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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章
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第503話

 翌朝。日出より少し早くフォーリャ村を発った俺達は、昼過ぎにドリュケール城に戻った。復路であるからか、往路より早かった。

 巡察隊の面々には休養を命じ、俺自身はアキとアニエス嬢、マフムード金士を連れて北方支部の面々に報告に来た。


「採草地の魔物はトロールという魔物であった。これは騎士団が編纂中の魔物図鑑であるが、トロールについてはこれを参考にせよ。書き写すのは構わぬが、我らの出立までに返してもらわねば困る。討伐法についてはマフムード金士に頼もう」


「ご報告申し上げます。フォーリャ村採草地内の窪地に屯しておりましたトロール十二匹に対し、フラウ金級騎士殿、ダヌマルク宮廷魔術師殿、グラヴェロット宮廷魔術師見習い殿が三方から魔法による遠距離攻撃を加え、トロールらが再生のため膠着あるいは鈍化した隙に、大将軍閣下と私、魔法使いのお三方、その補助の三名を除いた十二名が魔闘法によって大半に止めを刺し、生き残りに対しては再び魔法攻撃が行われ、討伐を完了いたしました」


「ふむ。やはり魔法と魔闘法が必要ですか、閣下」


「安全性と確実性を考慮するなら、だ。だが、極論を言えば胸にある魔石を破壊すればトロールは死ぬから、破城槌なりで胸を集中的に攻撃すれば討伐できる。まあトロールも死は望んでおらぬだろうから、破城槌を持つ兵士の戦死率が凄まじい事になるだろうが」


 トロールを固定できる環境、例えば沼地などに追い込む策でもあれば話は別だろうが、そうでない限り雑兵を数多く集めるより、精兵を一人呼んだ方が良い。基本的に戦は数は質に勝るが、魔法や魔力が絡むと数は質に勝らぬのだ。


「全ての討伐兵が魔法や魔闘法を習得すれば、かなりの戦力増強になりますな。これからは徴兵による大軍を編成するより、志願による少数精鋭部隊を編成する方が良い時代になるかもしれませんな」


「どうであろうな。記録によれば、軍隊を相手にするのと魔物を相手にするのとでは、求められる技術が異なるそうだ。事実、かのアンドレアス王も魔王軍の打倒には二十万の反魔王軍を編成なされた」


「ですが、魔王を討ったのは少数精鋭による本陣奇襲では?」


「ああ。俺としては、どちらかと言えば魔王とその側近は魔物に分類されると考えている」


「なるほど、魔王は魔物ですか。閣下は少数精鋭部隊が大軍に勝るとはお思いにはなりませんか」


「状況によるとしか言えぬ。そもそも、白兵戦においては兵士個人の強さが戦局に与える影響は小さい。だが、魔力が絡むと、一人で大軍と渡り合う者も、珍しくはあるが存在する。それゆえ、魔王が大陸に襲来する以前は兵士の質と数を乗じ、これを戦力として扱った。まあ質に関しては明確な基準などないし、そもそも活躍すべき状況も兵科によって異なるゆえ、質や戦力を数字として記録したものはない」


「指揮官の肌感覚のようなものでしょうか」


「おそらくな」


 現代軍でも、戦場の地理や天候、兵站線や第三勢力との関係など後方の状況、将兵の士気など、色々と考慮すべき事があるし、それは実戦を積まねば身につかぬ。

 白兵戦と魔力戦とでは気にすべき事が全然違うので、現代のサヌスト帝国軍にはそういう感覚を身につけた者がおらぬ。だが、おそらく旧魔王軍を数多く麾下に置く尊主翼賛軍や魔将王軍などには、それなりに属しているだろうから、その点が気がかりである。


 その後、しばらくルナール将軍と魔力戦について議論し、明日に備えて夕食直後には休んだ。


 翌朝。案内人のダグラス・リー銀級騎士と軽く打ち合わせ、ドリュケール城を発った。

 目的地のサングリエ県はアングリオグルノ州に属する県で、アングリオグルノ州はクィーズス血閥領である。サングリエ県はクィーズス=デューハースト侯爵領であり、領主のハーヴェイ・フォン・クィーズス=デューハースト侯爵は県令を兼ねている。

 ちなみに、諸侯は私領であれば、分割した小領地の領主に家臣や家族を封ずる事ができ、これを私的領主と俗称する。ただし、これはあくまで私的に封ずる事ができるだけで、帝国側としては元の領主が領地運営の責任者となる。さらにいえば、私的領主は諸侯に含まれぬから、諸侯の特権などは付与されぬ。

