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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第492話

 光が弱くなり、目を開くと、教皇用祈祷室に戻っていた。

 転移による光が完全に消えると、天界にいた頃より体調が悪化したような気がする。全身の震えが止まらぬし、寒気もするし、眩暈もあるし、これが最も大きな問題だが呼吸をしても魔素が吸収できぬ。これでは、立ちあがる事は疎か、座る事すらできぬ。


「体調が悪化しているように見えます」


「…転移のためでしょうか」


「いえ、重力のためでしょう。地上の重力は天界の数百倍から数千倍、あるいはそれ以上ありますから、天界では感じなかった症状が出ているのでは?」


「重力…人を呼んでくださいませんか」


「仕方ありませんわね」


 ジルデシア・シャンクロードはそう言い、嫌そうに祈祷室の扉を開けた。すると、控えていたと思しきエヴラールと従卒の二人が、ジルデシア・シャンクロードに驚きつつ、俺を見てさらに驚いた。

 ジルデシア・シャンクロードが事情を説明したのか、従卒の二人はどこかに駆けていき、エヴラールは一礼して入室した。


「教皇猊下、体調が優れないと伺いましたが…」


「ああ。天界で少々あったのだ」


「天界で…担架を手配しましたので、ベッドにお移りください」


「すまぬな」


「いえ。祭服を緩めましょう。少しは楽になるかと」


「ああ」


「それでは失礼いたします」


 エヴラールはそう言い、俺の教皇祭服を脱がし始めた。装飾品やら何やらで、この服は結構窮屈であるから、かなりありがたい。

 教皇祭服を半分ほど脱いだ頃、担架を持ったオンドルフとオンドラークが聖騎士を幾名か連れて戻ってきた。二人は俺の体重を知っているので、屈強な聖騎士を呼んでくれたのだろう。


「猊下、ご無事ですか」


「ああ、すまぬな。天界で歓待を賜ったのだが、どうやら我が身には過剰なものであったようだ」


「左様でございますか。医務室へお連れいたします」


「頼んだ」


 長らしき聖騎士がそう言うと、俺は担架に乗せられ、四人の聖騎士と従卒の二人によって、医務室まで運ばれた。ジルデシア・シャンクロードは、エヴラールと何やら話しながらゆっくりと俺の後を追った。

 病人用の服に着替えさせられ、医務室のベッドに寝かされ、医者による診察を終える頃には、オーリー大司教が来ていた。


「猊下、体調を慮らぬ態度をお許しください。お告げは賜りましたか?」


「ああ。ジルデシア・シャンクロード様、お願いいたします」


「承知いたしました。こちらがヴォクラー神より賜りし此度のお告げにございます」


『一つ。ヴォクラー教中央教会は、現教皇を退位させ、新教皇にジルデシア・シャンクロードを就任させること。

 一つ。サヌスト帝国皇帝は、ヴォクラー教中央教会に帝国領土の一部を割譲し、教皇領としての独立を認めること。

 一つ。ヴォクラー教西方教会法皇を自称するルーファス・グラハム・マーレイを神敵と定め、これを征伐すること。以上。』


 ジルデシア・シャンクロードはそう言い、例の石板を皆に見せた。

 改めて見ると、今回は宗教に関連したお告げばかりであるな。去年は国号を変えたり、三国を併呑したり、白蓮隊員を各部門の顧問に据えたり、統治に関する事が多かった。まあヴォクラー神のお告げとは、そもそもが宗教的なものであるから、今回が正常なのだろう。


