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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇
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第48話

 夜になった。

 国王は一度、中に戻って行き、武装してやってきた。松明を持つ兵を何人も引き連れて。


「余がヴォクラー教徒を代表してこの不届き者を斬り刻む」


 国王はそう民に向かって言い、剣を抜いた。刃こぼれだらけの剣だ。国王ならもっと良い剣を用意できたはずだが俺を楽に殺したくないのか?やはりこの王は変わり者だ。


 俺はアシルを信じて多少は斬られよう。魔法で脱出をしようとしたが魔力を使おうとするとこの縄に吸収されてしまった。魔法は使えぬだろう。


 国王が剣を俺に突き立てた。魔天使族の体は血が流れていないが俺はハイエルフや人狼、人虎でもあるから血は流れる。


 俺の血を確認したからだろうか。三本の矢が同時に飛んできて松明を持つ兵を射抜いた。松明の火が王宮に燃え移る。


「陛下!こちらへ!」


 生きている兵に導かれ、国王は逃げていく。俺は縄を引きちぎる。魔法など関係ない単純な力業だ。

 そして武具を喚び出し槍で国王以外を貫いていく。


 ───ジル殿、今そちらにエヴラールとケリングが向かっている。王太子を人質にして進んでいるからすぐに着くだろう───


 ああ。頼りにしているぞ。


 あの縄で拘束されていてもなぜか念話は使えた。魔法ではないのか?


 俺は一応集まっている民に向かってこう言っておく。


「俺はヴォクラー神からの使徒だ!決して偽物ではない!理由は明かせないが今はここを去る!」


 そう言ってエヴラールとケリングを魔法で探し、合流する。出会った兵は浅く斬る。

 そのままアシルと合流し、王都を駆け抜け、王都を出ようとしたが既に城門がしまっていた。


「門を開けよ!」


 一応そう言ってみる。


「できませぬ!」


 そう言って槍を構えた衛兵がぞろぞろ出てきた。


「勝手に開けても良いのか?」


「なりませぬ!」


 仕方あるまい。突破するようにアシル達に言おう。


「どいてくれないなら仕方ない。アシル!エヴラール!ケリング!衛兵を門に近づけるな!」


「「御意!」」


 アシルは返事をせずに矢をつがえた。

 俺は火魔法で城門を破壊する為にタイミングを見計らう。間違えて衛兵を巻き込めば暴発してしまう。


「ジル殿、まだか?」


「あそこの兵を」


 俺が指さした兵をアシルが射抜く。


「耳を塞げ!」


 俺はそう言って火魔法を放つ。

 思ったよりも威力が高く、城門の周りの城壁諸共吹き飛んだ。城壁上にいた兵も巻き込んでしまったが暴発はしなかった。そう言えばヴォクラー様に九割は暴発しないと言われたような気がする。


 野次馬に来ていた王都の民が逃げ去って行った。

 俺は呆然としているエヴラールとケリングにこう言う。


「走れ!」


 二人は思い出したかのように走り出した。

 後ろから馬に乗った衛兵が追いかけて来た。仕事が早いな。


「お前ら、先に行け!」


 俺はヌーヴェルを喚び出しでエヴラールの方へ走らせる。


 俺は槍をしまって短剣を二本抜く。短剣なんて久しぶりに使うな。モーゼス将軍戦以来だな。

 適当に構えて先頭の二騎に投げつけた。やはり投げつけるしか使い方がわからぬ。

 落馬した兵を足場にして馬に飛び乗った。そして剣を抜く。


「俺は強い。全滅しては報告する者がいなくなるぞ」


「命懸けであなたを止めること。それが我々の使命だ」


「そうか。話し合いでは解決出来ぬか」


 俺はそう言ってアシル達の所へ転移する。残された兵はさぞ戸惑っていることだろう。

 アシル達の場所はわかるがそこがどこかはわからぬ。

 アシル達は小川のほとりで休憩をしていた。


「戻ったぞ」


「殺したのか?」


「二人な」


「もっといただろう?」


「そんなに殺しちゃまずいだろう。ところでどこを通ってきた?」


「色々回って岩場と砂利道を通った。足跡を追っての追跡は不可能だろう」


「さすがだな」


「エヴラールの案だ」


「そうか」


 俺はそう言ってエヴラールの方を見る。水を飲むヌーヴェルの横で倒れていた。おそらく疲労だろう。


「エヴラール、そんなに疲れたか?」


「あ、いえ。星を眺めておりました」


 そう言ってエヴラールは起き上がる。多分相当疲れているのだろうな。セリムに教えてもらった回復魔法をかけておいてやろう。この魔法は体の傷を治すものだ。疲労は体が傷んでいるのだとセリムが言っていた。