 それゆえ、デューハースト侯爵はクィーズス血閥領全体の領主であるクィーズス=ケーニヒ大公に封じられただけで、正式にはクィーズス=ケーニヒ大公がサングリエ県の領主である。まあ帝国軍の将校や地方出向の中央官僚など、帝国官吏は面倒事を避けるため、特に必要がなければ私的領主を領主として扱うそうだ。


 そういう訳で、とりあえずはサングリエ県都ハーバリーエーバーに行き、デューハースト侯爵と会う事にした。

 俺とデューハースト侯爵とは、超がつくかもしれぬが遠戚にある。レリアの兄であるリアン殿の婚約者は、クィーズス=ケーニヒ大公の再従兄と従姪の娘シャンタールであり、ケーニヒ大公はデューハースト侯爵の兄であるから、家系図を広げれば一応は繋がっているのだ。まあ続柄も分からぬほどの超遠戚であるから、別に何があるわけでもないのだが。


 十日後、二月一日。六百メルタルの旅程であるから、十日で終えると充分に早いはずだが、帝都からドリュケール城まで三百メルタルを三日で駆け抜けた俺達としては、かなりの時を無駄にした気がする。

 森や山の中を駆けたため皆の疲労も酷く、到着も日が暮れた後であったから、ハーバリーエーバー内で宿を取って休んだ。


 翌朝。俺達は正装をしてサングリエ県令府に向かった。北方支部から鳩なり何なりで連絡が来ているはずであるし、そもそも軍部高官で血閥総帥でもある俺を僭称する者などおらぬだろうから、適当な役人を捕まえて名乗れば大丈夫なはずである。

 そういう訳で、県令府の役人に話しかけると、俺とアキ、エヴラール、アニエス嬢、マフムード金士が応接間に通され、他は別室に通された。


「お待たせしました。サングリエ県令デューハースト侯爵です」


「サヌスト帝国軍帝国騎士団長モレンクロード大将軍だ。早速本題に入りたいのだが、よろしいかな?」


「ええ。現場はブラックモーア男爵の居城ハンズィール城だ。ここから西に十五メルタル程に位置します」


 入室してきたデューハースト侯爵はそう言い、部下が広げた地図を用いて説明を始めた。

 ハンズィール城までは街道が整備されており、半日も駆ければ辿り着く。まあさすがに数百メルタルも離れていたりする事はない。

 ハンズィール城内に閉じ込められている魔物は、県令府が把握する情報を用いて魔物図鑑を引けば、エレファントボアである。二年ほど前、ドリュケール城付近で戦ったエレファントボアは、この魔物図鑑によれば、エレファントボアの亜種であると結論付けられており、亜種の戦闘能力は原種の十数分の一程度であるそうだ。

 今回の被害状況を聞く限り、原種のエレファントボアであるように思う。エレファントボアは、対応を間違えば都市が丸ごと滅ぶほどの脅威であるから、城塞内に閉じ込めたのは正解であろう。かのアンドレアス王軍も、公式には討伐記録が残っておらぬのだ。


「県令閣下、ハンズィール城は我らに任せよ」


「ありがとうございます。ブラックモーア家は代々我が一族に仕えた忠義の家門だ。どうぞ彼らをよろしくお願いします」


「うむ。ブラックモーア男爵家には充分な補償をする。必要があれば、ハンズィール城の再建にも手を貸そう」


「感謝します。ブラックモーアも喜びましょうぞ」


 ブラックモーア男爵はデューハースト侯爵の要請があったとはいえ、自らの居城を魔物の檻として捧げ、それ以降の被害を抑えた英雄である。ブラックモーア男爵の受けた被害は、何としても騎士団が補償しよう。


「ところで、ブラックモーア男爵には援軍を?」


「ええ。州令府に要請し、州兵を五百ほど貸しました。ブラックモーア男爵の指揮下に入り、ハンズィール城を包囲しているはずです」


「左様か。ならばいくらでもやりようはあるな。県令閣下、我らは明日にでも発つ。補給に協力してもらいたいのだが」


「当然です。会計担当を寄越しますので、詳細はその者にお伝えください。申し訳ありませんが、私は政務を消化せねばなりませんので、これにて失礼いたします」


 デューハースト侯爵はそう言い、応接間を出ていった。県令とはなかなかに忙しいようだな。


 その後、会計担当と合流し、巡察隊が要求する物資を明日までに用意するよう要請しておいた。

 ちなみに、後で合流した他の巡察隊の面々は、クィーズス血閥軍の将校や州兵将校、下級の公吏など実務を担当する者達と交流していたようだ。

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