第4話
今回はアシル視点です。
───あんたが眠った後の事だ。
ヴォクラー様はジル殿に手をかざした。ヴォクラー様の体がぼやけ、ジル殿の体へ吸い込まれた。
「では、征くぞ。アシル、オディロン」
「「は!」」
俺とオディロンはヴォクラー様(ジル殿の体)の半歩後ろへ立った。
ヴォクラー様が歩いていくので後ろを着いていく。
やがて俺やジル殿の身長の三倍程の高さの扉の前へ来た。
「開け」
そうヴォクラー様が唱えると扉が開いた。
そこには巨大な魔法陣が描いてあった。
「来い」
ヴォクラー様がそう何かを喚ぶと人の頭ほどある巨大な水晶玉が浮かび上がった。
それにヴォクラー様が手をかざし神力を注ぐと水晶玉が白く光り出した。それに応じるかのように魔法陣も輝きだした。
神力とは神の魔力のことである。天使族の魔力は天力と呼ばれる。人間の魔力は単に魔力と呼ぶ。
「アシル、オディロン。向こうに着いても何も話すなよ。私のやり方があるゆえ」
「「は!」」
そのやり取りが天界での最後の会話であった。
やがて視界が光に包まれる。
視界の光が引いていくと宝石が至る所に散りばめられた部屋に来ていた。部屋の外では鐘が鳴っている。
やがて三人の騎士が入って来た。
「侵入者か、使徒様か!己の正体を表せ」
「俺はジル!此度の使徒である!疑うと言うのなら三人まとめてかかってこい!」
三人の騎士は剣を抜き雄叫びを上げながらヴォクラー様(ジル殿の体)に迫った。
ヴォクラー様は剣も抜かずにただ手を前に突き出した。
ただそれだけの行為にもかかわらず三人の騎士は剣を放り出し蹲った。
「これで分かったな?」
「申し訳ありません!直ちに代表の方々を連れて参りますのでお許しを」
一人の騎士が代表してヴォクラー様と話した。
「うむ、許すゆえ早く連れてこい」
「「「は!」」」
しばらくすると扉が開いた。
豪華な服を着た者が五人、その後ろに控えるように立つ近衛騎士と見られる騎士が数え切れぬほどいる。
「先程は私の配下が侵入者と勘違いをしてしまい申し訳ありません」
一番豪華な服を着た男がそう言った。
「いや、そんなことは気にしない。それよりも貴様らは名乗らぬのか?」
「!申し訳ありません。私はヴォクラー教徒の代表でもあるサヌスト王国国王ギュスターヴと申します。この名を持つ国王は私が四人目でございます」
この男が国王か。そのように頭が低い男が国王では、この国も大丈夫か?
「他の者も名乗らぬか」
「では、私が。私はサヌスト王国の王太子アルフレッドと申します」
国王に促されて名乗ったのは国王の左に立つ男だ。
「私はサヌスト王国第二王子エジットと申します」
アルフレッドに睨まれ、そう名乗ったのがエジット殿下である。
「以上がここに集えたサヌスト王家の代表です」
「では次は私ですね。私は大司教ニルスと申します。こちらは司教のティメオです。以上が教会の代表です」
国王の右に立つ男、大司教ニルスに紹介された時司教のティメオは礼をした。
「他の者は名乗るに値せぬ者か。まあ、良い。此度のお告げはこれだ」
みなの息を飲む音が聞こえたような気がする。
ヴォクラー様は懐から一つの書簡を取り出した。それは白紙であったがヴォクラー様が神力を注ぐと文字が浮かび上がった。
『一つ。サヌスト王国のギュスターヴ四世は退位し、第二王子エジットが国王として即位すること。
一つ。ヴォクラー教を国教とする国をサヌスト王国が一国にまとめあげること。
一つ。奴隷制を廃すること。
一つ。大陸中の国を一つにまとめあげ、この世から奴隷をなくすこと。以上。』
「そのようなことをしては国中が混乱するゆえ、いくらヴォクラー神のお告げといえどそのようなことはできませぬ!まさか貴様、使徒を騙る悪魔か!者共!悪魔を捕らえよ!」
「なりませぬぞ、父上!使徒様、どうぞこちらへ!」
そう言って殿下が走り出した。さすがに王族には手出し出来ぬのか騎士達は何もせぬ。
ヴォクラー様が殿下の方へ走り出したので俺も後を追う。オディロンが吠えると多くの騎士達が萎縮していた。
殿下が止まると後から追ってきていた騎士たちも止まった。ヴォクラー様が手をかざしたからだ。