「枢機卿を集め、共有いたします」


「俺も行こう」


「いえ、教皇猊下はご養生なさってください」


「…そうか」


 オーリー大司教はそう言い、ジルデシア・シャンクロードや聖騎士達を連れて出ていった。医務室に残ったのは、エヴラールと従卒の二人のみで、医者すら出ていった。

 しばらく三人の看病の受けていると、体調が良くなってきたような気がする。消化が追い付いたのであろうか。


「治った」


「突然ですね」


「ああ。どうやら消化が終わったようだ。オンドルフ、水をくれ」


「はい、どうぞ」


 近くにいたオンドルフはそう言い、水を注いだ杯を俺に渡した。見た目から察するに、この杯は何らかの儀式に使っていたのだろうが、なぜ病人用に置いてあるのであろうか。

 水を飲み干した俺は、ベッドから出て少し歩いてみた。完全に調子が戻っている。


「オンドルフ、俺も会議に参加しようと思うのだが」


「猊下、おそらく既に解散していると思います。この部屋には窓がないので分かりづらいですけど、もう深夜です」


「そうか。では明日から参加しよう」


「それではそのようにお伝えしておきます。再発してもいけませんから、今晩はゆっくり休んでいてください」


「承知した」


 俺はオンドルフに言われ、椅子に座ろうとしたが、オンドルフは俺をベッドに誘導して寝かせると、上掛けを被せた。そして灯りを消すと、ベッドの傍らの椅子に座り、俺に微笑みかけた。子供扱いをされているような気がするが、まあ良いか。


 翌朝。俺は医者が持ってきた健康に良さそうな朝食を食べ、会議室に向かった。オンドルフの看病のおかげか、全快した。

 会議室に来ると、既に枢機卿の面々は揃っていた。


「昨日は迷惑をかけてすまぬな。始めよう」


 俺がそう言うと、オーリー大司教が昨日の報告を始めた。

 新教皇には、枢機卿団の全会一致でジルデシア・シャンクロードが指名されたそうだ。まあヴォクラー神が教皇にと派遣した者を指名せぬなど、ヴォクラー教徒にあるまじき行為であるから、指名されぬ訳がないのだ。

 サヌスト帝国から領土の一部を割取する件であるが、これは新教皇体制となった後、改めてエジット陛下と交渉を始めるそうだ。帝国領土という指定であるから、例えば俺が領地を返上し、その地を教皇領としても良いのだ。まあ交渉次第であるから、今は何とも言えぬ。

 西方教会については、聖堂騎士団が対処にあたるそうだ。だが、サヌスト帝国としてはノヴァーク血閥からの要請で信教の自由を認めており、一応は西方教会法皇ルーファス・グラハム・マーレイもサヌスト帝国臣民である。それらしい理由を、枢密院や軍令部と協議した上、武官なり宗教官僚なりを同行させる必要があるだろう。


 そういう訳で、俺は第五席までの枢機卿やジルデシア・シャンクロードらを連れ、皇宮に行く事にした。

 俺が教皇祭服を着て準備をする間、エヴラールがオンドラークを連れて皇宮に俺達が行く事を伝えに行った。どうやら、しばらく俺の世話はオンドルフに任せっきりにするようだ。


 皇宮に着くと、ジェローム卿や宗教大臣、宮内大臣などを伴ったエジット陛下が、御自ら出迎えてくださった。


「お出迎え感謝いたします、皇帝陛下」


「いえいえ。教皇猊下、お告げを賜ったとか。こちらで詳しく聞かせていただきたい」


 俺達はエジット陛下に案内され、皇宮内の会議室に来た。会議室では宗教省や宮内省の官僚が待っていた。

 とりあえず、ジルデシア・シャンクロードがヴォクラー神のお告げを発表した。当然であるが、領土の割譲については良い反応は得られなかった。


「うむ。まず、教皇の交代については、予に口出しする権利はない。領土割譲は、どの程度の領土を希望しているのか、新教皇に尋ねたい。西方教会法皇の征伐は、予の信仰の証として戦力を受け取ってほしい。費用や物資も寄進しよう」


 エジット陛下はせっかく待たせていた官僚とは相談せず、そう即答した。

 教皇交代については、エジット陛下の言う通り、帝国が口出しをすべきではない。

 領土割譲については、確かにどの程度の規模を割譲するのかによって、手配の難易度なども変わる。聖堂ひとつ分であれば、この場で即決いただけるかもしれぬが、例えば州や県といった纏まった領地を割譲するのであれば、統治や防衛について引き継いだりせねばならぬので、少なくとも数か月は要する。

 法皇の征伐については、この様子であれば帝国騎士団に下命があるかもしれぬな。だが、聖堂騎士団が宗教省の管轄であるから、面倒な事になるかもしれぬ。まあ何とかなるか。


 色々と協議を重ねるため、明日にでも枢密院に枢機卿らを招くことになった。俺は教皇として参加するので、帝国騎士団としてはリグロ参謀副長にリンを預けて代理で参加させる事にした。

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