「アシル、エヴラール、ケリング、ヌーヴェル、ルドゥ。これから休み無しで戻るが異議はあるか?」


「休み無し?」


「ああ。一角獣(ユニコーン)は三日三晩休み無しでも走れると言っていたし、人狼はなんとかなるだろう?」


 俺はそう言ってケリングの方を見る。


「戻ってから休息を頂けば十分です」


「休ませてやろう。つまりアシルとエヴラールだ。アシルもどうにかなるだろう?」


 そう言ってアシルの方を見る。


「俺も帰ったら丸一日休ませてもらおう」


「あとはエヴラールだけだ。どうする?」


 俺はエヴラールの方を見る。


「ジル様がいらしてから疲れが無くなったような気がします。この調子でしたら大丈夫です」


「それは俺が魔法を使ったからな。疲れたらまた使ってやろう」


「あ、ありがとうございます」


 俺は皆を見渡してこう言う。


「出発しよう。嫌な予感がする」


「嫌な予感?」


「ああ。来る時に騎兵隊を見かけただろう?」


「見たな」


「襲われていたら面倒だ。さっさと帰ろう」


 俺はそう言ってエヴラールから金貨三万枚を受け取る。大量の皮袋に分けてあった。

 そして俺を先頭に駆けだした。


 それから丸一日走り続けて翌日の夜。俺が二十二回目の回復魔法を使おうとした時ラポーニヤ魔砦が見えてきた。


「嫌な予感は当たるものだな」


「そうみたいだ」


 ラポーニヤ魔砦が三日くらい前に見かけた騎兵隊に囲まれていた。数は一万強といったところか。籠城戦は三倍以上の敵と戦えると言われているがどうしているのであろうか。


「早く帰ろう」


「待て。どうやって帰る?」


 アシルに言われなければ敵陣に突っ込んでいたところだった。危ない危ない。


「反対側に回りましょう」


 ケリングがそう言った。


「そうだな。気づかれぬように音を立てるなよ」


 俺達は闇夜に紛れて行動した。音を立てなければ気づかれることも無いだろう。


 俺達はこっそり北門側へ回った。大声を出しては気づかれるだろうから手を振って見張りの兵に城門を開けてもらい中に入った。


「お帰りなさいませ。団長のお帰りを我等一同お待ちしておりました」


「ああ。仕事に戻って良いぞ。気をつけてな」


「はは」


 そう言って見張りの兵は城壁上に戻って行った。

 俺達はヌーヴェル達を異空間に戻して四人で最上階へ戻った。


「休みの前に報告だけ済ますぞ」


「俺はやっぱりいらないや。ジル殿の魔法が効いたようだ」


「私もです」


「私は最初からそのつもりでした」


 三人が休みを返却した。


「そうか。では早速だが会議室に皆を集めてくれ」


「はは」


 エヴラールとケリングが去って行った。


「また後で」


「ああ。俺もレリアに帰還の挨拶をしてくる」


 アシルと分かれて部屋に戻る。旅装を解きレリアの部屋を訪ねる。レリアにも部屋はあるのだ。だが俺がいる時は俺の部屋にいるしなんなら俺の部屋にレリアのベッドもある。一つで良いのだが二つある。

 レリアの部屋の前に来てノックする。出発の時はゆっくりしていられなかったからほとんど話さずに行ってしまった。


「レリア、俺だ。ジルだ。戻ったぞ」


 ものすごい勢いで扉が開いた。


「おかえり〜」


 そう言ってレリアが抱きついてきた。俺もギュッとする。


「ただいま」


 そう言って離れる。そしてレリアの部屋に入る。置物一つ一つにレリアっぽさがある部屋だ。


「これからすぐ会議だが変わりなかったか?」


「あたしはね。でもドニスさん?がまずい状況って言ってたよ」


「ドニスが?なんと言っていたのだ?」


「『姫様、万が一にも陥落しましたらドリュケール城へお逃げ下さい。我が命に変えましても道を開きますので』って言ってた」


「ドニスがそこまで…」


「それよりもね、キアラの部下が四人来たよ。それでねキトリーって人の料理が美味しかったの」


「キアラの部下が?」


「うん。ジルの部屋にいたんだけど見なかった?」


「見てないな」


「入れ違いだったのかな?」


「そうかもな」


「でね、キトリーの料理がいつもの料理の何倍も美味しかったの」


「うちの料理人が悲しむだろ」


「確かに…」


 レリアと話しているとノックがされた。俺も疲れているのだろう。気配を察知出来なかった。


「エヴラールです」


 エヴラールか。

 俺がそう思って立ち上がろうとしたが力が入らぬ。


「待ってて」


 レリアが扉を開けた。


「ジル様はご在室でしょうか?」


「ジルはそこにいるよ」


 立ち上がれない。どうしようか。

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