「使徒様、その者共は私の信頼出来る部下であります。通していただけませんか?」
「それならば通す」
ヴォクラー様がそう言うと騎士達は一礼し、こちら側に回った。
その後ろからまた騎士が来た。
「あの者共もか?」
「いえ、あの者共は父上の手の者です」
その後ろから国王達も来た。
「エジット!余は貴様を悪魔に騙されるように育てた覚えはない!」
「父上!権力を手放すのがそんなに怖いですか?」
「黙れ!貴様には何も分からぬ!」
「大司教猊下も父上を説得してくださいませんか?」
大司教ニルスもいつの間にか後を追って来ていた。
「私からはなんとも言えませぬ。ただ彼が本当に使徒様であるならばお告げを信じ、我々が行動せずともお告げの通りになりましょう」
「つまり、傍観するということですね?」
「はい。我々教会は今回の件に関しましては中立を貫きます」
「そうですか。では、父上、王位をお譲りください。お譲りしていただけぬのなら神の名において私が王位を頂きに参ります」
そう言って殿下は走り出した。騎士達に促され、俺達も後ろを追っていく。
しばらく走ったところで殿下が止まった。
「使徒様、申し訳ありません」
「いや、父王の気持ちも分かる。ところで何か計画はあるのか?」
「ええ。北の国境を守る北方守護将軍ジェロームを頼ろうと思います。彼は私の育ての親でもありますので信頼はできます」
「そうか。すまぬな」
「あ、すみません。こちらが私の部屋です。本日はもう夜になっておりますので今夜はこちらでお休みください」
「ああ」
ヴォクラー様は頷き部屋へ入っていった。
───アシル、気づいておるとは思うが私は今、ジルを演じておる。たがそれももう辞める。貴様もそれに合わせて話せ───
は!承知しました。
ヴォクラー様からの念話に返事をして部屋の中を見回す。
清潔感のある散らかり方をしている部屋だ。
「エジット、人払いをしてくれ」
「私もですか?」
「貴様は残れ」
「はい」
殿下は部屋から出て行き、しばらくして戻ってきた。
「貴様を信じて俺の秘密を話す」
「は。ありがたき幸せ」
「私は今、ジルではない、ヴォクラーだ」
「なんと!あのヴォクラー神ですか?」
「ああ、そうだ。今はジルという天使族の体を借りている。もう少しで私は帰らなければならない。必要な事だけ話す。まず手枷と足枷を一組ずつ用意せよ。それと次にジルが目覚めた時にこの間の記憶はないゆえ、エジットは挨拶するように。以上だ。寝台を借りるぞ。私が眠ったら私を拘束せよ」
ヴォクラー様の要望に殿下は驚きつつ尋ねた。
「用意する手枷と足枷を使ってですか?」
「ああ、頼む」
そう言うとヴォクラー様は気を失ったように倒れた。
俺は意を決して殿下に話しかけた。
「俺はアシル=クロードだ。使徒補佐として来た。殿下は早く枷を持って来い!」
「はい!」
俺はジル殿を抱えて寝台まで運んだ。
「枷を持ってきました!」
「使徒につけろ」
「はい」
そう言うと枷をつけた。
これでよろしいですか、ヴォクラー様。
返事はないだろうがヴォクラー様に念話を送った。
「改めて自己紹介する。俺はアシル=クロードだ。使徒補佐として来た。俺の事はアシルと呼んでくれ」
「私はサヌスト王国第二王子エジットです」
「こちらは使徒のジル殿だ」
ジル殿のことも紹介しておいた。
───我の事も紹介してくれ───
わかった。
「それでこちらが使徒の下僕オディロンだ。我々は天使族であるゆえ、眠る必要は無い。見張りは我々がしておく。ゆっくりと休むが良い」
「いえ、使徒補佐のあなただけに働かせる事はできませぬ」
「そうか。では打ち合わせをしておこうか」
俺達は明け方まで打ち合わせた。
その内容はジル殿の前での口調のことや脱出経路の確認などなど。
明け方、打ち合わせが終わると殿下は配置についた。
だが、ジル殿は昼過ぎまで起きなかった。
「アシル!オディロ…!」
あんたは色々と想定外の事をしてくれる。
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