオークがいた。見張りのオークは、その奥にある広場のような空間の出入り口に立っており、奥の空間には数十のオークの気配を感じる。

 先頭を進むチア銀士とシム銅士が、無言のうちに会話し、同時に飛び出して二体の首を同時に刎ねた。さすがの連携である。


「閣下、数では我が方が圧倒的に劣ります。突入しますか?」


「ああ。俺とフラウ金士が魔法を撃つ。その後、二人一組を基本にオークを討伐せよ。ただし、人質がいた場合、その保護を優先せよ」


 俺はシム銅士にそう答え、アキとアデレイドを連れて前に出た。

 アキと目配せし、二人で雷魔法を放った。これはオークの殺傷を狙ったものではなく、オークの混乱を狙ったものである。それゆえ、仮に人質がいたとしても、人質も驚くだけであり、シンラシオン側と問題になったりはせぬ。


「突入せよ!」


 俺がそう言うと、前に出ていた俺達を先頭に奥の空間に突入した。少々想定と異なるが、まあ良い。

 俺はアキ達からなるべく離れぬよう気を付けつつ、オークに駆け寄って剣を叩きつけた。オークであるが、どこを切っても太った人間の腹を切ったような感覚である。俺でなくとも両手で剣を振るえば、頭蓋骨なども粉砕できそうである。


 俺がオークの頭領らしき個体を殺すと、オークの組織的な抵抗は止まり、それぞれが各個撃破した。武器を棄て命乞いをする個体もいたが、後日の禍根となってはならぬので、全て殺させた。

 人質らしき者はおらず、問題になりそうにはなかった。まあ面倒事を避けられたので良い。


「レーグル将軍、我らが倒したオークの死体は我々が処理する。それでよろしいな?」


「え、ええ」


「そのための輸送隊を越境させるが、それもよろしいな?」


「非武装ならば、許可する」


「承知した。ではオンドラーク、ロール銀士に言って輸送隊を派遣させよ」


「御意」


 オンドラークはそう返すと、出口に向けて駆けていった。

 俺は死体を集める将兵に隠れ、光る苔を集めた。どういうものか知らぬが、レーグル将軍に問うてシンラシオン側が所有権を主張してからでは、採取に対する監視も強まるだろうし、採ってから聞いた方が良い。


「レーグル将軍、この光る苔は何だ?」


「魔物由来のものでは? 少なくとも、私は初めて見た」


「そうか。では採取し研究させてもらうが、よろしいな?」


「うむ。勝手にするがいい」


 シンラシオン側も存在を確認している訳ではなさそうであるし、その上で許可も貰ったし、堂々と大量に採取させてもらおう。シンラシオン側に研究されたら厄介であるし、全て採取しよう。


「バンシロン銀士、この光る苔も回収させよ。オークと一緒に帝都に送り、共に調べさせよ」


「承知しました。どの程度あれば研究できましょうか」


「なるべく多くだな。許可も貰ってある」


「それでは全て回収し、帝都に送ります」


「ああ、そうせよ」


 レーグル将軍に付きっきりのエヴラールに、敢えてそう命じた。レーグル将軍が反対する最後の機会であったが、反対せぬようであるし、全て回収させよう。


 その後、到着した輸送隊にオークの死体と光る苔を回収させ、共にシンラシオン領からサヌスト帝国領に戻った。

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