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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第498話

 深夜。レリアとアキの温もりを堪能していると、廊下が少々騒がしくなった。むろん、俺達を起こさぬよう気遣いはあるし、実際にレリアとアキは気持ち良さそうに眠っているが、騒がしい事に変わりはない。

 俺は二人を起こさぬよう慎重にベッドを出て、上着を羽織って廊下に出た。


「何かあったか?」


「ジル様…あ、大旦那様。お起こしして申し訳ありません。執務室が何者かに荒らされております。警備中隊の方々が捜索を始めていますが、念のため大旦那様も警戒してください」


 呼び止めた侍女は俺の問いにそう答えた。

 それにしても、もう大旦那様という呼び名が広まっているのか。アキの仕事は早いな。


「執務室が?」


「はい。ご覧になりますか?」


「…ああ」


 荒らされたのが執務室という事であれば、心当たりがある。だが、それに紛れて本当に賊でも侵入したかもしれぬ。念のため確認しておこう。


 執務室に来ると、家令のムレイの下、片付けが進められていた。見た感じ、俺達が壊した物以外に壊れた物はないし、他の場所が物色された形跡もない。


「ムレイ、すまぬな」


「大旦那様。いえ、これが我々の役目でございます」


「いや、寝る前にアキと転んだのだ。その時、色々壊した」


「左様でございますか。お怪我はございませんでしたか?」


「ああ」


「警備中隊の捜索中止、壊れた家具の修理など必要な手配をしておきます」


「すまぬが頼んだ」


「お任せください。それでは、大旦那様はどうぞお休みください」


「ああ。皆に詫びておいてくれ」


 俺はそう言い、執務室の片づけやら諸々の手配をムレイに任せて寝室に戻る事にした。俺がいては、指示を出すのも何をするのでも、いらぬ気を遣ってしまうであろうし、俺としてもレリアとアキの間に早く戻りたい。


 寝室に戻ると、互いに相手を俺だと思っているのか、レリアとアキが抱き合って寝ていた。

 サヌストは異国に比べれば温暖な気候であるが、それに慣れたサヌスト人にとってサヌストの冬は充分に寒い。それゆえか、二人は俺を抱き枕にして暖を取りながら寝ている。一方が我が妻でなければ、引き剥がして俺が代わるが、二人とも我が愛しの妻であるから、見ているだけでも幸せだ。

 俺は安楽椅子を持って来て、ベッドの傍らに座り、朝まで二人の寝姿を眺めることにした。この姿を永遠に残しておきたいが、俺には芸術的な感性も技術も備わっておらぬし、それらを備えた他人に二人の寝姿を晒すのも嫌であるから、実現は不可能であろう。


 朝になり、二人が起きると、アルテミシアとおヨウがアレクとテリハを連れてきて授乳が始まった。不思議な事に授乳中の二人を見ても、大慾は生まれず、むしろ崇高なものを見ているような気分になる。

 ちなみに、俺が留守にしている間に、レリアが授乳中の寝室に間違って入った侍女がいたそうで、間違い防止のため、赤甲ルージュ黒甲ノワールの女兵士が一人ずつ、帯剣以外の武装をせず扉の前に立っている。


 授乳が終わると、アルテミシアとおヨウがアレクとテリハを連れて出ていき、レリアとアキが着替え始めた。

 二人が着替え終わると、食堂に移り、朝食を済ませると、エヴラールとリンが来て登庁の準備を始めた。今日からはアキも来るそうで、布に包んだ仮面を持っていた。


 騎士団本部庁舎に来ると、第三金隊の幹部や夜番将校らが門の近くに停めてある三台の馬車の周囲に集まっていた。


「何事か」


「閣下、おはようございます。法務省からフェアレーターの身柄が届きました」


 俺が馬から降りて近づくと、第三金隊長レガー金士がそう答えた。

 アレストリュプ達の処刑が昨日あったはずであるが、フェアレーターをその翌日に移動させるとは、法務省もフェアレーターを持て余していたのかもしれぬな。


「そうか。管理課長はもう来ているか?」


「いえ、まだのようです。フェアレーターの到着までは庁舎で寝泊まりさせるべきでしたな」


「ああ。ちなみに聞くが、フェアレーターは幾人いる?」


「はい。法務省から提出された名簿です。それによれば、合計で三十六名だそうです」


「そうか」


 レガー金士はそう言って、法務大臣フルガード侯爵の署名がある冊子を俺に渡した。フェアレーターの名簿のみならず色々とあるようで、それなりの厚さがある。

 俺は資料をリンに渡し、馬車に近づいた。馬車には外から鍵が掛けられており、小さな車窓を除いて外界から隔離されている。


「鍵はどうした?」


「こちらに」


「開けよ」


「よろしいので?」


「永久に閉じ込めておく訳にはいくまい?」


「はい。それでは」


 鍵を持った上士はそう言って懐から鍵束を取り出して先頭の馬車を解錠し、扉を開けた。すると、アキが刀の柄に手を掛けて俺の半歩前に出た。親衛隊長として役割を思い出したのであろうか。いや、アキは礼装ではなく略装を着ているし、自らの職務を忘れてはおらぬか。


「臭いな」


 俺の前に立ったアキはそう言い、後退って俺の背に隠れた。確かにアキの言う通り、扉を開けた瞬間に戦場帰りの将兵が発する臭いが、馬車から溢れ出た。数日のみ収容された法務省の監獄がよほど不衛生なのか、あるいはそれも含めた罰なのか、いずれであるか俺は知らぬが、このままでは雑用すら任せられぬな。


「フェアレーター管理課員はいるか」


「はい、ここに」


「このままでは近くに置いておけぬ。体を洗わせて、清潔な服に着替えさせよ」


「承知しました」


「レガー金士、必要ならば警備要員を用意せよ」


「はっ」


 先ほど開錠した上士は、どうやらフェアレーター管理課員であったようだ。

 フェアレーター管理課員が馬車の中に入り、しばらくすると、枷に繋がれた十人の女を連れて出てきた。他の馬車からも別の管理課員がフェアレーターを連れ出したが、いずれも生気の失われた目をしている。絶望に思うのは勝手だが、扱いづらいな。

 フェアレーターが兵舎の方に連れていかれると、第三金隊の兵士が水を持ってきて馬車を洗い始めた。悪臭の源であるから、なるべく早く対処してもらいたいものだ。


 執務室に移り、リンと一緒にフェアレーターの名簿を見ていると、結構な偏りがあった。

 十歳未満の男児は五名で、旧ジェンサック家から三名、旧ロンズデール家から二名で、旧アレストリュプ家にはおらぬようであった。

 その他の婦女の構成は、旧アレストリュプ家から四名、旧ジェンサック家から十二名、旧ロンズデール家から十五名であった。

 シュエットが法務省に提出した報告書によれば、旧アレストリュプ家の婦女子は、その大半をアルフレッドが保護したそうで、行方が分かっておらぬそうだ。


「…私も何かあったら、ロード様が保護してくれますか?」


「そう約束したはずだ。だが、保護せねばならぬ事態にならぬよう、おぬし自身が色々と手を回すだろう?」


「そりゃあ、私は死ぬような思いなんてしたくないですからね」


「漏らすからな。団長様、フェアレーターの様子を見てから訓練に行ってくる」


「ああ。仮面を忘れるでないぞ」


「持った。行ってくる」


 アキはそう言い、木刀を数本帯び、例の仮面を手に持って部屋を出ていった。気に入っているようで良かった。

 俺もフェアレーターの様子を見に行こうかと思っていたが、アキが行ってくれるなら後で話を聞けば良いか。


「漏らしませんからね」


「そうか」


「大事な何かを失いそうなので、話を変えましょう。ほら、仕事が溜まってますよ。これなんて見てください。魔物討伐作戦本部に参加するモレンク軍に、トモエさんがいらっしゃいますよ」


 リンはそう言い、話を少々無理矢理逸らした。


 リンの言った書類を見ると、夜間に調整したようで、魔物討伐作戦に参加するモレンク血閥軍から将校の名簿と部隊の一覧を完成させたそうだ。君主代行のアズラ卿や黒甲ノワール司令のアガフォノワの参加は聞いていたが、トモエの参加は初耳である。さらにいえば、トモエの役職は赤甲ルージュ士副将となっていたので、アキに詳しく聞かねばならぬ。

 そもそも、トモエは三龍同盟サヌスト帝国支部自警団長として、サヌストに滞在する三龍同盟隷下のヤマトワ武人を指揮すると聞いていたが、兼任して大丈夫なのであろうか。特に、赤甲軍団ルージュ・ラ・モールを率いる士大将であるアキは帝国軍の武官であるから代行者が必要であり、その任には士副将が当たるはずであるから、多忙なはずである。


 一度、作戦本部に合流する前のアズラ卿と話をしよう。アズラ卿に聞けば、領地の事も血閥軍の事も把握しているし、色々面倒事が少ない。

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